伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 あづまくだり3 貴紳の恋8
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

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あづまくだり3 貴紳の恋8

昨今の私的には、土日ときたら古典。日本史上究極の美男子といわれた在原業平卿にあいたくなりませんか。原作『伊勢物語』、『貴紳の恋』をお召しくださいませ

【本編】

業平の祖父は平城天皇という。父母ともに皇族である。天皇家嫡流にありながら、『薬子の変』という反乱によって一門は零落、子供のころに一般貴族に身分を落し、在原氏を名乗ったのだ。従五位下。御所《ごしょ》にあがれる殿上人《てんじょうびと》の身分ではあったが末席で、昇進は十年以上も止まっている。

多くが手切れ金をもらって暇をとっていくなか、うだつの上がらぬ主君在原業平《ありわらのなりひら》の都落ちにつきあって、東国にむかう舎人《けらい》が二人いた。佐藤と中居である。

(世に悲しみを歌う者は多くあれども、詠み人の悲しみを昇華させ、訊く人に極上の酔いを誘う天才は、わが殿だけだ。本物の芸術家は在原業平以外に存在しない)

佐藤はそう考えている。

中居は佐藤を介してではあるが、業平という人が、発する言霊《ことば》に驚き、また喜びを感じたものだった。そして、非力な天才歌人をどこまでも守りぬく、ということが天意と信じたのである。



一行は、三河《みかほ》の国から遠江《とおみ》の国、さらに駿河《するが》の国へと進んだ。街道は尾根道《おねみち》となって細くなり、蔦《つた》や楓《かえで》が繁茂《はんも》して鬱蒼《うっそう》としている。業平は思った。

(東国とはこういうところか。遠くにゆけばゆくほど、さびしくなる。私が向かう道とは暗く険しい。上手くやってゆけるのだろうか)

宇津《うつ》の山というところだった。向こう側からようやく人の姿がみえてきた。東国から都に帰る修行僧の一団だった。修行僧の先頭をゆく老人が声をかけてきた。

「このような細道を、なぜにゆかれる」

「空海《くうかい》様ではありませんか」

業平が馬から降りて片膝をつき、僧侶に一礼した。佐藤と中居も主君にならう。空海は話をつづけた。

「仏殿を建立するため、東国で寄付を集っていたところ。これから摂関家にも寄付を乞いにゆくところです」

「摂関家ですか。もし、皇后高子様がお戻りになられましたなら、今から書きます手紙を出して戴きたいのです」

空海が見えなくなるまで、深々と頭を下げて業平は見送った。預けた手紙にはこう書いた。



「駿河の国にある宇津の山のあたりまで来ております。ここまで東に下ってしまうと街道をゆく人は稀。もちろん貴女にお会いすることはかなわず、寂しいばかり。せめて夢の中でも、と思うのですがそれもままなりません」



尾根道が急に開けて、眼前に、三角錐をした壮大な山が望めた。塩尻《しおじり》というのは、往時、浜辺で製塩するときに掻き揚げて盛った塩混じりの砂のことで。ちょうどそんな形をしている。

「すんげえ。あの山、すんげえ」

「あれが有名な富士山だ。比叡山《ひえいざん》を五つばかり重ねた高さだと訊く」

頂きから、もくもくと噴き上がる煙。素っ頓狂《すっとんきょう》な声をあげた中居に答える形で佐藤がいった。業平が一首詠む。

   時知らぬ山は富士の嶺《ね》いつとてか
   鹿の子まだらに雪のふるらむ

例のごとく中居がいった。

「せ、先輩。意味を教えてください」

「なんと季節にそぐわないのだ、富士山は。もう夏だというのに、鹿の子のようにふわふわとした白い斑《まだら》な毛のように、残雪を戴いている」

佐藤は続けた。

「こうも解釈できる。はるかに季節を逸した残雪とは、失恋しても募る思いではなかろうか」

中居がまた大泣きしそうになったので、佐藤はそれ以上いううのをやめた。

「中居。まただ。後ろの茂みでこちらをうかがっている者がいる」

小柄な中居がうなづく。刹那《せつな》、茂みから主君を狙って刀子《とうす》が飛んできた。瞬時に佐藤が盾となる。刀子は偉丈夫の舎人《けらい》がさしだした佩刀《はいとう》の柄に刺さった。

同時に中居が応戦する。

「返し羅漢《らかん》」

烏帽子《えぼし》の内に潜ませた半月形の特殊な匕首《あいくち》を頭の戴きに構え、茂みにむかって放つ。敵は転がるようにして逃げた。だが放物線を描いて中居の匕首が追いかけてくるではないか。匕首は木々の合間を縫って戻ってくる。中居は再び頭の戴きで、ぴたっ、と両手で挟みこむ。

「中居の『返し羅漢』をかわすとは、かなりの手練れ。楽しませてくれるわ」

はにかんだ馬上の佐藤が肩腕をあげると、白鷹の松風《まつかぜ》が舞い降りてきた。

富士を背景に、三騎はまた駒を東へと進めたのだった。

(つづく)



【脚注】 『伊勢物語』第九段「から衣」より

在原業平《ありわらのなりひら》:本朝一の色好み。放浪の天才歌人にして貴族。

佐藤と中居:業平の舎人《けらい》。

松風:業平が飼う白鷹。

藤原高子《ふじわらのたかいこ》:摂関家の娘にして皇后。業平の永遠の恋人。


※ 中居の必殺技「返し羅漢《かえしらかん》」は、『ウルトラセブン』のアイススラッカーが元だったりします。(ぺこり)

※ 塩尻に誤記がありました。食膳の塩の盛り付けだと思い込んでいたら違いました。
正しくは古代製塩技法の用語でした。以下は本文に示します。

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