伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 雫編2/7① 「パスタ」 恋太郎白書32(1/2)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

雫編2/7① 「パスタ」 恋太郎白書32(1/2)

【本編】
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むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎《れんたろう》とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。
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恋太郎は雫《しずく》に、「今度の土曜日に、パスタでもどうです」と誘われて部屋を訪ねるようになった。五階建てのマンションで一DKルームを借りている。雫の部屋は五階。なかに入ると新築特有のにおいがする。学生が一人で住むには贅沢すぎるのだが見事なくらいになにもない。
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バルコニーのサッシにパールホワイトのカーテン。八畳のダイニングキッチンは、フローリングで、クッションが二つ、脚の短いテーブルが一つある。
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丸の内線というのは半端な出来具合の地下鉄で、ところどころ地上を走る。バルコニーから、丸の内線を望むことができる。恋太郎は都会というものを眺望し楽しんだ。
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「すごい部屋だね、雫さん」
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「私って、私生児なの。地方財閥っていうのかしら、お父さんってよんでいいのかどうか判らないけれど、遺伝子の半分をくれた男性は、会長をしていて、母は愛人。私は、お金にだけは不自由することがなかったけれど、そのぶんその人に抱っこされたことはなかった。上京してからは会ってないかな」
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雫は、淡々と身の上を語りだした。
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「悲しそうにみえないけれど、寂しくなかったの」
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「寂しくはなかったよ。そのぶん、お母さんが愛してくれたから」
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雫は冷蔵庫から、イタリアワインをとりだして、グラスに注いだ。ワインなど口にしたら、「きざだ」と鼻で笑われる時代だ。学生たちはビールか、日本酒、あるいは安物のの焼酎を飲む。洋酒は全般に関税で値段が吊り上げれていた。
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トスカーナ産の赤ワイン。雫は一口含んだとたん、突然、がたがた、震えだした。
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「どうした」
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「うん、なんでもない。ちょっとシャワーを浴びていいかしら。身体を温めると治るの」
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「そう」
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曇りガラスのむこうがわに、ピンボケした若い娘の裸がみえる。恋太郎の心臓は、どきどき、と高まる。(雫さんは細すぎるな。絵のモデルにはむかないよ)とつぶやいて、大きな冷蔵庫を勝手に開けて、野菜を取出し、手慣れた手つきで、野菜をきざみ、オリーブ油を敷いたフライパンに、それと一緒に、ゆでたパスタを炒めだす。
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皿にパスタを盛ろうとしたとき、雫がバスタオル姿で、浴室から顔をだして、ちょっと顔をだし、
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「あ、恋太郎君、お昼に誘ったの私なのに、つくらせちゃってごめんなさい」
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「料理つくるの好きなんだ。気にしなくてもいいよ」
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「どういうわけだか、ここのお部屋って脱衣場がないの。ちょっと後ろをむいててもらっていい」
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「気が利かなくてごめん」
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恋太郎が後ろをむいた。雫が着替えている様子はない。否、近づいて背後にきている。バスタオルが落ちた。二つの乳房の温もりをシャツごしの背中に感じ、あらわとなった両腕が、恋太郎を柔らかく抱きしめる。まだ濡れた長い髪が恋太郎の首筋に触れる。
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「一緒に暮らしてほしいの。お願い」
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腕は湯気がたち、吐息が耳に感じる。
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恋太郎は目を白黒させるほかてだてがない。
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【脚注】
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恋太郎《れんたろう》/ 東京郊外の大学に通う学生。本編の主人公。
愛也《よしや》/ 恋太郎の幼なじみ。恋太郎の大学近くにアパートを借りている学生。
マダムと美咲《みさき》/ 喫茶店〝めらんこりい〟オーナーと女子高に通う娘。
ポモリ教授/ 恋太郎の通う大学で教鞭を執る。
麻胡《まこ》先生/ 恋太郎と愛也の高校時代の化学教師で現在は大学院生。仙女の系譜をひく。在職中、男子生徒の絶大な支持があった。華僑系帰化人の孫娘。
 雫《しずく》/恋太郎の大学同期生。

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