伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪がふっていたから9 恋太郎白書46
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪がふっていたから9 恋太郎白書46

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



麻胡の休暇も終わりに近くなった頃、恋太郎に新潟県出張の話が持ち上がった。

(向こうの営業所の人手が足りない。仕方ないだろ)

業務命令だから逆らえない、麻胡のいる首都圏からも、それぞれの実家からも遠い。

「ときどき電話してね」

長距離バスターミナルに立って、麻胡が恋太郎を見送った。それにしても、なんとういうタイミングの悪さなのだろう。恋太郎は麻胡が見えなくなるまで、後部窓をみつめてつづけた。



著者がたまたま知り合ったとある男性教員の方がこんなことをおっしゃっておられた。

(クラスをうまくまとめようと思ったら、女子生徒たちの支持をまず得ることだ)

同じことが職場においてもいえる。卓也が職員室から手洗いに席を外すと、待ってましたとばかりに、職員室にいた女性教職員たちが急に噂話を始めた。

「私、見ちゃったんですよ。卓也先生、市会議員の娘さんと映画館に入ったのよ」

「ああっ、ショックう」

「それでそれで」

「卓也先生って、ほかにもどなたかとお付き合いしているみたいよ」

「不潔、最低」

話題の中心人物がちらりとやや離れた席にいる友里恵に目をやった。友里恵はその輪には入らなかったが会話は耳に入ってきた。いまとなっては男性が女性を食事に誘うということを、必ずしもデートに誘うという感覚はそうはないと思う。けれども、この時代の人たちにとっては、男女二人の食事とはデート以外の何物でもなかったのだ。

フレンチ・レストランの一件で、少し気まずくはなったが、卓也はそれ以後も事あるごとに友里恵に対し、食事やら贈り物やらを欠かすことはなかったのである。衝撃というほどではないのだが、友里恵にとっては最初が好印象であったぶんやはり不快な話だった。

(信じられない人だ)

一度烙印が押されると、友里恵の中での卓也は、どんどん男度を下げていく。それは女性教職員全体でも同じだ。幸か不幸か病欠と称して自宅に篭もっている勇作の破談の話は、校長の胸三寸に収められ、職員室の〈口やかましい勢力〉に漏れることはなく、卓也のような暴落にいたらなかったことは勇作にとって不幸中の幸いである。

翌週、体調不調を訴えて一週間近く寝込んでいた勇作がげっそりやつれて職員室に戻ってきた。美智留に対する罪悪感からか急性胃潰瘍を患い、市民病院で処方された粉薬を服用しながらの出勤である。

やがて教頭がやってきて朝の打ち合わせが始まった。

「今週は遠足です。海に行きますので、生徒たちがじゃれあっているうちに、海にはいって波にさらわれたりしないように注意しましょう。まっ、小学生じゃないからそんなことはないでようけどね、一般論ですよ、あはは」

友里恵は、挨拶以外にいつものように口をきかない隣に座った勇作の様子が気になって仕方がなかった。

(つづく)



【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。仙女。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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