伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから6 恋太郎白書43
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから6 恋太郎白書43

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



麻胡を初めて家に連れて行ったとき、勇作の意外そうな顔をといったらなかった。恋太郎と麻胡は、螺鈿《らでん》細工を施した卓を挟んで、勇作と友里恵の夫妻が対峙していた。

「結婚を反対する理由。

第一に、恋太郎ごとき非才の小僧っ子に、あなたのような才媛が嫁になる。経験上、こういう場合、妻側がだんだんと夫を見下してゆき離婚に至る経緯がある。分不相応ということです。
 
第二に、失礼ながら年齢的な問題。子供が産めるかどうかということがあります。

第三に、遺伝的な問題。貴女《あなた》が、仙女の系譜をひき、ご自身までもの未来を見通す能力があるという話、この町で知らぬものはありません。「未来を知ってしまう」ということ。何て残酷なことなんだ。予言者なんて、わが家の子孫にはいりません。重たい十字架を何代も背負わねばならなくなるなんて」

勇作は腕組みしている。若い二人に、友里恵が助け船をだした。

「麻胡さん、未来を見通すのよね。恋太郎と結婚し添い遂げること、子供を産むこと。判っているのですもの。『特別な力』のほうは私も、『ちょっと』とおもうけれど、お父さん、これは『運命』ですよ」

「『運命』だと。そんなもので縛りつけられるのが嫌なんだ。俺は反対だ」

縁側越しにみえる池に棲む鯉が、大きく、水面から跳ね上がった。



婚約者の名前は美智留(みちる)という。江戸時代から続く温泉旅館の娘で小学校の教師だった。出会ったのは、大学を卒業したてで代用教員の時だった。中学校ではなく内郷中央小学校に配属されたときの同僚だ。

結婚については母親を理屈で強引にねじ伏せる自信はあった。けれども、母親のいうように、美智留が勇作の家の重圧に耐えられるとはとうてい思えなかった。受け持ちクラスの男子児童が喧嘩をしたとき、おろおろして、しかりつけたりできず、落ち込んで職員室で泣いてしまうタイプの教師だった。繊細すぎるのだ。

(家をでてアパートを借り、二人して住みたいものだ)

そんなふうにも考えた。すると、どうなるか。弟や妹たちはどうなるのだろう。土地を失って収入の途絶えた屋敷は5百坪に近く、これを維持することが出来なくなって、手放すことになる。弟妹は六人いる。次弟がまた炭鉱に入って重労働をし、弟妹を食わせるというのだろうか、屋敷を手放すということは、実質的に家族が離散することを意味する。

グラウンドで野球部のノックをしていた勇作が、珍しく空振りしたのをみた生徒たちが、けらけら笑った。勇作は野球部顧問兼監督を務めていたのだ。

「なにがおかしい」

野球部員の生徒たちが顔を見合わせた。

「ゴジラのやつ、荒れてやがる。何かあったのかなあ?」

ゴジラといわれた勇作は、もう一度ノックをした。どうにかあたりはしたが、球があらぬ方向の空に消えていった。

週のはじめに卓也に誘われてフレンチ・レストランに行った友里恵だが、家庭訪問で疲れたところを、遅くまで一緒に時間をすごしてから帰ったため風邪をひいてしまった。風邪は週末になっても治らない。そのため午後は早退してアパートで横になっていたところ、ノックする音がしたので、友里恵は飛び起きた。

「お見舞いに参りました。吾郎です」

「えっ、吾郎先生」

二年担当で数学を受け持っている。窓際の友里恵の席から少し離れた入口に近いところが吾郎の縄張りだ。

(つづく)


 


【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。仙女。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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