伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから7 恋太郎白書44
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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雪が降っていたから7 恋太郎白書44

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



子供の頃、恋太郎は父勇作の書斎書棚に何気なく載せられていたアルバムをみつけ開いたことがある。太平洋戦争から帰還してほどなく病死した祖父。曾祖母に抱かれた勇作。少年時代と続く。そのなかに、知らない、ほっそりとした夏の装いをした女性がいた。

勇作他界後、法要に集まった叔父や叔母に話をきくと、その人こそが美智留だったと訊かされることになる。麻胡にアルバムのことを話したとき、恋太郎は、目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。 



内郷中央小学校には勇作の一番下の弟と妹が通っていた。これまた安いドラマのように妹の担任が美智留だった。勇作は妹に頻繁に手紙を持たせては美智留に届けさせたのだから世間は狭いものである。

妹はませている。こういうことは心得たとばかりに、他の児童たちには気づかせず美智留のところにいき、宿題の質問をするのを装ってさりげなく恋文を挟めたノートを渡すのだ。

美智留も演技して受け取る。

「いい子ね、休憩時間が終わるまでにみておくね」

手紙は、

(重要な話がある。夕刻、内郷駅前の喫茶店で待っているからきてほしい)

という内容だった。

世の中では、「空気を読めだ」の、「読まない」だのといったりいわれたりする。「空気」とはなんなのだろう。(相手のいわんとすることを理解しない人)というのが一般論だ。確かにそういう面もある。けれども思うに、(真の意味で思いやりに欠ける)という意味ではなかろうか。その点、美智留は、気遣いすぎてパニックを起こすだけで察しは良いほうだ。

喫茶店の内装は、あらゆるものが暗いニスで塗ったくられていた。レジ、カウンター、椅子、テーブル。違う色をみつけるとすれば玄関口に置かれた赤い公衆電話と観葉植物の濃い緑の葉くらいのもの。辛い煙草と甘く苦い珈琲がからまった喫茶店特有の匂いがする。案の定、美智留が呼び出された喫茶店で勇作にいわれた言葉は、

「俺を振ってくれないか」

だった。

この男、自分のほかに好きな女性がいるわけでもないのに頭まで下げている。理由はわかっている。勇作の家の、〈家風〉にそぐわないのだ。勇作はただひたすらに、テーブルに額をこりつけるだけであった。百八十センチを超える体躯をした男が、小柄な年少の女性に頭を下げ続けた。美智留は悔しくて涙がとまらないのだけれども、責めることもできずにいた。しばらくして置時計が六時をしらせる鐘を鳴らした。一方、友里恵のいるアパートでは。



部屋は1K、友里恵は来訪者を少し待たせて、重い身体を引きずるように布団を押入れに突っ込んで、どうにか玄関口に立ち、来訪者を部屋に迎えると茶の支度をした。けっして吾郎は悪人ではなく職員室でも、「いい人」で通っている。欠点といえば空気を読めない人ということだ。アパート近所の花屋で買った花数輪を新聞紙に巻いて友里恵に渡し、

「風邪ですか。ご加減が悪いとききうかがいました。大事にしてくださいよ」

などという言葉で切り出して延々世間話を続ける。

堪らなくなった友里恵は、「ちょっと下に行きます」といって部屋を出ると階下の大家の部屋へ逃げ込んで、

「男の人が部屋に居座ちゃって、しばらく休ませていただけませんか」

と助けを求めた。待たされたほうの吾郎は、暗くなっても友里恵が戻ってこないので帰るほかはなかった、という次第である。

(つづく) 
 




【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。仙女。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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theme : 自作連載ファンタジー小説
genre : 小説・文学

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comment

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No title

雪が降っていたから・・・

読ませていただきました。
続きが楽しみです。

昔の家庭事情・・なるほどと思います。
主人が昔、大きな農家の息子でした。

今は落ちぶれていますが・・・

主人の家は、男尊女卑で、食事の時に、
1人づつ、お膳に座って、正座して食べるような家でしたよ・・
長男の嫁は、いつも控えていて、一緒の席では食べた事ないです。台所で流しこむような、食事をしていましたよ・・

くろこ姫様

大なり小なり、むかしはこんな感じだったようです
しぶとくこらえて、お姑さんになると、絶大な権力を掌中に
という一面もありましたよね

知っていらしたとは
現在ではもはやファンタジーなのかもしれない世界ですねえ
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