伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」  「ふたりのイゾルテ」 文鳥列伝
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

「ふたりのイゾルテ」 文鳥列伝

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    部屋の真ん中に小さなテーブルがあり、上には冊子が置いてある。相向かいの椅子には、明治時代の鹿鳴館で舞っていたかのような、古風な洋装をした女性が座っており、こんな質問をしてきた。
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 ──『トリスタンとイゾルテ』をご存じ?
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 ──もちろん知っていますとも。中世騎士物語の傑作で、別名を『トリスタン物語』。八年付き合った文鳥の名前はそこから名付けたのです。
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 女性は黄金の髪をしていて、腕には長く白い手袋をはめている。私はそのことについての話題をした。
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 ──そういえば、『トリスタンとイゾルテ』には、二人のイゾルテが登場しますよね。黄金のイゾルテと白い手のイゾルテです。
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 古風な洋装の女性は小首を傾げて私の話を訊いた。
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  黄金の髪のイゾルテは、主人公トリスタンの祖国コンウォール王国を併合しようとした強国アイルランドの王女だ。王女の婚約者が軍勢を率いてコンウォールの海岸に上陸してきたところを、騎士トリスタンが一騎打ちを申し込んで撃退した。トリスタンは、相手が剣に仕込んだ毒により深手を負った。
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    伯父マーク王は救国の英雄の一命を救わんとしたのだが、万策尽きる。かすかな望みは敵国アイルランド王妃と王女が素晴らしい医術・薬方を心得ているという噂だ。マーク王は、万に一つの奇跡を信じて、甥を小舟に乗せて海へ流したところ奇跡が起こった。トリスタンは救助されて、王女により一命をとりとめた。
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  この頃アイルランドでは、黒き竜が暴れ回って同国を存亡の危機にさらしており、国王は、(黒き竜を倒した者に王女イゾルテを与える)という触書をだした。話を訊いたトリスタンは黒き竜の棲む小島へ渡り、大格闘の末に見事竜を仕留めた。
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  トリスタンは王女を自分のものとはせず、祖国コンウォールとアイルランドの和平のために、イゾルテを輿入れさせるようアイルランドの国王に申し出た。
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  ところが、トリスタンがかつての婚約者の仇であること、マーク王が老人であることをイゾルテが知ると、服毒自殺をはかるのだが、機転を効かした侍女が媚薬と取り替えたため、二人は激しく求めあうところとなり、マーク王に嫁してからも関係が続く。事態は国中に知れ渡るところとなり、トリスタンはブルゴーニュに追放される。
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 古風な洋装をまとった女性は、「お茶でもいれましょう」といって、厨房に入り、ティーポットに湯を注いでからまた戻ってきた。そして私の話の続きを訊いた。
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 ブルゴーニュに追放されたトリスタンは、そこでも活躍して、ブルゴーニュの国王から王女を賜り結婚した。それが白き手のイゾルテである。結婚はしたものの、トリスタンの心は黄金の髪のイゾルテに向けられたままだった。
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    トリスタンが病を得て瀕死となったとき、知らせを訊いた伯父マーク王は、甥のすべての罪を許し、妻である黄金の髪のイゾルテを白い帆の船に乗せて送り出した。
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  海に臨んだトリスタンの居城でトリスタンが、事前にマーク王から、その旨の手紙をもらい、黄金の髪のイゾルテとの再会を指折り数えていたときのことだ。居城の見張りが、「沖合に船がみえます」と叫んだ。病床のトリスタンが白き手のイゾルテに様子をみてこさせた。
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     トリスタンは、「船の帆は白いか?」と戻ってきた妻に訊ねたところ、嫉妬した妻は、「船の帆は黒です」と枕元でささやいたところ、落胆して、そのまま逝った。
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  私は古風な洋装をした女性が注いでくれた紅茶を口にしようと、ティーカップを手にしたところで眼が覚めた。最近みる夢は、画像と音声にリアリティーがありすぎる。画像もカラーだった。ティーカップと思って手にしていたのは飼っている雌のシルバー文鳥姫姫だった。テーブルの上に置かれていたのは、文鳥を飼い始めたときに購入した『やさしい文鳥の飼い方』と書かれた入門である。  
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 そうだ、私は十年以上も昔に購入した書籍をみつけて懐かしく思い、姫姫片手に頁をめくっていたところ、またしても、うたた寝してしまっていたのだ。私は姫姫を片手にもったまま、続きを読み始めたところ、ある記事のところで指す指が止まった。
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 ──カップルとなった文鳥の愛情表現のひとつに、相手の羽毛を噛む行為があります。首根っこが禿げていたら、それは喧嘩で毛が抜けたのではなく、相手が何度も噛むものだから抜け落ちただけですからご心配なく。
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  私は、八年付き合って先日逝った雄の白文鳥トリスタンに思いを馳せた。初めてトリスタンに出会ったのはホームセンターのペット売り場だった。トリスタンの首根っこは羽毛が抜け落ちており、私は喧嘩っ早い、トリスタンが、争った傷だとばかり思い込んでいたのだ。 
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 ──トリスタンには、〝黄金の髪のイゾルテ〟が存在した。
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  晩年、トリスタンの伴侶として、シルバー文鳥の姫姫を飼った。姫姫は左目が白内障であるためまともに飛べない。トリスタンが大好きで、セレナーデである歌や舞いを、ぎこちなく真似たものだった。格子ごしに口づけを交わすこともあった。
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 セレナーデをしたトリスタンを、姫姫と同じ巣かごにいれてみたところ、トリスタンはしばらく呆然としたのち、姫姫を拒絶したので、私は仕方なく別々の巣籠で飼うことにした。

   私がトリスタンと過ごすときは、必ず巣かごの蓋を解放しておく。トリスタンは、それから後も、飛べない姫姫の籠のところにやってきては、死ぬ直前までセレナーデをし続けた。最晩年のトリスタンはハンデのある姫姫を愛しこそはしなかったものの、好意をもって励まし続けていたのだ。
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 トリスタンが逝った朝、遺骸をみると姫姫のほうを向いていた。姫姫はそれから数日食が細くなった。
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 私は考えた。(トリスタンの最後を看取った姫姫は、〝白き手のイゾルテ〟ではなかったのか)と。また、こうも考えた。(黄金の髪のイゾルテと白き手のイゾルテのどちらが幸せであったのか?)ということを。そして、(文鳥を飼うという行為は加害者になることだ)とも思うのだった。 

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 ノート20051019

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comment

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No title

(´∀`*)ウフフ・・・

愛情も、奥が深いですね!

作者にも、悩む処があったのかしら(笑)
愛は、自分でこうしたいと思って、生まれるものでないから、
大変ですよね!

又、恋をしたいかな(*^。^*)

くろこ姫様

そのコメントに対するレスを書くのは危険ですねえ。コメントは差し控えさせて頂きます(爆)

いつもありがとうございます

こんばんわ

こんばんわ。
夜もちょっと蒸し暑いです。

トリスタンとイゾルテ、こうしてみるとほんとに大ロマン、大悲恋ですね。
変わらぬ人間の愛憎、嫉妬、最後はとても哀れです。
母も物語に感動していたことを思い出します。
トリスタンもなかなかのナイトですね。
姫姫も切ないですね。
スイーツマンさんの記事で本当に文鳥にも感情移入します。
鳥の愛咬、これはうなずきますね。

Re: こんばんわ

KOZOU様

『トリスタンとイゾルテ』をお母様が読まれていたのですか。洒落てますね。

 はじめ、クールに思えたトリスタンが、実は情に厚いとことがわかりました。
 「愛咬」というのですか。

 お忙しい中、いつもありがとうございます。

漢字

Aichanが漢字を読んでくれます(笑’
でも難しいらしいです☆
2人で笑いながら読んでます♪
でも決してふざけてるんぢゃないですよ(^-^)
漢字のお勉強にもなります(^_-)-☆

Re: 漢字

微笑ましいお姿が目に浮かびます

Re: 漢字

93chan 様
母子そろっての漢字学習。微笑ましいお姿が目に浮かびます

学習

スイーツマンさんのBlogで学習中です(笑’
今夜は辞書を片手にしてますけど
読めないので探せません^^;

Re: 学習

すみませんねえ
なるべく漢字を減らすか
ルビをふっていましたけれど
最近はあまりやってませんでした
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