伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 17A 北欧ルネッサンス/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

17A 北欧ルネッサンス/ハプスブルク戦記



 俺ガスパーレは、譜代の徒士二人を伴い、ときどき、南ドイツの行宮(ウルム)やチロルの新都(インスブルック)、山岳大公国(オーストリア)の東都(ウィーン)といった拠点から、輸送用馬車・輜重車(しちょうしゃ)を警護して、王の陣営へ傭兵に支払う給料なんかを運んでいた。その際、街道沿いをゆき、山岳大公国(オーストリア)国境近くにある女子修道院に立ち寄り、美人の尼さん・ロジーナに王からの手紙を渡す。
 馬車の前に俺の駒、後ろに口の悪い二人の徒士がいる。例の如く、小男徒士ナザリオが、兄貴分のサトルニーノにちょっかいをかけた。
「陛下は、恋文(ラヴレター)ばっか書いてて、傍目でみていて苛々してくるっすよね、先輩」
「相手は修道女(シスター)だ。還俗させるのは容易じゃない」
「そんなの、とっと既成事実をつくっちまえばいいじゃねぇっすか」
「やんごとなき方々は、俺らとは違うのさ。教会から破門とかされたら厄介だろ」
 そんな調子で、偉丈夫(マッチョ)のサトルニーノが後輩の話をあしらっている。
 たしかに、やもめのマクシミリアン陛下は恋文(ラヴレター)ばっかり書いていて、具体的な行動をまったくしていない。修道女のロジーナも返書をしっかり出しているが、燃え上がっている感じにはみえない。お友達感覚なのだろうか。まあいい。本人たちはそれで幸せなんだろうから。 ローマ王マクシミリアン陛下の妹君クニグンデ様はちょっとした小悪魔だった。可憐な美少女で音にきこえ、加えて(実態はともかく)神聖ローマ皇帝の姫君という付加価値がついていたもんだから、近隣諸国王侯の垂涎の的で、彼らを悩ました。花婿に立候補した者の中に、ハンガリー王マーチャーシュとバイエルン公アルプレヒトとがいる。ドケチな皇帝は、娘を、ちょっとした名家で、自分のパトロンになってくれそうな金持ちの大国に嫁がせようとしていた。求婚してきた君主二人の申し出を、「身分違いだ」といって断ってしまった。両者とも強力な王侯で、皇帝は二人の怨みを買った。
 さて、王の妹君クニグンデ様は、丸顔系の素晴らしい美少女だった。悩ましい微笑みをたたえる美少女、貧乏ドケチのくせに気位が高く、そのわりにガメツイ皇帝がもたらした大事件だ。この二人、まったくう、困ったチャン! 例の如く、われらが王は尻拭いをさせれる。
     ☆
 ――今回の標的(ターゲット)は、バイエルン公アルプレヒトだ。    
 マクシミリアン陛下が、ローマ王に戴冠する以前、そして、婿入り先・ブルグント公国の先君シャルル猪突公が残した負の遺産を精算し、なおかつフランス王国のちょっかいで戦火がくすぶるブルグントに赴き、火消しに奔走なさっていたころの話だ。
 星形というか魔法陣というか雪の結晶にもみえるのが城壁で囲んだ城市だ。いまのご時勢、どこの町もこんな恰好だ。
 チロル公国インスブルク都城もそんな感じだ。ハンガリーに、直轄領である山岳大公国(オーストリア)の東半国を奪われていた皇帝は、帝国各地の自由都市やら修道院をふらふら彷徨っていた。そのため、甥っ子にあたるチロル領主ジギスムントに皇女クニグンデ様を預けていた。ジギムントの公国はチロル州の他にフォアラント州も併せていた。そしてこの人はバイエルン公国からお妃をもらった。お妃の甥っ子がバイエルン公アルプレヒトだ。
「なんて美しいんだ。天使というのはこういう姿をしているに違いない」
 ――違うって、小悪魔だよ!
 樫の木に結わえた紐でブランコをこしらえ、スカートをひらめかせて遊ぶ美少女。その後ろで皇女の乗ったブランコを押してやる侍女ロジーナもまた美麗で、とても絵になった。
 そんなわけで、鼻の下をのばしたアルプレヒトは、何かにかこつけて、あしげくチロルを訪ねてきたというわけだ。その気があるようなないような、そんな態度で、男をあしらう。ひらひら、スカートが揺らめく。
     ☆
「鼻血ぶ~っ」
「黙れ、ナザリオ!」
「しゅいましゅえ~ん、先輩~」
「黙らせました。お続けください、御館様(シニョーレ)」
 では話を続けよう――
     ☆
 青臭いバイエルンのアルプレヒトは、皇帝が滞在する修道院に赴いて、「クニグンデ様をください。ください、ください、ぜひ、ください」と子供のように頼み込んだ。
 しかし気位が高い上にガメツイ皇帝は例の如く侮辱するように突っぱねた。アルプレヒトは、困った顔でクニグンテ様にその旨を伝える。
「御父様が許可して下さらないのなら駄目。諦めましょうね」
「ならば……」
 アルプレヒトは、皇帝の筆跡をそっくり真似た結婚許可書をつくり、クニグンテやチロル公夫妻にみせた。善は急げだ。バレないうちに自領のバイエルンに花嫁をひっさらい、式を挙げて既成事実をこしらえてしまった。ここでやめておけばよかったのに、男は欲をこいた。
「皇帝の嫁をもらったからにはローマ王に立候補できる」
 そう公言してばからない。
 他方で、叔母さんの嫁ぎ先であるチロル公が、豪奢な宮殿をいくつもおっ建てた上に、美女を侍らせ、酒池肉林の宴をやらかしたもんで、国庫が空になった。
 このときバイエルンから多額の借金をしている。
 我慢を重ねていた議会がついに怒り、退位を迫った。後継ぎはいない。「仕方ない」と同議会が新しい領主を公募する。このとき外戚となっていたアルプレヒトはすぐに飛びつく。多額の金を貸しているという事情もあって、差し押さえたい、という願望もあった。
 しかしチロル公の叔父である皇帝が、割って入ってきて、「後継ぎは息子のローマ王マクシミリアンだ」という話にまとめてしまった。
 頭にきたアルプレヒトは腹いせに、帝国自由都市の一つを攻略してしまった。皇帝に庇護された都市という名目の都市ではあるが、皇帝の私領ではない。弱小領主を襲うならいざしらず、他の諸侯が遠慮して襲わない都市を奪うのは帝国全体への挑戦となった。
 ――バイエルン公国を帝国から破門する!
 帝国議会で皇帝が詔勅をだすと、腰の重い諸侯たちにしては珍しく迅速に動いた。バイエルンは強国でそれなりに善戦したが、ドイツ全土を敵に回し、さらに無敵のマクシミリアン陛下まで戦列に加わったのだから堪らない。根城に籠って亡国となるのを手をこまねいてみているほかなくなった
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