伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 04Bナンシーの戦い/ハプスブルク戦記
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

04Bナンシーの戦い/ハプスブルク戦記

 年が明け一月になった。前哨戦で工房公国(ブルグント)の偵察隊は壊滅状態にあったし、主公(わがきみ)・猪突公と麾下の軍勢は、激戦続きで疲れきって、まともな判断ができなかった。本来は撤退して講和すべき戦いだったのだ。
 ナンシー都城の囲みを解いたシャルル猪突公は、五千の工房公国(ブルグント)兵を、町の後方にある谷間に集結させ、方陣を組んで。左翼に野砲部隊、右翼に騎士隊を配備した。
 野砲隊は、谷の進入口・尾根上に、野砲三十門からなる部隊を配備したものなのだが、山林のため、よくみえず、眼下にいる敵を狙い撃つにはかなり無理があった。
 本来は最前列か両翼に配備すべき俺たち手砲・鉄砲隊八百名は、どういうわけだか、予備戦力として最後尾に回されてしまった。戦闘で馬を失った俺は、譜代の徒士二人のいる手砲・鉄砲隊将校の一人として、そこに配属されていた。
 そこに、敵は、まさかの奇襲をかけてきた。回廊公国(ロレーヌ)公麾下の地元傭兵とスイス傭兵は、虎口たる谷間を使わずに、山林の尾根を乗り越えて、左右から挟撃してきたのだ。
 敵の角笛が三度鳴った。
 それを合図に、山林の尾根を乗り越えてきた敵は、谷口に集結してきたブルグント公国軍右翼・騎兵隊に襲い掛かる。歩兵を主力としたスイス傭兵一万だ。山林戦に備え、長槍の半分の柄である槍矛に持って踊りかかる。そのくせ方陣密集隊形は崩さない。
 工房公国(ブルグント)騎兵隊を指揮するのは、音にきこえし騎士ラランだ。しかし一千騎そこらでは善戦こそしても、十倍もの戦闘マシーンを相手に敵することはできるものではなく、やがて壊滅した。
高台の工房公国(ブルグント)軍左翼野砲隊は、主力野砲・蛇砲(カルバリン)及び最新鋭の野砲・ファルコン砲三十門を配備していた。回廊公国(ロレーヌ)傭兵隊が突っ込んでくると、数発を撃って応戦。だが山林の樹木がじゃまで視界が悪く思ったほどの戦果をあげられない。やがて大軍が接近してくると数に劣る砲兵はパニックを起こし逃げだした。
スイス傭兵・回廊公国(ロレーヌ)傭兵双方が、凍った沼の畔で歩兵方陣を敷いていたブルグント本隊の左右から踊りかかった。
 敵軍が、谷口から正面突破してくると予想していた主公(わがきみ)・シャルル猪突公の読みは、完全に外れた。
 斧槍は文字通り槍に斧を装着した武器だ。長槍の半分くらい、というか人の丈より少し長い程度の大きさだ。後に回された俺のいる手砲・鉄砲隊が、主君・シャルル猪突公の盾にならんと、慌てて両翼に回った。前線に出たとき、すでに戦いは銃撃戦やら騎馬突撃から、白兵戦に代わっていた。敵味方の槍斧が交差し、その度に死傷者がでて、立っている兵の数が減じる。
 槍斧戦は、頭上からのぶっ叩き合いだ。槍部で刺すのはとどめになる。大粒の雹(ひょう)が落ちてきたかのような物凄い打撃音が鳴った。
 前衛が崩れた。後詰になった俺の相手になったのは、またも初老のスイス人傭兵アルムだった。莫迦でかい奴だ。
「儂はアルム。命知らずども前にでてこい。首級を手柄にして孫娘の持参金に替えてやる」
 俺は、銃を捨てて長剣を引き抜き、そいつと交戦した。
 支えを失った工房公国(ブルグント)本隊は、態勢を立て直さんと後退しながら、陣営を立て直してゆくのだが、じわじわと、潰されてゆく。
 スイス傭兵隊は、工房公国(ブルグント)軍を包囲しだした。
 アルム爺との相手はほどほどにして、俺は部下と、シャルル猪突公の最後の盾となろうとした。
 スイス傭兵槍斧隊が突撃する。
 白兵戦は激烈さを増す。
 自ら槍をふるって戦う、主君(わがきみ)・シャルル様を乗せた駒が、狭い小川を飛び越えようとした。そのときだ、疲れ切った駒は飛び越えられず、猪突公は小川に振り落とされる。莫迦でかい老スイス兵が、槍斧を叩きつけ、主君シャルルの兜を割ったのがみえた。
 ――主公(わがきみ)!
 敵味方の兵が入り乱れている。足元は死体の山だ。こうなったらもう、どれが猪突公の遺体だか判らない。二時間にわたる激闘が終わろうとしていた。やるだけやった。主公(わがきみ)の討死を見届けた俺は、サトルニーノとナザウと一緒に、囲みの弱いところを、突破し戦場から離脱した。
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genre : 小説・文学

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