伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 随筆/食指が動く
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

随筆/食指が動く

 

 2015年、韓国の呼びかけで、韓中日首脳会談というのがあった。会談の名目はどうでもいいもので要は主催者となる韓国の朴槿恵大統領の国内向けポイント稼ぎだ。そこで中国の李克強首相には昼食が供せられたが、日本の安倍晋三首相は出されなかった。2016年末にその朴槿恵は失脚、2017年に塀の中で、日本円にして140円相当の食事を食べることになった。

 さて、食指とは人差し指を表す。歴史書『春秋左氏伝』出典だがとてもあっさりした内容なので、司馬遷の『史記』に、概説本や翻訳された中国ものの歴史漫画、さらに海音寺潮五郎や宮城谷昌光といった作家の小説での解釈を参考にまとめてみたい。

 紀元前600年ごろの話だ。周王朝がぐらついて、百もあった諸侯国が抗争により数十に淘汰されてゆくのが、中国春秋時代だ。当時は南北に晋楚二大諸侯国があって、周の諸侯はどちらかの盟主についた。北にあるのが親藩・晋公の国、南にあるのが外様で王を僭称する楚王の国だ。親藩だが小国である、鄭の国は、晋と楚の狭間にあって、振り子のように両国の間をフラフラついたり離れたりを繰り返していた。

 晋の国は、中興の祖・文公が、ライバルである楚の成王を「上僕の戦い」で敗って、「中原」の諸侯を服属させ覇者となった。そこから三世代が経過した。晋国は有力貴族十家ほどの大臣が、君主をないがしろにしていたが、先進地帯「中原」を制していることには変わりがなかった。

 他方、晋国によって、「中原」から締め出された楚の国は失地回復を狙って虎視眈々と国力を充実させていた。成王の息子・穆王はひたすら国力回復に努めた。穆王亡き後、その息子・荘王は、宰執を司る一族の若傲氏に才気を疎まれて弑逆されることを危惧して、馬鹿を振る舞い、連日、酒池肉林の宴を催していた。

 荘王は、「諫言するものは斬るぞ」と公言していた。けれども、心を痛めた臣下の一人が、「この世には、立って三年、鳴かず飛ばずの鳳(おおとり)がいます」と諫言した。荘王は酔って機嫌が良く斬り殺しこそしなかったのだが、「汝のいわんとしていることは判っている。その眠れる鳳がひとたび羽ばたけば旋風を巻き起こし、咆哮すれば天下に轟くことだろう」と反論豪語した。――「鳴かず飛ばす」という故事はこれをさす。

 第十二代鄭公・姫夷は、少年期、同盟の証として楚国に人質に送られていた。そこで、年長である楚の荘王に弟のように可愛がられ感謝していた。父親の穆公が亡くなり、後を継ぐため姫夷が帰国すると、親晋派が朝廷の大勢を占めていた。姫夷の鄭公就任まもなく一門衆を招いての宴席だった。宰相で親晋派の公子帰生や、有力者・公子宋が上席に並んで座っていると、二人は顔を見合わせて笑った。そのため訝しく思った若い鄭公は理由を尋ねた。

 公子宋が、朝廷にくるまでの道すがら、「私は人差し指がピクンと動くと、きまって御馳走して戴ける」と話していたところ、到着すれば、料理人がスッポンをさばいていたのを知った。このスッポンというのは、人質時代の鄭公を優しくしてくれた、荘王が送ってくれたものだ。

 ――お若い殿よ、あのバカ、楚の荘王を、晋に代わって盟主に担ぐというのかね?

 二人は、「バカの荘王から餌付けされて嬉しいんだな。それを覇者・晋の親派である自分たちに振る舞うってか」と嫌みをいったわけだ。腹をたてた鄭公は、宰相である姫帰生の諫めも聞かず、公子宋一人だけスッポン料理を振る舞わなかった。「粛清するぞ」という警告ともとれた。

 先んずれば人を制す。公子宋は自領に帰って兵を率い、宰相を誘い、鄭公の朝廷を急襲、鄭公を弑逆した。さらに、葬儀のとき、バカ殿という意味で「幽公」というおくり名をして侮辱した。次の公は親晋派から選ばれなければならない。宰相は、継承権上位者に指名しても辞退され、やっとのことで弟の一人を、第十三代鄭公につけることができた。――「食指が動く」という故事はこのあたりの政変のことをいっている。

 ところが、南の超大国・楚の荘王は、バカ殿どころか、歴代国王の中でも最高の名君と呼ばれる傑物だった。荘王は政権基盤が弱いうちに政敵に暗殺されることを恐れて暗愚を装っていたのだ。しばらくして荘王は最大の政敵・若傲氏を粛清し、国内をまとめると北伐して、邲(ひつ)の戦いで晋の軍勢に圧勝し、春秋覇王でも最大の勢力圏を誇ることになった。――「大器晩成」の故事は彼の人をさす。

 また荘王にはこんなエピソドもある。荘王が楚の大軍を率いて周の王城・洛陽を囲んで、「わが軍勢の銅剣の先っぽを集めただけども、周王室伝国の証とされるオブジェ・周の八鼎と同じものをつくることができる」とうそぶき、暗に禅譲をうながしたりもした。――「鼎の軽重を問う」の故事。

 邲の戦いで、鄭も戦場となり、あわや取り潰されるところだったのだが、先君と荘王との友情があって、なんとか免れた。

 ――鄭の先君は間違っていなかった。

 中華文明圏は死者に鞭打つ悪癖がある。親晋派・鄭の宰相姫帰生が死ぬと棺は壊され辱められ、一族は国外追放になった。先君である第十二代鄭公はバカ殿を表すおくり名「幽公」から志半ばにして斃れた惜しむべき殿「霊公」と改められた。

 鄭の霊公の父親穆公を生んだのは下女でシンデレラのモデルの一人とされる女性だ。また霊公の妹には春秋一、二を争う絶世の美女・夏姫がいて時代を翻弄することになる。

     ノート20170402


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