伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 掌編小説/シーサイドカフェ・冬2/2
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

掌編小説/シーサイドカフェ・冬2/2


 午後の五時前だったか、
「そろそろ僕たち、帰ります」
 と、流し髪の青年がいうと、マスターの源さんが、
「もう少し待ってろよ。もうすぐいいものがみられる」
「?」
 横に座っている長い髪を後ろで束ねたノッポの青年が、悪友の肩に腕をやって、展望用の大窓の外を眺めやった。港湾から海浜に抜けるシオサイ・ラインと呼ばれる道路をつかって南に下ってゆく途中にある。冬至が過ぎてしまえば日が延びる。あたりはまだ少し明るい。
 満月か、あるいはそれにほぼ近い状態の月が、煌々として、水平線に浮かび上がっていたのだ。
 渚の月を愛でる。
 風がない。波打つ音というのも耳に入らない。波もほとんどたっていないそういう感じの浜辺に臨んだところだった。暗くなってきた。濃い藍色の空、月明かりは、なんと、一条の橋のようになって、月直下の水平線の彼方から、浜辺まで、橋をかけたようになってみえたのだ。巾は三メートルくらいで、一点透視図法のように、水平線の奥で小さく消えるのではなく、起点からして同じ巾・三メートルを維持したまま、浜辺まで黄金の橋をかけているのだ。
 恋太郎が愛矢にいった。
「天人が月から舞い降りて、その橋を渡り、ここまでやってくる?」
「あるいは、月は球状ではなく、もともとは、きわめて長い円筒形で、いま宙に浮かんでいるのが月の切り口で、そこから、すぱっ、と斬られた。落ちた円筒形が、ゆらゆら、海中に落ち、底のほうから海面を一条の光で灯している。そんな感じにもみえる」
 店は、取り壊し寸前のような二階建てビルの上階にあり、外付昇降口を上がったところ。
換気扇シーリングファンは冬のためか停まっていた。オーナー夫妻がサーファーなので、サーフィンが天井に近い壁に飾ってあった。
 煙草に食用油を焦がした匂いが立ちこめていて、お世辞にも綺麗な店ではないのだが、洒落ていないというわけでもない。テーブルが五つあって、そのうちの三つが海に面した大窓側にあった。
 そのうち常連客がやってきた。イケメンのサーファー五人と紅一点。それから女子大生風の女性が、四人。
 サーファーたちが、
「あまりにも月が見事なものですから」
 といった。
 すると、恋太郎と愛矢の二人も、女子大生たちも、
「そうですよね、綺麗ですよね」
 と思わず割り込んでしまった。
 それからサーファーたちと女子大生たちは、恋太郎たちを挟んで、それぞれ、窓際の席に座った。
 波乗りの話もキャンパスのよもやま話も興味をひくところだが、演劇は始まっていた。プリマドンナが舞台で舞っているのだ。
 恋太郎たちは、グループの会話には首を突っ込まないことにして、とにかく、月を眺めた。空腹感はない。
 マスターが、
「おごりだよ」
 といって、ヴェトナムの麺・トムヤンクンをつくってだしてくれた。
 しかし、ろくに味わう間もなく、波にかかる月亮の橋を眺めた。
 はじめは一直線だった。それがやがて、ノイズが横に走ったように、波が映り、楕円形にぼやけた光の輪となってゆく。月は水平線から、だんだん昇って、海上にある光の輪も小さくなった。
 店の入り口にはカウンターがあって、サーファーのいるテーブル席と隣り合っているのだが、そこで、サーファーたちの一部は腰掛けグラスをスコッチを傾けていたが、そのうち退出した。案外とサーファーはナンパではない。
 女子大生たちは、相変わらず、話しを咲かせている。
 恋太郎と愛矢は、食べ終わった私も店をでた。
 二台の自転車は、湘南を模したようなシュロの木を街路樹にした海岸通りをまた走りだした。
 雪はもうすっかり蒸発していた。
 潮騒が鳴っている。





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