伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 掌編小説/シーサイドカフェ・冬1/2
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

掌編小説/シーサイドカフェ・冬1/2


 ――たぶん、あの人はサーフィンをしている。
 砂浜には白いものが降りていた。初雪だ。一センチもつもってはいない。
 月並みだけれども、なんで、ここにくると叫ぶのだろう。
「バカやろおおお!」
 潤んだ瞳をした流し髪の高校生が、大昔の青春ドラマ再放送みたいなことを口走って、波間をかけてゆく。吐く息が白い。
長い髪を後に束ねた、ノッポの同級生が後を追い、足をかけて転ばす。
「バカはおまえだ」といってから、「つまずくのも神のご意志だ」と、つけ加え、波打ち際に逃げ込んで、そこで立ち止まると十字を切った。
「ひどい奴だ」
 スポーツ用自転車で、国道を走ってきた
田村恋太郎たむら・れんたろう川上愛矢かわかみ・よしやの二人は、砂浜に降りていた。若さはバカげたことが平気でできる。何を好き好んで冬の波打ち際で遊ぶのか。雪合戦をするにはあまりにも少ない積雪量だ。二人は、ズボンの裾をまくって、海水をかけあって、じゃれ合いはじめた。疲れると二人は、砂場になぜか置いてあったベンチをみつけ、雪が半ば解けた露を払って、そこに座った。
 肩で息をしながら、水平線をぼんやりと、沖合を眺めた。とくに何を話すというわけでもなく、ゆったりと、時間は朝から昼にむかった。淡い黄金色の陽射しは、青が少し混じった白っぽいものになってゆく。砂浜は、淡い雪が解けて、蒸気を吐いているような感じだ。
 実際、どれくらいの大きさで、どれくらいの距離があるのかは判らないのだけれども、沖合に貨物船が、ゆったり、わずかに動いているのが望めた。
 太平洋に臨んだシオサイ市。同じ名前の海岸が南北に伸びている。長さにすれば二キロくらいだろうか。あのTUNAMI以前、夏であれば、海水浴客でごったがえで、海の家なんかが建ち並ぶ浜茶屋も現在はない。しかし、活気がないかといえば、そうでもない。
     ☆
 女子学生というか、新卒のOLというか。だいたいそのあたりだ。長い髪を風に束ねていたその人が、波のむこうに手を振っている。視線の先にあるのは沖にむかい、腹ばいとなって、両手で漕いでゆく男だった。青のウェットスーツを着てガタイがいいのが遠目にも判る。サーファーだ。
 男がひと波を超えた。次の波がきた。立ち上がる。波に押されて走る感じだ。ちょっと、サーカスの綱渡りに似ている。器用にバランスをとって、ゆるやかな放物線を描き、浜近くで飛び降りた。
 若い女性が、サーファーに駆け寄ってゆく。
 ぼんやりと、恋太郎と愛矢がその光景を眺めていた。
 頭上を、紅白の色がストライプになった、エンジン付パラグライダーが、通り抜けていった。
   ☆
 「シーサイドカフェ」は渚に面してある。田舎の土地は安い。駐車場に車は二十台以上停めることができるスペースだが、その日は数台停まっているだけだ。ベンツのオープンカーとか、BMWのサイドカーなんかが停まっていた。なんとなく常連という感じがする。 店の前には、椰子の木代わりにシュロが植えてあり、ハワイかアメリカ西海岸のリゾートをイメージさせる。二階建ての建物で、一階は、サーフボードの修理店になっていて、高級車に乗った男たちは、店主と話し込んでいた。
 恋太郎が愛矢にいった。
「あれ、さっきのサーファーの人じゃないか?」
意外と老けてるな。と、愛矢は思ったが口にはださなかった。
「なんとなく夏夜さんに似ている」
 恋太郎の目が潤んできた。
 夏夜さん? ……愛矢は思いだした。悪友の妄想劇にでてくるヒロインではないか。目が潤んでいる。まただ。きゃつめの正気が幽体離脱しかかっている。
「チョップ!」
 横から手刀をくらわせ、流髪の悪友を、こっちの世界に引き戻した。
「なんだ愛矢、いたいじゃないか」
「おお、復活したか!」
 カフェは外付けの階段を昇った二階にある。赤と青のネオンがあるのだが、昼なので、光はない。テーブルは五つばかりある。カウンターがあって、棚には洋酒が並んでいた。夜にはパブになる。店内を流れる音楽はロックだが、心地よい程度のボリュウムになっている。
 ジーンズにエプロンをつけた若いマダムがでてきた。ほどよく痩せている。なんと、さっき、波打ち際でサーファーに手を振っていた女性だったのだ。
「海がよくみえるでしょ。あそこが一番素敵な席。どうぞお坐りください」
 店の西側がカウンターと厨房、東側が客席。大きな窓があった。梁の上には横にしたサーフィンが飾ってある。
「おいおい、ご注文は? だってよ、恋太郎」
「あの、夏夜さんって名前じゃないですか?」
 夢見るようなまなざしを、ジーンズのその人にむけている。
 若いマダムが、
「あれ、どうして私のお名前を?」
 と、首を傾げた。
 愛矢が取り繕った。
「持病なようなものです。お構いなく」
「持病?」
「ちょっと、妄想世界に幽体離脱する特技があって、現実と夢想がごっちゃになってしまうんです。しかし人畜無害です。その点は保障しますよ。さて ……ナポリタンを二つください」
「そ、そうなんですね。……素敵な特技だわ」」
 しばらくすると、大皿に盛ったスパゲッティ―がでてきた。
「マダムさんはサーフィンをなさるのですね」
 マダム・沙羅に対する恋太郎の第一声だ。
「ええ、しますよ」
「貴男たちも?」
「しません。けど、みるのは好きです」
「私の主人はサーフィンのプロなんですよ」
 彼女は誇らしげにいった。
 恋太郎は小さく、「やっぱり」とつぶやいて、しゅん、とした顔になった。
 厨房からでてきたマスターは、サーフィン修理店のオーナーだった。大柄だが頭髪が真っ白で、二十以上は年齢が離れているのは明らかだ。午前中みかけたサーファーだ。
 店をでてから、愛矢が、恋太郎に訊いた。
「マダムがサーフィンをしていること、なんで判ったんだ?」
「全体からみて若い。しかし日焼けしていて皺があった」
「色惚けしているとおもったら、そんなところをチェックしていたのか……」
「うん、素敵だ」
「ズレてる……」
 牧師の息子であるのっぽな高校生は、悪友のために、十字を切った。




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genre : 小説・文学

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comment

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No title

本当に、自分しかいない砂浜にいると、

何か大声で言いたくなりますね。大声で海は広いなを

歌ったりして。

jizou様

早朝とかできますよ
原発事故のあった年は
映画『渚のセレナーデ』状態でしたが
それ以前、学生のころ、テレビは別として、
地でやっていた私です

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