伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 木更津(林忠崇1)
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

木更津(林忠崇1)

 昨年の夏に書いた記事です。こちらではまだ紹介していなかったので、出しておきます。 けっきょくこの構想、池波正太郎先生ほか偉い作家様がたがすでにやられていたので、一部エピソードを『伯爵令嬢シナモン3』「修道院島」に収めることにしました。あしからずご了承のほどを。ぺこり。(20100404 現在)

         ☆  ☆  ☆  


  昨日、家内と自家用車で千葉県木更津にいきました。昼は埠頭にある海鮮バイキングで食事し、食事のあと偶然見かけた看板から近くに停泊していた自衛隊砕氷艦「しらせ」の一般公開をしているのをみつけ乗船し、それから木更津駅へ向かいました。木更津駅に行ったのは、夏休み以降、私の実家福島県、出張先千葉県と行動をともにしていた家内が、自宅のある群馬県に帰るためで、駅に消える家内の後背を送ってからが、今回の旅の目的となります。 

 (それにしても、海鮮バイキングは、海老やら帆立貝やらをバーナーで焙るだけの素朴なものだったけれど美味しかったなあ。砕氷艦はクリームオレンジと濃いオレンジの塗装で甲板に輸送へりがあって迫力だったなあ)

    ☆

 家内と別れてから、私は車で市街地の東にあるなだらかな丘陵を彷徨し、太田山といいましたか山頂に金の鈴郷土史博物館というのをみつけて中に入ったところ、六十くらいの警備員さんが出迎えて、受付にいた四十くらいの学芸員さんのところに案内してくれました。

 「請西(しょうざい)陣屋を探しています。林忠崇(はやしただたか)の足跡を訪ねているのですよ」

 眠そうな顔をした小太りの学芸員さんが急に目を輝かせ、私もすでに読んだ本の内容を詳しく説明してくれました。(よっぽど退屈だったのだろうなあ)
「請西陣屋、けっこう判りづらいところにありますよ。地図は地図は……」

 私は持ってきた超低速モバイルノート・パソコン「シーラカンス・レデイ」の画面を示すと、学芸員さんは指でなぞって順路を説明してくれました。

 私は少し迷いながらも、学芸員さんのいった順路を通って、なんとか目的地にたどり着きました。途中、コンビニ2店に立ち寄って道を訪ねたのですが、陣屋跡といってもピンとこないらしく、付近にある拓殖大学付属高校と中央霊園の名前を出したら理解していただけました。

 陣屋とは、江戸時代、幕府の代官や小大名が領地に置いた庁舎のことです。庁舎とはいっても、土塁やら濠やらを巡らしているため、城の一種といいかえたほうが判りやすいでしょうか。残暑に蒸す初秋の請西陣屋跡は篠で覆われ、それでもなんとか土塁の痕跡を見いだすことができ、道路を挟んだ中央霊園の向こう側の土塁の一角に、3つの石碑が立ってありました。
 一つは、昭和のはじめに林忠崇自身が建てた慰霊碑、もうひとつは林家二十代当主が建てた昭和四十七年の林家の由来を書した石碑、最後のは表皮がかわいていてみづらい文面の石碑でした。

    ☆ 
                    
 林忠崇(はやしただたか)は数え二十一歳の青年です。その人が木更津の請西藩一万石を相続してまもなく江戸幕府が倒れ、新政府側に、「降伏した旧幕府将軍家を取り潰して処刑してしまえ」という意見も多く飛び交っておりました。新政府側には徳川家の親藩である紀州藩、尾張藩、それに大老もでている彦根藩まで加わっています。

 若いこの人は、「徳川家存続」を旗印にして出陣を決行しました。藩士八十名のうち六十名を率いての出陣です。館をでてきたとき、重病の藩士の一人が槍を杖にして、

「殿、私もおともさせてください」
 と願い出ました。二年間病に伏せ、痛々しく、誰の目にも従軍に耐えられる身体ではありません。林忠崇は、
「気持ちは受け取った」
 と肩に手をやって、その人をなだめると、やがてほかの家臣に命じて、自らの陣屋に松明を投げ込んで焼き払います。
「これは義戦である。徳川宗家とは関係なく、われらの一存で行う戦さ。われらはここへ戻ることはない。陣屋はもう不要だ」

 ──上総義軍。

 人々はそう呼んで、大名の地位を蹴った青年と付き従う六十名の元藩士たちにひざまずき見送りました。残された者たち二十名弱は、事後処理と新政府に対する工作を行っていくことになります。どちらにしても命がけのことです。

 林忠崇は旧幕臣遊撃隊に合流して新遊撃隊の隊長となります。新遊撃隊は海を渡って小田原で戦い善戦するものの新兵器で武装した大軍を前に敗れて上総に撤退し、前橋に転戦、さらに奥州磐城で最後の戦いをします。圧倒的な新政府軍になすすべもなく潰走する友軍を後目に常に最前線で戦い続けました。新遊撃隊は、新撰組とならぶ旧幕府軍最強部隊だったのです。

    ☆
                    
 いやあ、「男気」を感じますねえ。なんというロマンチストなのでしょう。自らの館を焼いての出陣は映画の名場面のようです。現地を訪ねてみて、案外と全国的に知名度の高い悲劇の英雄を、地元の人が忘れているのが意外な感じでした。林忠崇は九十過ぎまで生きて昭和十六年に東京で亡くなるラスト・ダイミョウとなります。

  ノート20090823

    ☆

 

   人気ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログへにほんブログ村

小説・詩ランキング

人気ランキング娯楽部 ※

  http://www.blogmura.com/help/?type=h&no=12http://ping.blogmura.com/xmlrpc/b3byx262eg9q にほんブログ村 
おきてがみ
次の行まで必要
------------------------------   

スポンサーサイト

theme : エッセイ
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

No title

「しらせ」は、この間、横須賀にいって、軍艦めぐりをした時に、見てきました。
すごく大きな船ばかりでしたよ・・・

歴史は、知れば知るほど、複雑ですが、
おもしろいですね!

1人の人に焦点を当てると、その時代をどういう風に、
生きたのか・・・

わくわくしたものがあります。

こんばんわ

こんばんわ。
今日は少し暖かだったようです。

林の若殿わたしも書かせていただきましたがほんとに男気ですね。
陣屋に火をつけて、まさに背水の陣ですね。
男が何かを決意したときまさにこうあるべきなのでしょうね。
わたしを始め軟弱な現代人、爪の垢を煎じて飲まなければですね(^_^;)
病み上がりの藩士も泣かせますね。
きっとあの殿には多くの者が本気でついて行ったでしょうね。
まさに人生意気に感じるですね。

それにしても海鮮料理おいしそうです(*^_^*)

Re: No title

横浜・横須賀は船関係の資料館や歴史的な船の展示が多く興味惹かれます。
林忠崇は、木更津→小田原→いわきを転戦し、活躍しています。小説ではいくつかありますが、TVドラマ・映画では存在しません。それゆえなお魅力的です。

Re: こんばんわ

いえいえ、私だって林忠崇のようにはできませんよ。十九歳のときはただの青臭い小僧でした。ふつうの男子はここまで格好良くは生きられません。ゆえに憧れますね。

海鮮はけっこういけました。そちらもけっこう美味しいところはあるのでしょうね。実は私、広島より西へは行ったことがないのですよ。
line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line