伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから10 恋太郎白書47
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから10 恋太郎白書47

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



新潟県の海岸というのは、もともと潮の流れがきついうえに、河川や海岸を大土木工事したために、海岸線はえぐれているため、海水浴場と入っても、実際には遊泳に適さないところがある。ただ紫雲寺海岸というところは別だった。新発田市にある海岸で遠浅である。

休日、会社の同僚に誘われて恋太郎はそこで遊泳を楽しむことにした。恋太郎という青年は若い娘を無防備にさせる独特の体臭があるようだ。水着姿のロシア女性二人が寝そべっていて目が合うと微笑んだ。遠巻きに、物欲しそうな目つきで女性たちを注視していたアラブ風の男連れも、どういうわけだか恋太郎をみて微笑む。

沖には、人工島ともいえる油井施設が浮かんでいるのが望める。(外国人たちは、あれの関係者だろうか)などと、恋太郎は考えるのだった。

波打ち際で泳いでいると、サーフィンが、すぐ横をかすめていく。

「危ないじゃないか」

「ごめんなさい」

二十歳くらいだろうか。細身の若い娘だ。小麦色の肌をしている。

翌日、新潟営業所に出勤すると、みたことのある顔があった。営業所長が深々と一礼した女性職員を紹介した。

「派遣社員の美佳《みか》さんだ。恋太郎君のサポートをしてもらうことになった」

「あれ、昨日の暴走サーファー」

「奇遇ですね」

美佳は、早速、恋太郎の机の隣に座り、パソコンの打ち込みを始めた。



国鉄平駅(現在のJRいわき駅)の東に位置する平城南中学校をさらに東へ向かうと新舞子(しんまいこ)という太平洋に臨んだ長い砂浜につきあたる。江戸時代の画家安藤広重が描いた『日本百景』の場所のひとつだ。数キロある長い砂浜で、浜辺には松が植えられていた。そしてもうあまり多くはなかったが、砂浜の砂を採掘する馬車がいまだに行き交っていた。

新舞子付近には勇作の母親の実家があった。あったというのは、勇作の母親の実家は富裕であったが株に手をだしていたらしく世界恐慌のあおりで破産したのだ。勇作が母親の実家の前を通るたびに、せつなげな感慨をおぼえるのだが、胃潰瘍の患部がしくしくと痛み、この日ばかりは忘れることができた。

  遠足の隊列は1組で、2組・3組と順番に5組までの生徒たちが並んで目的地を目指していた。1組担任は勇作である。勇作の教室の生徒たちの列の後に続く2組の担当が友里恵だ。

友里恵は、教頭に頼まれたこともあって、勇作の容態を気にかけつつ、自分の受け持ちクラスの生徒たちと一緒に田園地帯の未舗装の路地を歩いた。

水田には水が張られ、蛙がやら鮒(ふな)やらが泳いでいる。水田の端には古い集落があった。集落には、一本松を戴いた瀟洒(しょうしゃ)な兜塚古墳(かぶとづかこふん)があり、近くには古墳被葬者が造営したのではないかと伝えられる大國魂神社(おおくにたまじんじゃ)がたたずんでいる。やがて新舞子の松並木がみえてきた。

福島県東部の海岸線では、東流する川が海に注がれようとするとき、激しい潮にあらがうことがかなわずに砂浜が自然の堤(つづみ)となって河口を北へ北へと押し上げていく。ゆえに新舞子の松並木に沿うかたちの横川となるのである。

隊列を組んでのんびり歩いていた生徒たちは横川を渡ったとき、話し声が大きくなった。潮騒(しおさい)に負けぬようにしなければ話が伝わらないのと、進化の源にいたる原始の記憶が五感を震わせるのかもしれない。

(ようやくついた)

教師たちも生徒たちも一様に喜んだ。砂浜に近い松並木の木陰に腰を下ろして弁当を広げだした。初夏とはいうが海水は夏も冷たくて、波間に近づけば涼風というよりは肌寒くすらある。新舞子あたりの波は荒くて遊泳よりはサーフィンに向いている。

友里恵が食事を終えたとき、

「友里恵先生、たいへんです」

という生徒たちの声を訊いて浜辺に走り出した。



(つづく)


【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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