伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 13B 君主の死がもたらすもの/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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13B 君主の死がもたらすもの/ハプスブルク戦記


 翌一八八二年、ギネガテ以来のフランスとの小競り合いと、ネーデルランド諸都市の叛乱で、大公マクシミリアン陛下の金庫が底を尽いた。ギネガテの戦いで相手をした、フランス王国のデスケアード将軍が兵を集めだした。
 戦って勝つことは下策であり、戦わずして謀略で勝つということは上策である。そしてまた戦争とは経済だ。もはや、大公マクシミリアンに戦う余力はない。ネーデルランド諸都市・市民を籠絡したフランス王ルイは、すべてを、若い大公に呑ませることに成功する。
 十二月、沿海州である北部領西側にあるアラス城市にて講和条約が結ばれた。大公は、コミーヌたちがネーデルランドの親フランス派と謀議していた内容を記した条約条文に署名した。
 フランス史上最大の謀略家が最後にみせた凄みだった。ギネガテの初陣で勝った大公は、死の床にあった老獪な「蜘蛛」王に戦わずにして敗けた。
 大公は、この会談に同席したギネガテの戦いの功労者・ナッサウ伯や、騎士ボルハイムに、「絶対に子供たちを見捨てない」と、屈辱に拳を震わせ天を仰ぎそう叫んだとのことだ。
 オーストリア本国が、東隣のハンガリー王国軍によって蹂躙されている。貧乏なこの国は傭兵を雇えない。そこに宮廷をおいていた父帝フリードリヒ三世は、なすすべもなく、ドイツ諸国を逃げ回った。
 ――ネーデルランド諸都市の自治権拡大だと? フランス王が庇護して自治を許可しただと? あの「蜘蛛」がそんないい奴か? 笑わせるな、ただの乗っ取りだ。おまえたちは利用されているだけなんだ。こんな祖国をみているのが辛い。
 若いマクシミリアン大公を支えてきた公国の重鎮や各都市の市長たちは、親フランス派貴族と扇動された暴徒たちによって捕えられ、処刑台に吊し上げられていた。「いい残すことはないか?」と訊かれてそう答えた市長は、「うるせえ舌だ。切り落としてやる」と生きながらにして切り刻まれ殺された。どこの町も同じだった。
 大公の娘・マルグリット公女がフランスに誘拐された一方で、その兄であるフィリップ公子がフランドル諸都市によって拉致されていた。子供の彼を名目上の大公として祭り上げたわけだが、もちろん実権のない傀儡だった。
 だが、自業自得というべきなのだろうか、「蜘蛛」ことフランス王ルイ十一世慎重王の誘いに乗って、マクシミリアン大公一家を裏切ったフランドル諸都市の支配層は、豪商や貴族たちによって構成されていた。だが、反乱者たちも一枚岩ではない。各都市は、互いの商船を襲いあい、都市内部でも、没落騎士が市民の家に押し入り、市民が徒党を組んで豪商屋敷を襲って略奪するといった無政府状態に陥っていたのである。
 ――国庫は借金で空っぽ、宮廷の金銀財宝は借金の質、帝国からの援軍もない。二人の子供は敵がさらっていった。しかし絶望はしていない。
 大公はそんなふうにいっていたそうだ。
 このころ大公は、亡くした愛妻の亡霊をよくみていたという。遺児二人を失い失意の底にあった夫を、励ましにきたのだろうか。しかしほどなく彼女は現れなくなった。
 若い大公マクシミリアン陛下にとっての不幸中の幸いは、ヘンネガウ、ルクセンブルク、ナミュール、ホーラント、ゼーラントの五州がマクシミリアンを支持した。そして、富裕層ではなく中流層が、彼の人柄を慕って義勇兵として参加してきたことは幸いだった。
 翌一九八三年夏、若い大公は、奪われた幼いわが子たちをその腕にに抱くため、巻き返しを開始した。湿地帯に陣を敷き、ユトレヒト城市を包囲、間断なく大砲で砲撃して、二か月後に陥落させることになる。
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