伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」  機械仕掛けの魔都と海底都市イース1/2 /掌編小説・中世物語
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

機械仕掛けの魔都と海底都市イース1/2 /掌編小説・中世物語



 フランドルあるいはフランダースと呼ばれるところは、ドイツ=神聖ローマ帝国とフランス王国をまたいだ地域で、低地地方・ネーデルランドとも呼ばれているところだ。フランス語にドイツ語に加えて、地元の言葉・フラマン語というのがあって、このあたりの住人は器用に使い分けて話していた。
 港町にはいろんな国から人がくるもんだ。交易商人のほかにも、各国使節やら司祭、それから吟遊詩人なんかもやってくる。旅籠の一階が居酒屋になっている。例の如く君命で各地を巡察していた赤毛の坊ちゃんこと帝国騎士ボルハイム卿は、夕食をとりに、スィートルムの階段を降りて、石畳の路上にまで長卓を張りださせた席についた。
 居酒屋では、地元の常連客に加わって、見知らぬ者たちが相席し、話が盛り上がって歓声をあげたり、口喧嘩したりしていた。
 このとき、半島の公国・ブルターニュから旅してきたという吟遊詩人が、大事そうに小脇に抱えた弦楽器・リュートを奏でだした。恰幅のいい白髭の老人だ。
 居酒屋にいた連中は、みな、曲の合間に吟じられる昔物語に耳を傾けだした。
「まずは口上。……西に臨んだ大西洋にむかって、フランス本土から、にょきっ、と突きだした恰好のブルターニュ半島。そこの平原には太古の謎の民族が残した巨石文化の痕跡があります。イメージしてみましょう。……なだらかに凹凸のある台地に、きのこの形につまれた高さ数メートルの石板やら、滑走路のような標識みたいに等間隔で並べられた石柱があるのです。彼の地にはこんな伝説があります」
      ☆
 半島の王国を最初に統一したのはコナン王といいます。偉大なる王の自慢は美しい王妃でありました。廷臣たる騎士たちが上洛してきた日、宮廷では宴が催されます。
 宴たけなわとなったとき、角杯を手にしたコナン王が一同を前にいいました。
「卿らはわが王妃より美しいご婦人をみたことはあるかな?」
 騎士たちは口ぐちに、「ございません」と告げます。
 王妃はすらりと背が高く長い黒髪を床にまで伸ばした美女でありましたが、ただし、それは若いときの話。いまや皺がでて容色に陰りというものがみえていたのです。
 宴席には、俳優みたいに若くて美形の騎士・グラドロンも招かれておりました。彼は夢見るように王の問いに答えます。
「――おります」
「なに?」
「先日、私は、妖精の森・シレーヌで狩りをしていましたところ、白き牝鹿をみつかけて馬で追いかけました。すると、泉で麗しの乙女が沐浴していたのです」
「妖精族・シルフ(エルフ)の娘……」
「強く迫って妻に迎えました」
 要は、若い美形の騎士様は、自分の妻のほうが、王妃より綺麗だと自慢して返したのだ。
 王妃の表情はみるみる引きつってゆきます。
 騎士たちは、王妃がグランドロンに片思いを寄せていたのを知っています。そして彼女がこの騎士にいい寄ったとき、若い騎士はつれなくふってしまったという経緯も、巷で、面白おかしく誇張され噂さされているのを知っておりましたから、――どうなるものか、はらはらして見守っていました。
 場を察した王はみずからの腹を片手で叩いて笑います。
「なるほど妖精族・シルフの娘か。王妃とて敗けるかもしぬな。しからばここに連れて参れ」
「妻は常にそばにおります。ここにおります。姿はみせませんが私には声がきこえる……」
 コナン王は、悪酔いしたのか、急に怒りだし杯を床に叩きつけ、
「孺子(こぞう)、黙っておれば儂や王妃を愚弄してばかりおる。衛兵、衛兵、グラドロンを逮捕しろ。城外で股裂きの刑に処してくれる」
 吠えましたので、宴席の隅に配していた衛兵が、王に命じられるままに、グランドロンを窓際に追い詰めます。
 仲間の騎士たちは、
「グランドロンよ。王と王妃に謝罪しろ。命乞いをするのだ」
 しかし誇り高い彼は、
「私は王の問いに正直に答えたまでだ。真の騎士はつまらぬ嘘などつかぬ」
 刹那、一同は鈴の音のような美しい女性の声を耳にします。
 ――御屋形様、窓から飛び降りてください。風の精である私が手を貸しましょう。
 え?
 グランドロンが不敵に白い歯をみせ、声の導くままに、窓から身を躍りだします。
 宴の広間は館の上階にありました。跳び降りたら、死ぬか重傷を負うかという高さ。
 しかし、王や王妃、廷臣たる騎士たちがかわるがる窓からみやりました。
 このとき、突然、強い上昇気流が起って、騎士・グランドロンの身体はふわふわと宙に漂いながら、ゆっくりと地面に舞い降ろされてゆくではありませんか。さらに、彼が着地する前に口笛を吹くと、彼の愛馬が駆けてきて主人を背に載せ、閉じられようとする城門を駆け抜けてしまいました。
 このとき、彼を先導したのは妖精族・シルフから迎えた妻でした。彼を助けたその人は、白い牝鹿の背に横座りして、はるか彼方に駆けてゆきます。
 一同は思わずつぶやきます。
 ――う、美しい。グランドロンは正直者だった。
 王妃は怒りにまかせて、
「世界で一番美しいのは誰?」
 と何度も叫びます。
 一同は、「王妃様です」と答えたのだが、心はそこにあらず。
 なおも王妃は、「世界で一番美しいのは誰?」と、叫び続け、ついに狂い死にしました。
「グランドロンが王妃を殺した。衛兵、馬をひけ、わが騎士たちよ、奴を追うのだ。奴を捕えよ、今度こそ、八つ裂きにするのだ。」
 逃亡した騎士が逃げた先は皆、判っています。妖精の森・シレーヌです。
 しかし、コナン王と廷臣たる騎士たちはグランドロンの愛馬を発見しただけで、グランドロンその人と、妖精・シルフ族の夫人の姿をみつけることはできませんでした。
 その後、コナンの王朝は異民族に滅ぼされます。

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