伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから4 恋太郎白書41
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから4 恋太郎白書41

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



車に乗り駅まで麻胡を迎えにゆく。かつて平と呼ばれていた駅名は、いわき駅と名を改められていた。特急スーパーひたちが停車する。けたたましい構内アナウンス。

黒いスーツ、トップモデルのように颯爽《さっそう》とした足並みで歩く女性がいた。麻胡先生。元高校教師で、今は宇宙飛行士。米国に長く滞在しているためか、欧米スタイルだ。小ぶりな肩、くびれた胴、長い手足。トランクを肩手に駅改札口で、恋太郎をみつけたその人が、「お久しぶり」と年若い夫を抱擁すると、駅を行き交う人々が、いっせいに、振り返った。

「やつれたね」

「親だから」

恋太郎は赤面しつつも、その人にあわせた。


 
福島県東部の海岸地帯を浜通り地方といい、浜通り南部を限定すれば磐城《いわき》地方ともいった。磐城地方は石炭産業で賑わうところであったが、平はその富が集積され商業で賑わっていた。このあたりでは比較的大きな城下町でもあったことから、勇作が勤める城南中学校の生徒たちは、老舗の子弟たちが多かった。

勇作は新学期の挨拶《あいさつ》をした。教室にいる生徒数は五十人を超えている。名簿を読みあげるのだが、覚えるのも一苦労だ。昼食の時間になって、職員室で弁当を開くと、遅れて戻ってきた勇作が自分の弁当を開いて、おかずを友里恵にすすめた。

「これ、お袋がつくってくれた弁当です。友里恵先生、どうです、鮭の塩引きと筋子、いけますよ」

「おいしそうですね」

とはいう友里恵であるが、物流の悪かった当時、山国である会津地方の人々は概して海産物に親しんではおらず、生臭く感じて敬遠したものだった。友里恵も典型的な会津人である。だがこれからしばらく隣席にいるであろう勇作を弁当の具ひとつで、敵に回すのも愚かしいとも思い、目をつぶって口に放りこんだ。

(きゃあっ、生臭い)

勇作が笑みを浮かべて、

「どうです、特に皮のところが脂がのっててうまいんですよ」

といった。友里恵は無理に笑みを浮かべてうなづいた。

「勇作先生の受け持ちは社会科でしたよね」

「ええそうです。教室は一年一組、友里恵先生のお隣、これまた奇遇だ。あはは」

四月、教員がやる第一のイベントは家庭訪問である。午後になって、生徒たちは一斉に帰宅し、教員たちはそれぞれ自分が担当する生徒たちの家を訪ねていったのだった。新品の自転車に乗った若い女性教師は、黒い亙屋根の古い商店街街路をぬって家々を回っていく。その途中、やはり自転車に乗った同僚の教師がやってきた。いつも白いスーツをきた卓也という体育教師だ。

「友里恵先生、あとどれくらいですか」

「二人です。卓也先生は」

「同じです。これから僕は本町通りに行きます。先生は」

「私も本町通りに行きます」

「ちょうどいい。今日は外食の予定なんですよ。一人じゃさびしいからつきあってくださいよ。ご馳走しますよ」

「そんなあ、申し訳ないですよ」

「ああっ、僕に恥をかかせるのですね。つれないですねえ。六時にル・トン・デ・ローズにきてくださいね。絶対ですよ」

(行ってしまった)

白スーツの卓也は勇作ほど長身ではないが細身であり、同僚の女性教職員からの受けはかなりいい。友里恵にとって、卓也に食事に誘われたことは不快なことではなかった。

(つづく)


【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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