伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雪が降っていたから3 恋太郎白書40 
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雪が降っていたから3 恋太郎白書40 

【本編】 

むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。 



恋太郎の携帯に、年上の妻である麻胡から電話が入った。麻胡は、単身アメリカで勤務しており、たまにしか会うことはない。

「お父様がなくなられたとのこと、お寂しくなりますね。今、空港に着いたところ。特急列車のチケットを買ったわ。駅に着いたら連絡します」

やたらと蝉が鳴く夏だった。布団に横たわる勇作の遺体はドライアイスで冷やされている。あれほど黒かった肌は白くなっていて、まるで百歳を超えた老人のように細くなってしまっている。



福島県西部にある会津若松から磐越線で東にむかうと
終着駅の平駅(現いわき駅)となる。平駅から常磐線で上野行きに乗り換え、一つめの駅が内郷市のある内郷駅だ。

内郷市は小さな炭鉱町で勇作の実家があった。四百年つづく旧家だ。寡婦となった母親と弟・妹とがそれぞれ3人いる。さらに故人である先代当主の隠居屋には鈴木家の家族六人が間借りしており、二階建てとなっている馬小屋を改装した門の上には居候が一人住んでいる。核家族があたりまえとなった現在では信じられない大家族、家風は「千客万来」。

数代前の当主が新興宗教に熱を上げ、戦後の農地解放、父親の早世で勇作の家はだいぶ財は傾いた。傾いたのは財ばかりではない。屋敷そのものが地下の炭鉱鉱脈掘削で傾いてしまったのだ。母親は良人《おっと》と財を失ったものの、人をもてなすことで、うまく人を使う方法を心得ていた。それでわずかに残った土地と屋敷を維持し子供たちを育てていた。

勇作には婚約者がいた。資産家のご令嬢で小学校教諭。末の妹の担任でもある。田舎はなにかと行事が多く、勇作の家をいろいろと手伝いもしたのだが、戸惑いがちで動きが悪く、母親からみれば、どうにも心もとなく思えて時代を託すには不満があった。



平市に着いた友里恵は、まず学校から紹介された不動産に行ってアパートに入った。同じアパートの一階に住む大家に挨拶し、まずは自転車を買った。平は、友里恵の故郷である会津若松市と同じ城下町であるのが少し寂しさを払拭させた。

いい天気だ。同じ福島県内であるというのに気候はまるで違う。会津若松と違って雪などない。早速、自転車で探険がてら買い物に出かけた。

本屋、文具店、楽器店がならぶメインストリートを走りウインドーショッピングを楽しみ、それから金物屋で鍋やら食器、食材を買ってアパートに戻った。

どうにか友里恵の部屋に生活感がでてきたころ、四月新学期となった。校長に挨拶してから職員室に入った。

「このたび着任いたしました友里恵です。英語を担当します」

「あっれええっ」

素っ頓狂《すっとんきょう》な声があがった。声の主は勇作だった。昔からあるドラマのような展開、ほんとうにこういう偶然もあるものらしい。しかも友里恵は勇作の隣の席ではないか。

(つづく)


【脚注】

恋太郎《れんたろう》:勇作と友里恵の子。会社員。
麻胡《まこ》:恋太郎の妻。宇宙飛行士。
勇作:斜陽の旧家当主。教師。登山家。
友里恵:勇作の妻になる。教師。

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