伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 17B 北欧ルネッサンス/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

17B 北欧ルネッサンス/ハプスブルク戦記




 窮地に陥ったアルプレヒトを夫にもつ、妹クニグンデは、居城を包囲する軍勢の中にいる兄君・ローマ王マクシミリアン陛下に手紙を送った。
 役者肌の陛下だ。白馬に乗って手を振り、開かれたバイエルンの都城城門をくぐる。王の供は騎士二百、そしてついでに俺ガスパーレと譜代の徒士二人。
 出迎えたアルプレヒト夫妻、それから二人の間に生まれた甥や姪を、王は代わる代わる抱擁した。
「ローマ王よ、兄上とお呼びしていいのだろうか? 皇帝の手紙を偽造したことを後悔している」
「子供も生まれている。愛し合っているのだろう。なんの問題がある?」
「!」
 徒士サトルニーノとナザリオ、そして一応騎士の俺ガスパーレは互いに顔を見合わせた。
 王は、たったこれだけの会話で、好戦的なアルプレヒト公を懐柔してしまった。
 それから皇帝に掛け合って二人の仲を認めるように説得。諸侯軍にも根回しして一気に講和に持ち込んでしまった。
 バイエルン公アルプレヒトはそれから忠実な王の片腕となったことはいうまでもない。
 王には講和をまとめたことでご褒美がつく。
 チロル公ジギスムントが退位した後、この人が抱え込んだ借金ごと、ローマ王マクシミリアン陛下が相続することになった。
 ご当地の議会は、王をチロル公国公位継承者として正式に迎えた。ここには銀鉱山があるって話だ。採掘権を豪商フッカーに売れば、たまりまくった借金を返すことができるってもんだ。
 ほどなく。
 数百年に一度現れるかどうかという名君を迎え、喜んだチロル公国人民は、あっちこっちで、お祭りになって踊りまくっていた。そういうところに、王は飛び入りして、村娘と手を携えて陽気に踊った。
「な、なんですか、陛下? 突然振り返って、そのVサインは?」
 ついこないだまで、工房公国(ブルグント)で、たて続けに叛乱を起こされ、泣きっ面だったくせに。
 ――よっ、人ったらし!
   ☆
 俺ガスパーレと譜代の徒士二人は、例の如く輜重(しちょう)の荷馬車護衛ついでに、オーストリア国境・女子修道院にいる美人の尼さんロジーナを訪ねて、王の恋文(ラヴレター)を渡す。門前にでてきた尼さんは、少しして、返書を俺たちに渡した。
「そう、陛下は再婚なさるのですね……」
 目が赤い。泣いたあとがある。そういうと。ロジーナはそのまま修道院に引っ込んだ。
 また俺たちは、王の陣営に帰参する。
「たしか、お相手は半島公国(ブルターニュ)の女公だったな……」
 工房公国(ブルグント)の先代・シャルル猪突公は、対フランス諸侯連合をつくって、フランス王家に対抗していた。ナンシーの戦いで猪突公が討死すると、この連合は自然消滅してゆくわけだが、地方にはまだ、しぶとい残党が存在していた。
 小男の徒士ナザリオがいった。
「半島公国(ブルターニュ)……。御館様(シニョーレ)、こないだまでいた工房公国(ブルグント)のフランス語読み・『ブルゴーニュ』と響きが似ていて、なんだか紛らわしいっすねえ」
 偉丈夫(マッチョ)なサトルニーノが口を挟む。
「どっちともフランスの地名だ。ブルグントはゲルマン系ブルグント族が住んでいた土地、ブルターニュはアングロサクソンに襲われて、イングランドつまりブリタニアからフランスに逃げ込んだ連中・ケルト人が移り住んだ土地という意味だ」
「さっすがあ、先輩は博学だあ~」
 自由農民出のサトルニーノはもともと学問好きで、荘園領内での裁判で判事が要るもんだから、領主の親爺が金を出してボローニャ大学に通わせていた。ところがその後すぐに、親父が詐欺師につかまって偽聖遺物を買わされ、莫大な借金を抱え込む。それで奴は中退させられ呼び戻された。気の毒なことをした。俺の傭兵稼業につき合ってはいるが、うちの領内じゃ一番のインテリだ。
「貴顕の方々は、外国の王侯貴族同士で政略結婚をするのが当たり前だ。夫婦愛は後からこしらえる」
「厄介っすねえ」
「うむ、厄介だ」
 そんな話をしながら、荷馬車を新都(インスブルック)に返し、王に尼さん・ロジーナの返書を渡した。
     ☆
 新都(インスブルック)に陣取っていたローマ王マクシミリアン陛下は、宮殿の一遇にある工房にいて、手紙を読み終わると感慨深げに窓の外をみやり、ポシェットに仕舞い込んだ。
 工房にはグーテンベルクの印刷機が置いてあった。職工たちが、それでせっせと公文書類を印刷している。
 王の横には、四角い顔の豪商フッカーがいて、俺に声をかけてきた。
「マクシミリアン陛下は、前領主ジギスムントに媚びへつらい賄賂・着服で私服を肥やしていたチロル公国を破滅させたで佞臣(ねいしん)たちを追放し、婿入りしていた工房公国(ブルグント)から、技術者や法律家、文化人といった知識人たちを、どばっ、とチロルに呼び寄せ、思い切った改革をなされている。おかげで、無秩序だったこの国は欧州屈指の先進国になろうとしている」
「フッカー殿、卿の口癖は、『貴貨おくべし』だったな。投資の価値があったというわけだ」
「もちろん」
 マクシミリアン陛下の親友にして、ハプスブルク家の莫大な借金請負人であるフッカーは、ほどなく帝国騎士に叙勲される。さすがに手もみこそしないが、自分の眼に誤りなく、投資が成功し、ほっとした感じは歪めない。
 宮殿の外にでると、市場は物資で溢れ、新都(インスブルック)は一段と栄えだした感じだ。ここでは質のいい武具をつくりだす鍛冶工房が軒を連ね、王を喜ばせた。
 また、チロルは交通の要衝で交易商人が落としてゆく莫大な関税、銀及び岩塩鉱山があった。王を熱狂的に支持するチロルに、工房公国(ブルグント)方式の法律・徴税大系を施した結果、莫大な富を生みだした。王は懸案であったハプスブルク家名物・金欠病を少しずつ脱してゆくことになる。
 小男のナザリオが、「ブルグントが引っ越してきたみたいだ」というと、先輩格のサトルニーノが腕組みして何度もうなずいていた。
 工房公国(ブルグント)からきた建築家が、宮殿・官舎を建て、画家がそこを飾った。陛下はブルグント経由で、アルプスの麓にある田舎町を華麗なるイタリア風の都城に一変させてしまったのだ。
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