伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから15 恋太郎白書52
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから15 恋太郎白書52

久しぶりに書きました。

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



麻胡は根ほり葉ほりは訊かない。料理して、洗濯して、リゾート施設群にある天文台で星をながめたりした。麻胡が側にいるということは、美酒のように恋太郎を酔わせたものだ。

麻胡が恋太郎の職場に挨拶にゆくと、

「恋太郎にはもったいなさすぎる」

という声があがった。すかさず営業所長が申し出る。

「今度、みんなで笹川流れというところでバーベキュー大会をやります。一緒にいきませんか」

「喜んで」

摩胡はうなづいた。麻胡と美佳の視線が重なり、なにゆえか二人とも微笑んでいた。



兄弟たちと枕を並べていた勇作は早くに目が覚め、そして考えた。かつて自分には婚約者であった美智留意外にも、交際していた女性は存在した。東京にいた学生時代などそうである。いずれも優しくて頭もいい女性たちだ。だが結婚となるとどうもしっくりいかない。原因は何か。答えは判っている。そう、古く大きくしかも傾いた「家」の存在だ。

勇作の家族が多いばかりか、出入りする人も半端なものではない。人が多いということは、あれやこれやいう人も多いということで、そういううるさい周囲をあしらうということは並大抵のことではなく、都会育ちの女性が田舎に嫁いできて精神を病むという話もけっして珍しくはないのである。

勇作の家に嫁ぐには覚悟がいる。その覚悟は努力というもの以上に、もって生まれた資質というものが必要だ。資質とはタフであること以外の何ものでもない。

友里恵はどうか。実家も地方の旧家で勇作と境遇が近い。同僚であり互いの立場も分かりあえる。容姿だって悪くない。考えてみればどうして今まで気がつかなかったのだ。そう考えると急に心臓が高鳴った。

(よし、告げよう。あの人以外にない)

勇作は、出勤の身支度をしているとき、何着か持っているスーツのうちもっともいいのを着込んだ。それを横で見ていた一番下の妹がいった。

「勇作兄さん、気合い入ってるね。告白するの」

「そういうことだ」

「今度こそがんばって」

「おう」

勇作は合戦にでもいくかのような緊迫した面もちである。庭先に出て、門前の路地を歩いてバス停に向かう途中、あたりを観れば霜で覆われており吐く息も白くなっていた。もう年の瀬で今日の終業式を終えたら冬休みとなる。イヴだった。

勇作が学校についたのはいつもより一時間早かった。職員室で生徒に渡す通信簿やら会議用の書類やら机に並べて整理して気持ちを落ち着かせようとするのだが落ち着かない。誰もいない寒々とした職員室のストーブに火つけてから二十分前後が経ったとき、横開きの扉があいて、コートの上にマフラーを巻いた友里恵がはいってきた。

(落ち着け、落ち着くんだ勇作。初めてってわけではなかろうが)

「あら、早いですね、勇作先生。おはようございます」

「あのおっ、友里恵先生」

「はい」

「ぼ、ぼぼぼ、僕と」

「はい、勇作さんと」

友里恵が小首をかしげた。勇作はがちがちに固まっている。

「結婚してください。お願いします」

数分間の会話と沈黙である。二人は何時間も時計の針が止まったように感じた。やがて二人ともそれ以上は口をきかずに急に真っ赤な顔になってそれぞれの席に着いたのである。

(つづく)




【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。
美佳《みか》:恋太郎の同僚。


 
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theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

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comment

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No title

一気に恋太郎さんの物語読ませていただきました。
しばらく、ご無沙汰していたもので・・・
どうなったのかなあ~と、気になったものですから・・・

お父さんの方が進行早いのですね??

今と昔が、良く描けていて、おもしろいです。(*^_^*)

くろこ姫様

恋太郎白書は
商業誌にはない
スタイルをとろうとしています
楽しんでくださっているとのこと
光栄です
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