伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン3 「修道院島」終章10(稿了)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン3 「修道院島」終章10(稿了)

【前回までの粗筋】
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 事件解決。後日談──
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【主要登場人物
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レディー・シナモン:英国伯爵令嬢・考古学者。「コンウォールの才媛」の異名がある。 ②ドロシー・ブレイヤー:伯爵家執事。米国出身の学者。 
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【本編】
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 甘粕たちと同じく後部座席にいるハウスホーファー教授がいった。
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「芳子殿を除いたここにいる全員がレディー・シナモンに〝修道院島〟で生命を助けられている。これで〝義理〟は返したわけだ。ドイツはオーストリーを併合し日本と同盟する。それが〝地政学〟上、自然な流れというものだ」
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「イギリスとドイツは?」
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「戦争することになるだろうな──」

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 助手席にいたミューラーは、ハンドルを握るスコルツェニー横顔が憮然としているのをみた。頬に決闘の傷跡をもった少年にはお構いなくハウスホーファーが川島芳子に話しをふった。
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「小惑星〝岐山〟《チーシャン》の件だが。清朝王族であるあなたならご存じでしょう? 実在するのですか?」 
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「──岐山に小惑星が落ちた痕跡はありませんわ。伝説のように、岐山に小惑星が落ちたりしたら、殷王朝が滅びるどころか逆に、謀反を起こした周公国が滅びてしまいます。天体が岐山に落ちた瑞兆のエピソードはおそらく、〝殷周革命〟といった王朝交代劇にあわせて、周王朝の謀反を正当化するためにつくられた物語。けれど〝反物質〟を含んだ〝隕鉄剣〟が存在する以上、相応する場所が中国大陸のどこかに必ずある」
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 リムージンは高崎の市街地を抜けて、砂利道の中山道《なかせんどう》を東京方面にむかっていった。
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    ☆
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 高崎市街の病院には佐藤記者がまだ臥《ふ》せっており。後輩の中居カメラマンが付き添っている。今回の事件でもっとも深い傷を負ったのは佐藤である。
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「中居。今回の件ではおまえに感謝している。おまえがあと一歩、イギリス大使館に駆け込むのが遅れたら姫様は、鈴木一味の毒牙にかかっているところだった」
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「たまたま近くにリムージンが停まっていたんですよ。噂のスコルツェニーが運転していました。奴は事情を知っていて、俺を東京まで運んでくれたんすよ」
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 佐藤は複雑な表情をしてから話題を変えた。
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「──姫様はもう京都に発たれたかな?」
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「発たれましたよ。とっとと直して早く追っかけましょう」
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 佐藤は中居に、「病室の窓を開けてくれ」と頼むと、風の薫りを楽しむかのように大きく息を吸いこんだ。
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   ☆
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 イギリス・ロンドンの要人専用施設で、チャーリーという名のオウムを乗せた初老の男が庭木の剪定をしながら背後に立たせた男に振りむきもせずに話しをしているところだった。
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「ロレンス中佐。今回の件は冷静沈着な君らしくもない。飛行艇でフランスに渡ったはいいが、先様の空軍に捕獲され送還。まことに無様だ。今回の件は貸しにしておく。あの〝姫君〟を私のブレーンに加えることに反対することは許さない。いいね」
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 ロレンスは灰色の瞳を天にむけ深くため息をついた。
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「イギリス王室は、明治帝《エンペラー・メイジ》以来日本の皇室とは縁が深い。腰の重い王室を動かすのは骨が折れたよ」
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 チャーチルは脚立を移動して、隣の植え込みに鋏をいれた。
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   ☆
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kuroneko 
竹久夢二 「黒猫」『女十題』 1921年(水彩)
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 高崎線を乗り換え、東京駅始発の東海道線を走る汽車の車中に、貴婦人と少し年上の女性執事、それに老家宰の三人がいた。執事が家宰をみて笑った。
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「家宰、朔太郎氏が実は文無しに近い──ということ、ご存じでしたね?」
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「職業詩人の金持ちなんて訊いたことがありませんよ。昔は金持ちだったんでしょうけれど──それにしても、菊さんの太股に施された入れ墨の皮膚っていったい中国のどこなんでしょうね……」
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 シナモンは車窓に流れ行く景色をみつめながら、
「葡萄の美酒、夜光の杯、飲まんと欲すれば琵琶に催す──唐の詩人王翰《おうせん》の『涼州詞』です。〝夜光の杯〟は中国西部の砂漠地帯涼州に産するガラス質の石を削って作るのだとか……どこか、〝修道院島〟の〝聖石〟リビアグラスに似ていますよね」
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 ──この方は、はじめからご存じだったのだ!
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 老家宰と若い女性執事は顔を見合わせ、ドロシーがさらに質問した。
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「姫様は〝軍艦島〟で──榛名山にある異常な山体崩壊によるくぼみを、〝反物質〟隕石によるもの──とされておられましたが、〝軍艦島〟にあった石器意外にはありませんでした。あの謎はどう説明なされますか?」
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「おそらくは高純度のもので、榛名山に隕石がぶつかったときに爆発して消滅。ほんのわずかに残ったガラス質のかけらを偶然拾った往事の人が石器にしてしまった──と考えます」
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 そう答えた。
 話題が途切れたときドロシーは、家宰が小脇に抱えている風呂敷包みを、ふと、みやって、「さっきから気になっていたのです。家宰、いったいそれは?」と問いただした。
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「──夢二氏が、ドロシー博士に……と私に託しまして。なんでも、博士に平手をくらったことで、『目覚めた』とのこと──博士の肖像だとか」
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「ひ、ひどい顔……」 
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 家宰はハンカチを取り出して顔の汗を拭い、風呂敷包みをドロシーに渡したのだった。    
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    ☆
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 車夫の豆吉こと吉之助は家族の元に帰った。
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 隼人の遺言で女郎屋は閉鎖され、店員・女郎全員に遺産が分配され、それぞれの故郷に戻っていった。
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 最後の大名林忠崇卿は昭和一六年(二〇四一年)に東京で没した。第二次世界大戦が勃発し、往来が不能となったため、レディー・シナモンが墓地を詣でたのは戦後になってからのことだった。
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(第三部稿了、第四部につづく)

 .
【後記】
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 雑誌〝東京倶楽部〟編集室である。パソコンを置いた机を並べる記者とカメラマンが昼寝から目が覚めた。
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「佐藤先輩、なんだか俺の前世って犬だったかも」
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「そうか、犬か。俺は猫だったような気がする」
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(おしまい)

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comment

Secret

おつかれさまです!

そして第三部完結おめでとうございます☆
聖石編の最後が内容ぎゅぎゅ~って感じの展開で
面白かったです!!
でもやっぱ
夢二の絵がひどい顔ってのはめっちゃ笑っちゃいました(笑
4部楽しみにしてますー☆

No title

 まずは改めて稿了お疲れさまでした。

 第三部は冒頭から終盤に至るまでの登場人物も今までに比べて多く、林忠嵩氏らの過去も織り交ぜた内容であったので、執筆は大変だったのではないかと思われます。また多くの人物の行動、或いは暗躍を描く都合上で場面の転換も以前より数を増していたため、一部、二部に比べると、物語の流れは若干複雑になっていたように感じました。そのため、人によっては物語の流れや展開を把握し、その渦中に意識を引き込まれるまでに、些か難儀してしまうかもしれないと思います。

 さて、今回はスコルツェニーやウルフレザー家宰、そしてドロシーなど、これまでに表立った見せ場が少なかった人物や、新規の登場人物の活躍が多くありましたね。ドロシーは今後も登場するのであれば、シナモンと並ぶ作品の華となりそうです。男性陣に関しましては、佐藤氏が名誉の負傷、スコルツェニーは相変わらずそつのない立ち回りを演じていますね。今回は失態を演じてしまったアラビアのロレンスには、次回の活躍が期待されます。

 史実と絡みあった物語は、徐々に大戦への流れに進んでいるように思われます。歴史や考古学を交えた今作品は今後どのように展開していくのか、次回作も楽しみにしております。


 追伸・終章九話の冒頭部と終章八話の七段落目の内容(長尾警部が~)が重複しているように見えましたので、一応ご報告しておきます。

弩れもん様

なんとかアルファポリス大賞前日までに本編を入稿できました
ぎゅーぎゅー
けっこう詰めましたねというお話しを方々からうかがいます。
あと10話のばしてもよかったかなあとも感じます
それ以前に、2話以上の物語を一つにしているのがごちゃごちゃのもとだったりも
ドロシーの肖像──笑いどころで笑って下さいましてありがとうございます。
さすがはプロ漫画家!
4部。インスピレーションを静かに待ってます。
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