伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 紅芝の丘 (死せる鳥はどこへゆくのか)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

紅芝の丘 (死せる鳥はどこへゆくのか)

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 霊的《スピリチュアル》な話しというのは慎んだほうがいいらしい。禍を避けるためだ。少年時代、この手の〝来訪者〟たちが次から次へとよく現れたものだったが、あるとき、(きても無駄ですよ)、と応えるようにしていたら喧騒が止まった。ただ例外はある。死せる鳥たち、飼っていた文鳥たちだ。
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 来訪するのは決まって雌で、天井や壁を通り抜けて舞い降り、寝ている私の首や肩のあたりで、ひとしきり遊ぶと満足して帰っていく。手洗いに起きると、テーブルの縁にすわってこちらをみていることもある。あまりにも無邪気で害もなく恐怖を感じるということがない。文鳥の雌たちは一ヶ月ほどすると来なくなる。たぶん、生まれ変わるのだろう。.
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 対して雄の文鳥は遊びに来るということがない。凍てつく夜、伴侶を庇って落命した筋金入りもいることから、雄が来ないのは、(寂しさをさらさない紳士の)誇りというものだろう──そんなふうに解釈している。
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 先日、出張先で供をしていたトリスタンが逝った。享年八歳。文鳥として大往生である。喧嘩が好きで、隣人の巣を攻撃しては、領土を広げようとするしたたかな鳥。異性からの愛情というのものを喜ばない。一方で、巣掃除がなされ牧草を新しいのになると、大いに喜んで、牧草の一本をくわえて私に届けにくるという義侠心があった。そこに、(羽毛恐竜から進化した者、竜の末裔であるという)高貴さを観た思いがする。
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 トリスタンが逝くなる直前、うたた寝していた私は、なだらかな丘の斜面に立つ夢をみた。
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 南国の花のような色をした芝草が繁茂しており、「観たこともない植物だ」とつぶやいていたところ、白髭の紳士が寄ってきて、「ああ、これですか? 〝紅芝(くれないしば)〟というのですよ」と答えた──ところで眼が覚め、彼の死を知るところとなった。
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 色好みで有名な歌人在原業平《ありわらのなりひら》は没後、桜の精となったという伝承がある。白髭の紳士がトリスタンであるかどうかは判らないのだけれども、(これから花園に戯れて暮らすのだなあ)ということを感じた。 
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 私は大半を出張先で過ごし、月に一度、自宅としている家内の実家に帰る。郊外の丘にある住宅地のなかにあり、花の満ちた小さな庭がある小さな家だ。帰宅の間際に逝ったトリスタンの亡骸は、姑が用意してくれた青いパンジーを墓標にして、庭の隅に埋葬した。
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 トリスタンの名の由来は、中世騎士物語の一つ『トリスタン物語』からとった。英雄トリスタンの物語に重ねて、一編の詩を添えることにする。
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   トリスタン
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  竪琴のしらべは、
  幾度、月夜の宴を潤したことだろう。
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  竜の系譜を宿した瞳に映るのは、
  宙を舞う長剣の火花。
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  温もりを拒否したトパーズの翼よ、
  たたかいの幕は降りた。
  くつろぐがいい。
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  花咲く丘で君を送ろう。
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   ノート20100510 
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comment

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おはようございます

おはようございます。
雨が降り雷まで鳴っています。

なかなかいいですね。
霊には一切お目にかかったことのない鈍物ですが、鳥の霊はいいですねー。
トリスタンは名前の通り個性あふれる文鳥だったようですね。
ほんと惜しまれたと思います。
夢に出てきたのはそうだったのでしょうね。
最後の詩はいいと思います。
名にふさわしい送りの詩ですね。

No title

トリスタンという名の誇り高き騎士ですか??

白い文鳥は、さぞかし、きれいだったのでしょうね!

そこから、物語がはじまるなんて、
わくわくしてすてきですね(*^。^*)

ozou 様

70歳を越えた人は仙人の資格があるのだそうです。
仙人を英語にするとフェアリーとなるそうです。
白髭の紳士も一種の妖精のようなものでしょうか。
トリスタンだとすれば、彼は妖精になったのかもしれません。
いつもありがとうございます。

くろこ姫様

写真にある通りです
お時間の許す限り
ご覧戴ければさいわいです

No title

鳥命8年・・・人の寿命の10分の1ながら、そんな短い間でスイーツマンさんと出会えたトリスタンは存外幸せだったのではないでしょうか。
大往生を遂げるまで孤高を保ったその気概はまさに仙人になるのにふさわしい生涯のような気がします。
見習う…とまではいきませんが、その意気に深く共感しました。
・・・再度黙祷。

BENクー様

最後の数ヶ月は、止まり木で何事かを考えるかのように、うつむきかげんに日々を過ごすことが多かった記憶があります。思い出に浸っていたのでしょうか。うたたねしながら、逝ったようです。
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