伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 水彩絵物語 「植民地従軍記者」 2/2
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

水彩絵物語 「植民地従軍記者」 2/2

 伯爵令嬢救出作戦には勇士三名が選ばれた。サトウ、ナカイ、レンタロウの三名だ。三名は軍港北の鉄鉱山に向かったが、そこには姫君どころか、スペイン軍の姿さえない。取り残された足の不自由な現地住民の老人から事情を訊くと、スペイン軍は北にひきあげたという。
 一行がさらに、北を目指したのはいうまでもない。
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    ☆
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コサックス08
 

 「スペイン軍の野郎ども、ここにもいねえ。いったい何を考えていやがるんだ」
 ナカイがいらだったようにいうので、レンタロウが自分なりの見解で答えた。
「たぶん、各地に散っている軍勢をハーベストの州都に集結させ、一気に、ザクセン総督府のある軍港を攻略する気なのではないでしょうか──」
  サトウは、「なるほど」と手を叩いてから、ナカイに、
「悪いが、総督府に行ってスイーツマン大尉に知らせてやってくれ。ここから先は俺とレンタロウで州都をめざす」
 と命じた。ナカイは渋ったが、サトウに諭されてようやく、もときた道を戻っていった。
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       ☆
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コサックス09 
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 もともとこの島はビザンツ帝国麾下の諸侯国だったのが、政略結婚などで、領有権が転々とうつっていまはドイツ・ザクセン王国の飛び地となっている。島の南部にある総督府は仮のものだ。フランス・スペイン・ポルトガル三国に追い出されるまえの州都はここにあった。サトウとレンタロウは、出入りの商人一行に金を払って加えてもらい、まんまと門番を欺き、内部に潜入することに成功した。
.
 情報収集といえば居酒屋と相場は決まっている。客達に酒をおごっては、
「見慣れない美しいご令嬢が、州都にきたらしい。知っているか?」
「島は田舎で、ブスばっか。でもよ、毎日みてると可愛くみえてくる。美人か不美人かってのはな、自分の眼で調節する。そこが紳士ってもんだ」
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 サトウにおごられてすっかり酔ったポルトガル兵士が、肩を叩いた。地元住民は店におらず、大半の客は、島の大半を占拠している三か国連合軍の兵士達だ。その数は全部で三百名。イギリスの海兵隊とザクセンの守備隊を合わせた数と同じだ。

   サトウが手洗いに行こうとしたとき居酒屋の看板娘が近づいてきていった。
「姫様は海岸にあるスペイン軍駐屯地よ。奥の席に、スペイン軍のロドリゴ大尉が陣取っているでしょ。気を付けて、あなたたち目を付けられたみたい。このまま裏口からでていくといい」
「連れがいる」
「──ああ、あの坊やね。大尉の気をひいている間に逃がしてやるわ」
「いったい、君は?」
「リリー・マールレーン。ザクセン側の工作員よ。もうひとつ教えてあげる。あしたの明け方、ポルトガル船を装った味方の船が駐屯地近くに停泊する。それに乗ってここを脱出しなさい。伯爵令嬢を救出するなら、リミットは午前八時。判ったわね」
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 リリー・マルレーンと名乗った看板娘が、ウインクすると、ロドリゴ大尉の前に行って話しかけた。アコーディオンの楽士も近寄ってきたので、取り巻きがはやし立てる。たちまち音楽が奏でられ、ダンスが始まった。サトウは、こちらをみたレンタロウに合図すると、裏口から脱出。そのまま闇に紛れて逃走した。

   ☆
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コサックス10 
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 明け方。州都郊外スペイン軍駐屯地司令部である。大聖堂の隣にあるコの字形をした建物だ。
 サトウとレンタロウが中庭に潜んでいると、二階バルコニーから貴婦人が姿を現した。遠目で顔はわからい。けれどもレンタロウは思い人を識別できるようだ。
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 ──姫様!
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 さらわれた伯爵令嬢だ。こんなところに幽閉されていたのか。早速二人はあらかじめ用意していたスペイン兵の軍服を着込んで、内部に潜入した。
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   ☆
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コサックス11 
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 伯爵令嬢の部屋の前にいた見張りをのして、中に入った。サトウとレンタロウが叫ぶ。
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 ──姫様!
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 その人が振り返った。
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 一足違いで駐屯地司令部に戻ってきたロドリゴ大尉は、まんまと姫君が救出されたことを知ってじだんだを踏んだ。部下と共に駆けだしたとき、廊下の窓から海が望め、そこに、ポルトガル商船を装ったザクセンの工作船がみえた。

 ──やられた。海軍に連絡しろ、あの船を拿捕するのだ!
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 司令部から、少し離れたところにある軍港の海軍基地に早馬が走った。

    ☆
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コサックス12  
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 スペインの艦船が動き出すと、連動して、フランスとポルトガルも動き出した。サトウたちが乗り込んだザクセンの工作船は大きなガレー船で足が遅い。たちまち、足の速い小型のスクーナー船が取り囲み、威嚇に空砲をかますと、停船を命じた。
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  スペイン艦スクーナーが、工作船に横付けされ、ロドリゴ大尉が、配下を引き連れ乗り込んできた。
「サトウとかいったな。やはり〝鼠〟だったか──伯爵令嬢は返してもらうぞ……」
「ただの〝鼠〟じゃない。〝素敵な〟鼠だ」
「ふん、へらず口を──」
 ロドリゴ大尉は、抜いたサーベルの先を、サトウの喉元にあてた。 
.
 そのときである。三国連合艦隊の後方から、イギリス機動艦隊の戦艦が、遠距離から主砲で狙い打ちしたのだ。
.
 砲弾が近くの水面に落ちた。激しい水煙。ロドリゴがよろめいた隙にサトウは、袖の内に隠し持っていた羽ペンを、剣をもった相手の腕に突き刺した。ロドリゴは悲鳴をあげ、堪らずサーベルを落としたところを、レンタロウが拾う。
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 ロドリゴ一味は、恥も外聞も捨てて、自艦に逃げ込んだ。
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 イギリス戦艦は、巨大カノン砲を多数搭載した最新鋭のもの。三国連合艦隊の射程距離の及ぶところではなく、連中は戦線離脱するより術がなかった。
.
 「ペンは剣よりも強し!」
「なんか違うかも……」
 サトウが腕組みして顎をしゃくりあげると、レンタロウは首をかしげた。
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 ──それにしても、助かった。
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    工作船の甲板にいたサトウが安堵していると、レンタロウと伯爵令嬢が抱き合って、口づけをかわしている。戦艦が近づいてきて、ナカイとスイーツマン大尉が手を振った。
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    ☆
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コサックス13  
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  戦艦に乗り移ったサトウは、ナカイや大尉と抱擁してから、久しく冒険談を話し、いくつかの事実を知った。
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 イギリスがザクセンに肩入れしたのは、すでに傘下におさめたマルタ島から、エジプト攻略につかう補給用の軍港を地中海に欲していた。イギリスは、三国軍をハーベスト島から、追い払う代償に、軍港を一つ租借する秘密条約を締結していたのだ。
.
 そして、サトウが愛読する覆面作家による小説『伯爵令嬢シナモン』の著者の正体が、スイーツマン大尉であることも……。
.
「──そう、私がシナモンのモデルよ」
 総督の娘が、苦笑したサトウの肩を叩いたとき、ナカイが思わず漏らした。
「レンタロウ。あんたは偉い。面食いじゃなかったのか!」
「そこのお二人、なおりなさい。呪いの呪文をかけてやります。ぶり・ぶり・ざーど」
「や、やめてくれ、猫と犬に変えるのだけは──」
 甲板の上を姫君が、記者と画家を追い回して怪しげな呪いの言葉をあびせかけるのをみて、大尉が大笑すると、艦上の水兵達も笑い声をあげた。

       ☆
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 数ヶ月後、サトウの武勇伝は本国に伝わり、ガーター勲章が授与された。休む間もなく辣腕記者の名声を得たサトウは、雑誌〝ロンドン倶楽部〟本社の新しい社命を受けることとなった。従軍画家ナカイを伴って、今度は、トルコ帝国の首都イスタンブールへと赴任せよというのだ。
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 ──皇帝《カリフ》の後宮取材だと。ふざけるな、許可が下りるわけないだろ!
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(稿了)
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おはようございます

おはようございます

サトウ氏今回は大活躍ですね。
ただ命をかけた令嬢、ぶ○のようで、やや情熱も失せたですかね。
リリーマルレーンまででてきて活躍ですね。
ペンは剣より強しは笑ったです。

Re: おはようございます

KOZOU様
 毎度ばかばかしいお話しにお付き合い下さりまして大変ありがたく思っております。ここでの伯爵令嬢は、雪女伝説に登場する、お○様がモデルです。『シナモン』シリーズの後書きで魔法にかけられた猫佐藤・犬中居と被らせたエピソード──だいぶ前に描いたことなのでお忘れでしょうけれど。



No title

おなじみの皆様の活躍、小気味よく
楽しませて頂きました。

Re: No title

きらりん様
 そういっていただけるのがなによりのご褒美です
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