伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 あづまくだり1 貴紳の恋6
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

あづまくだり1 貴紳の恋6

恋太郎」も少し重たくなってきましたので、一年ぶりに再開する『貴紳の恋』で息抜きなさってください。はじめてご覧になる方は、第1部第1~5話をご覧くださいませ。ここから読み始めても問題はないですが。では。

【本編】

なにゆえに貴女《あなた》は藤原高子《ふじわらのたかいこ》なのだ。男はそう思った。

峠を振り返れば京の都。逢坂《おうざか》の関を越え、東国へと旅立つ主従三騎がいた。摂関家藤原氏令嬢との許されざる恋に破れ、失恋の旅路に向かう途上の在原業平《ありわらのなりひら》と、その舎人《けらい》である佐藤と中居だ。馬のあとを先に行きつ戻りつしているのは白鷹の松風《まつかぜ》である。

伊勢と尾張の境を通り過ぎたとき、白波が盛んに波打っている。

  いとどしく過ぎゆくかたの恋しきに
  うらやましくもかへる浪《なみ》かな

業平卿が詠んだ歌を耳にした中居が、佐藤に訊いた。中居は小柄で猿のような動作をする。

「いい歌だと思うんですが、俺、無学だから、意味が判んねっすよ。教えてください、先輩」

「日が経つごとにますます都から離れてしまう。寄せては返す浪よ、おまえは、うらやましい。帰るところがあるのだからなあ」

佐藤は偉丈夫《いじょうぶ》というにふさわしい体躯《たいく》をしている。波打ち際に駒を歩ませ、腕を伸ばすと白鷹が舞い降りた。話を続ける。

「わが殿の帰るべきところは都の殿上《てんじょう》におわす高子様。しかしそれは許されぬことだ。恋の痛手は予想以上深い。東国への旅路で癒《い》やされて戴きたいものだ」

うおおおっ。

主従三騎のうち、いちばん後ろにいた中居が、轟《とどろ》く浪よりも大きな声をあげ、先にいた二人を越して駆け出した。泣き顔だ。

(阿呆《あほう》め)

佐藤がつぶやく。


(つづく)



【脚注】 『伊勢物語』第七段「かへる浪かな」より

在原業平《ありわらのなりひら》:本朝一の色好み。放浪の天才歌人にして貴族。

佐藤と中居:業平の舎人《けらい》。

松風:業平が飼う白鷹。

藤原高子《ふじわらのたかいこ》:摂関家の娘にして皇后。業平の永遠の恋人。
スポンサーサイト

theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line