伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン 『国際貨客船・長崎丸の怪』10
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン 『国際貨客船・長崎丸の怪』10



 菅船長と西崎青年、金子夫妻、花田一家が混じっている、第三デッキの乗員・乗客を前に、僕がいった。

「姫様、じゃあ、そろそろ、事件の種明かしを……」

 黄金の髪を後ろに束ねた若い貴婦人が、「そうですね」といってから、紺碧の双眼を一度閉じ、ゆっくりうなずく。仕草のどれをとっても完璧で、優雅(エレガント)だ。

「――犯人たちが目論んだ事件は、この船・長崎丸が出航する前に、船外で、完結しています」

 観客たちは、顔を見合わせ、ざわついた。

 レディー・シナモンが、ざわめきが静まるのを待ってから、ゆっくり、事件の真相を語りだす。

「複数犯による犯行です。主犯は、東京の下宿に住む学生・鈴木慶太郎さんを、大阪に呼びだし殺害しています。恐らくは六甲山とか、人気のない郊外にでも呼びだし、そこで犯行に及び、遺体を埋めたものです」

 薄々感じてはいたものの、若い燕の死を伝えられた女流作家・森三千代は卒倒しかけたところを容疑者である夫の金子光晴に抱きかかえられる。しかしだ。大阪で夫妻はずっと一緒にいたはずで、夫には、アリバイがある。
 では誰が犯人か――。

 姫様は続けた。

「複数の犯人たちは老若男女で構成されています。犯行実行の際、男の人が慶太郎さんを羽交い絞めにする。その間に別の犯人、女の人でも子供でもいいのですが、被害者の鼻をつまみ口が開いたところに、水で溶いた青酸カリを口に流し込む。その際、苦しみもがいた被害者は相手の手を爪で引っ掻いて軽い怪我を負わせたため、羽交い絞めにした人物は、包帯をしているはずです」

 その人の目線は、三井銀行上海支店栄転で家族そろって渡航するのだという中年の男に目をやった。

「なんだと、まさか私が犯人一味だというのか? 証拠は? 第一青酸カリだってなんで判るんだ。第一、薬局で買うときは、購入者名と住所、使用目的を書き込まなくちゃならない代物なんだ。そう簡単に手に入るわけないだろ!」

「青酸カリは、もともと、金属精錬や塗装に使う触媒で量産されるものだから下町の町工場にいくらでもあり、犯人は工員を買収することで、容易に手に入れることができます。長崎丸での第一の事件で、私は、ここ第三デッキで血痕をみつけました。杏子というかアーモンドというか、とにかく甘酸っぱい匂い。これは青酸カリと胃酸が化学反応を起こした硫化水素です。その残臭だったというわけです。そうすると、たまたま甲板にでようとした銀行員花田一家のお嬢さん・麗子さんが、銃声をきいたという話は成り立たなくなる」

「そ、そんなあ。私、犯人一味になんか加わってない!」

「返り血を浴びるとなかなか抜けないものですね。貴女の身体に、わずかだけれども、杏子臭が残っています。貴女方ご家族、いいえ、家族を装った刺客集団は、鈴木慶太郎さんの血を採取して瓶に詰め、あたかも、デッキで射殺されたかのようにみせかける」

「いったい、なんのためにだ?」花田氏が喰ってかかった。

「主犯は、犯行を、ある人物になすりつけようとしたのです。被害者・鈴木慶太郎様は、森三千代さんと愛人関係にあり、夫である金子光晴様は嫉妬している。立派な殺す動機がある。船員である犯人は、金子様が、長崎丸に乗るということを知り得る立場にあった。金子さんが予約を入れたとき、犯行計画を練り、刺客を雇って鈴木様を東京から大阪に呼び出し殺害し、山中に埋める。金子様が、拳銃とかナイフとかで射殺したかのようにみせかけるため、デッキに血液を付着させた……というわけです」

 船長が口を挟んだ。

「なるほど、銃声をきいたというのは麗子嬢だけだ。銃声がきこえたと証言することでわれわれに暗示をかけたというわけか。しかし三千代さんは、鈴木さんを目撃しているって話だったが……」

「三千代さんが目撃したのは被害者生き写しの人物です。この船の乗務員で、最近雇用された若者になるでしょう。つまりその人が、犯行計画を練った主犯だということになります」

 紺碧の双眼が、西崎青年にむけられた。

「なぜ、僕が?」

「鈴木慶太郎さんの弟さんですよね?」

 西崎青年は目を白黒させる。三千代女史が彼の顔をのぞきこむ。

「遠目からはケイちゃんにみえる。でも近くでみると違う。それに匂いも……」

 彼女は西崎に詰め寄るのだが途中で、がくっ、と突っ伏しかける。夫が抱きかかえる。
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