伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 機械仕掛けの魔都と海底都市イース2/2 /掌編小説・中世物語
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

機械仕掛けの魔都と海底都市イース2/2 /掌編小説・中世物語




 異民族侵入の禍いのあと、荒廃した国土に、妖精の森・シレーヌから騎士グランドロンは再び現れ、散り散りとなったコナン王の臣民たちを集めて祖国を再建し王に推され、壮麗な港湾都市イースを建設し、そこを王都として殷賑をきわめさせたのでした。 
 こうしてグランドロンは、民から慕われ、「英雄王」と呼ばれ愛され、半島・ブルターニュの地に、第二王朝を築いたわけです。
王妃となるべき夫人は妖精の森・シレーヌから、なんらかの理由で。……恐らくは種族の掟に縛られて、王とともに人界に戻ることを許されなかったのですが、グランドロン王には、母親に代わって、モアチェ・シルフ(ハーフ・エルフ)である一人娘のダユットがおり父王を補佐します。
 イースの都を築くとき、グランドロン王は、干潟であったそこを埋め立てる際に、とてもかたい樫木を杭にして、ダユット王女に魔法をかけさせました。それが「魔法の礎」です。
 ところが、この王女は、クリストフという魔人に、呪詛をかけられ、連れ去られます。
 強力な魔法をもった王女といえども、魔人には及ばなかったのです。
 魔人は膝を屈した王女に、顎をしゃくりあげていいます。
「俺は、水棲種族『河伯・ウンディーネ』から万能の通力を得た。海底に高度な都市文明を持っている連中だ。顔は、猿のようでもあり、魚のような顔をしている。いずれにせよ人に似て異なる存在というべき存在だ」
王女を取り戻そうと英雄王グランドロンが、軍勢を率いて、クリストフの居城を攻略にむかいます。
 そこは「魔都」と呼ばれる霧深い洋上の小島です。機械仕掛けの都城で、市門から、対岸には、長いつり橋でつないでいて、難攻不落となっています。そこに英雄王の軍勢が攻めかかろうとすると、機械仕掛けの都城からは、「火槍」と呼ばれる炎が噴射して、騎士たちを寄せ付けません。
娘の奪還に失敗した英雄王が、涙を飲んで、引き返そうとすると、市門の上に立った魔人・クリストフが小脇に王女を抱えて嘲笑しました。
「――『魔法の礎』は粉々に砕いてやった。支えを失った王都イースは、自らの重さに耐えきれず、じわじわと、海に沈んでゆくことになる」
 そしてその言葉は現実のものになります。
 王都イースは海中に没します。
 ほどなく「魔都」も霧のなかに消えてゆきました。島だと思っていたのは、異界をさまよう大きな船だったともいわれています。
 それから千年の月日が流れ、イースがあった海域に投錨した交易船がありました。錨をあげて、また出発しようとすると、なにかに引っかかってあげられません。すると、壮麗な神殿があり、錨はそこに引っかかっていたのです。そのとき彼は目撃したことを地元の老司祭に報告しました。
 すると司祭は、
「おまえがみたものは、イースの町の一部だ。町衆は、幽鬼となったのか、はたまた水棲種族となったのかは知らぬがいまだにそこに暮らしているようだな。きっと、彼らが信仰していた、いにしえの神に礼拝していたのだ」
 と、遠い目を窓の外にみえる洋上にむけて涙を浮かべたのだそうです。
 司祭は、イースが海に沈む前に地上に逃げることができた末裔だといいます。そして、水夫にこんな話をしました。
「伝説はことかかない。……地元の少女が、夏の日に、海で遊んでいた。泳ぎが得意で、彼女は海中深くまで潜ることができた。このとき、偶然に、イースの町をみつけた。壮麗な街路には商店街もあった。やはり町衆は海底で暮らしていた。店の親爺が彼女を呼びとめ、『なにか買ってくれ』と頼んだ。少女は持ち合わせがない。親爺は、『もしあんたが買ってくれたら魔人の呪いが解けてイースは洋上に復活できるのに』といって嘆息したといそうだ」
 老司祭はさらに話しを続けました。
「やはり夏の日、漁師二人が小舟を漕いで沖にでかけたところ、つい暑くて思わず居眠りしてしまった。ところが、想定外の引き潮が起り、海中に引きずり込まれた。気がつけば小舟は砂原に打ちあがっている。一面が豆畑だ。一人が小舟から跳び降りて、豆を摘んでエプロン一杯にして戻ってきた。だがそこで、潮が満ちてしまい彼は海中に呑まれてしまった。生き残ったもう一人は小舟で洋上を漂いながら悟ったといいます。そこが海底の都・イース郊外の畑であったということを……
 伝説にはさらにつづきがありました。
「生き残った水夫が、実家近くの磯で、潮が退いたときに海藻を刈っていると、重荷を背負った老婆が後にたっています。そして、『兄さん、あたしを家まで送ってくれんかのお?』と頼んできますが、なにか不吉な感じを覚えて、『悪いけど……』と断った。すると老婆は、『呪われてしまえ』と悪態をついてから、『もし、あんたが引きうけてくれたなら、イースは復活できたんだ』といって消えた」
 海上の絶壁に突きだした岬の上の修道院。そこで水夫がきいた物語です。
    ☆
 居酒屋で、坊ちゃんが感慨深く話をきいていると、老吟遊詩人がやってきた。
「最後まできいてくれてありがとうございます。お若い騎士様にこれを差し上げましょう」
 といって、みたこともない、青くなったり赤くなったり色が変わる不思議な金属を坊ちゃんに手渡した。
 坊ちゃんが、手にあるそれを、しばしみつめ、礼をいおうと顔を上げると、そこに老吟遊詩人の姿はなかった。
 居酒屋は喧噪につつまれている。坊ちゃんは、相席したほかの客たちに老吟遊詩人の話をすると、誰もが、
「騎士様は、居眠りでもしていたんじゃないですか? そんな奴はみてませんぜ」
 と口をそろえていうのだ。
 しかし坊ちゃんの手の中には「それ」があった。
 小さな歯車だった。「それ」が機械仕掛けの魔都のものか、海底都市イースのものか、いまとなっては知るよしもない。不思議なこともあるものだ。
 ところで、そういうおまえは誰かって?
 ――俺かい? 猫だよ。

        END
引用参考文献/
 渡邊昌美 『フランス中世夜話』 白水社2003年、P18-24「海底の都」より

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comment

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No title

イースのお話、面白いですね。

次作を期待します。

jizou様

ブルターニュ。
ケルト系の物語は魅了されるところ大です
あのあたりはけっこういかれたと思います
私は資料取材に頼るのみ
いつかゆかねば… (照れ笑)
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