伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 宰相謀反3 (ファア王国志3)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

宰相謀反3 (ファア王国志3)

王宮前の広場を囲んで、宰相配下の将兵たちが、城壁の上下に陣取っている。玉座には執政シュナが座り、両脇にいた二人の王妃は縄で縛られ、王の側近たちは、後ろ手を縛られて広場の中央をみさせられていた。
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「主公《わがきみ》、腹心や王妃方にぶちのめされる様《ざま》をお見せするとよろしかろう」
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シュナは鼻で笑った。
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王妃たちや腹心は、それぞれに、ユンリイ王を呼んだ。
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王は縄でこそ縛られてはいなかったが丸腰で、眼前には、十尺(二百センチ)を超える筋骨の異様発達した巨漢がおり、指や首を鳴らしては幽囚の王を見下しているではないか。執政シュナは続けた。
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「そいつは素手で敵将をへし折ったことがある。威徳とやらで、ひれ伏せさせていただけませんかな、主公《わがきみ》」
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腹心たちは、シュナにむかって、「無礼者」と叫ぶ。返事を返すように、シュナは鞘に納めた剣で腹心たちの顔面を打ち弾き飛ばした。
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宰相一党の歓声が上がり、銅鑼が鳴らされ勝負が始まった。
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対峙しながら大男は間合いを詰めてゆく。ユンリイも相手の動きに合わせつつ一定の距離をあけていた。大男がつかみかかろうとすると、ユンリイは逃げ、引けばユンリイは間合いを詰めた。大男は少し苛立ちを隠さない。
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「なにが王だ」
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大男は舌なめずりして、ユンリイを挑発する。ユンリイは、ふん、と一瞥《いちべつ》する。大男は、つかみかかろうとするのだが、相手に逃げられ空を抱く格好となる。すかさず、ユンリイは相手の脛《すね》を蹴った。
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「効かんな」
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大男のいうように、確かに効いている様子はない。
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ユンリイが次に仕掛けようとしたとき、縄で縛られた副妃ルイが、駆け寄ろうとしたのを、シュナが立ちはだかり、平手打ちにした。
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王の動きが止まったところで、大男は腹部に拳を突っ込む。細身の王は弾き飛ばされ、シュナの配下の雑兵たちの列によろめく。雑兵たちは、ここぞとばかりに、王の尻や背に蹴りを入れ、屠殺者をきどった大男の待ち受ける広場の中ほどに突返した。
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前かがみになったユンリイの頭部に大男が両拳を叩き下ろそうとしようとしたが、辛うじて逃れる。逃れる間際、王はまたしても大男の脛を蹴った。
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「おまえの主人は年端もゆかぬ乙女の頬に平手をいれたぞ」
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「それがどうした。野蛮人ルーコンの娘ではないか」
.
「ルイは賢く美しいが、おまえは筋肉ばかりで猿ほどの知力しかない。きいきい鳴いてみよ」
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大男がつかみかかろうとすると、また王は相手の脛を蹴った。蹴りが効いてきた。大男が攻撃を加えるたびにユンリイは相手の同じ箇所ばかりを何度も蹴るので、ついに脚をひきずりだす。ユンリイがほくそ笑む。
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(奴の動きは封じた。打撃を加えてきた脛《すね》に渾身《こんしん》の一撃。奴はたまらず片脚を上げる。金的ががらあきになったところで一撃。前のめり崩れてきたところで、頭部に一撃。これで奴はしまいだ)
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ユンリイは、想い描いた通りに相手を倒した。シュナが、いまいましげに、「王を捕え、脚を切り落とせ」と命じ、雑兵たちが捕えようとしたのだけれども、刹那、複数の火矢が射込まれ阻まれる。王宮の外で地響きが鳴りだしてきた。戦象のものだ。
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「近衛軍。王を人質にしているのだぞ。王もろとも焼き殺す度胸が、奴らにあるというのか」
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シュナが叫ぶと、配下の伝令が、
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「内親王殿下の軍勢が、王都城外にいた友軍五千を撃破しました。近衛兵の主力が合流してゆきます」
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と告げた。
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宰相ガナオが駆け寄ってきて、
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「何という愚かなことをしているのだ、シュナ」
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宰相は王と目が合うと、視線をそらし、従兄弟の執政に、
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「本領に引きあげるぞ」
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と告げた。シュナの配下たちは、ユンリイ王を捕縛しようとしたのだが、王は雑兵の一人から剣を奪って大立ち回りをしだす。シュナは、王を大人しくさせるため、雑兵たちに、「王妃たちの喉元に剣をつきつけよ」と命じた。だが、二人は縄を、するり、と抜けて宮殿の柱列群を蹴りながら奥へと消えてゆく。
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(猫かぶりにだまされておったわ。王妃どもはルーコン氏族、山猫だ)
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シュナが舌打ちする。
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直後、破城槌《はじょうつい》で城門を突き破った。破城槌は攻城兵器の一種で、分厚い板で覆われた装甲車だ。内部の兵士たちが装甲車を押して、横にした丸太を城門にぶつけて壊すのだ。
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近衛軍のセオの率いる百人隊が破城槌で城門を破ると、ヤンやランといった王臣たちの戦象に率いられた隊伍が続いて斬りこんでくる。王は、うまうまと、味方の軍勢に合流することに成功した。
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(つづく) 

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【脚注】
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ユンリイ王:ファア王国の青年君主。本編主人公。
サトウ、ナカイ、弓仙のヤン、戟のセオ、剣のラン、国師マガ:ファア王国の王臣たち。
フィエルナとルイ:ユンリイの幼妻たち。王妃と副妃。森の氏族ルーコン族長エルナの長女次女。
執政シュナ:宰相一門。国軍の長。
宰相ガナオ:長らく王国を実質支配してきた王族。
ハーン将軍:ジーン侯国最強の将領。
オーソン:帝国廷臣。客分としてハーン付参謀となる。
.
ファア王国:「南蛮」と揶揄されるが、ズウ帝国に対し王朝交代をうかがうしたたかな超大国。
ジーン侯国:「ズウ帝国の盾」を自称する北方の覇者。中原諸国の支配権を巡ってファアと二十年間抗争している。
ライファン侯国、チャイ侯国:ジーン侯国の東西にある大国。
ティア侯国、ローナン侯国:中原諸国(ジーンの同盟国)
クオン侯国:中原諸国(ファア王国の同盟国)
ズウ帝国:中原諸国の一つ、実質的には小国となっている。ティアの西側にある。
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※ ここでの1尺は二十センチである。 

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