伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから5 恋太郎白書42
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから5 恋太郎白書42

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



麻胡を車に乗せ、駅から実家に戻る。助手席の妻が恋太郎にいった。

「あのときも、あなたは私を迎えに来てくれた。なんだか、思い出すわ」

息子と元教師の縁談を訊いたとき、勇作は喜んではおらず、反対していた。



平市から内郷市までバスがでていた。幹線道路である国道六号線はまだ舗装されてはおらず、五キロばかりの道のりを四十分ちかくかけて移動する。勇作はこのバスに乗って通勤していた。

帰宅すると母親が食事の支度をしていた。大きな食卓だ。勇作が座ると食事が始まる。元の隠居屋で仮住まいをしている鈴木親子はそこで食事をとるのだが、居候は、馬屋あとの門二階にある部屋から降りてきて勇作の家族と食事を共にする。母親と勇作、それに弟妹三人ずつ、それに居候をあわせた九人の食事だ。

食事の後の風呂はさらに凄かった。浴槽の下から湯を沸かす五右衛門風呂というタイプで、ホテルのバスタブよりは広いけれども温泉旅館のものよりははるかに小さい。

風呂桶ひとつに勇作の家族九人に加えて鈴木家、さらに近所の吉田家が借りにくる。銭湯でもないのに一つの風呂に二十人が入るのだ。戦時中の防火対策の名残らしい。毎日がこうだった。

勇作が、弟たちと一緒に風呂に入り、交互に浴槽と洗い場を譲り合って汗を流し、外に出た。風呂から上がると母親が、「話がある」といって勇作を仏間に呼んだ。

「やっぱり、あの娘では、うちの家風には耐えられない。私は結婚に反対します」

「お袋よ、あの娘は、うちと結婚するんじゃない。俺とするんだ」

平手が思いきり勇作の頬にあたった。

「お父様は亡くなったの。あなたが四百年つづいたこの家の当主よ。弟と妹、みんなを食べさせるのが義務」

勇作はマザコンというわけではない。戦地から帰ってきたばかりの父親が病死したときはモルヒネを使った安楽死であった。臨終の床で、勇作は、「あとを頼む」といわれた。母親のいっている言葉はまさに父親の遺言だった。これをいわれるとぐうの音も出ない。

大学の学費は、炭鉱夫のアルバイトをして勇作自身も稼ぎはしたが足らず、母親が少なくなった田畑をさらに数枚売って勇作の学費にあてがった。その間の一家の主要な収入は次弟がやはり炭鉱に入って支えた。古い体質を引きずった家なのだ。

卓也が友里恵を誘ったル・トン・デ・ローズという店は、磐城地方に一店舗だけあるフレンチ・レストランだ。議員、常磐炭鉱や銀行の幹部といった名士が常連となっている気取った店で、ヴァイオリニストやピアニストがディナー演奏をしている。

(高そう)

友里恵がそんなふうに思っていると、卓也は支配人に、「例のものを」といって、預かってもらっていた薔薇の花束を受け取った。そして花束をごく自然に友里恵に手渡したのだった。

(つづく)



【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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