伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン 『国際貨客船・長崎丸の怪』05
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン 『国際貨客船・長崎丸の怪』05



 貨客船構造は、船体の上に、特等室・一等室といった客室がある階層キャビンデッキが乗っかった形状をしている。船体から遠いほどエンジン振動が小さくなるので、そこには高額料金の部屋があるのだ。下に向って二等室、三等室、乗務員室となり、最下層に貨物室がくる。エンジン振動が大きくなり不快感が増すのはいうまでもない。貨客船長崎丸には貨物室容積を大きくとった分、特等室と二等室がない。


 女流作家・森美千代の愛人は鈴木慶太郎といっていた。金子氏と別れた僕と、姫様レディー・シナモンの二人は、ボーイにいって、支配人(マネージャー)級の乗務員に要件を伝えてもらった。


 ボーイは西崎という。眼鏡をかけた細身で長身の若者だ。シャツに黒の蝶ネクタイをつけ、チョッキを羽織っている。


 ボクと姫様が、丸テーブルと椅子が置かれたヴェランダで、待たされた。紅茶とクッキーが供された後、ボーイの西崎青年が戻ってきた。


「支配人ではないのですが……」そう断って、ボクたちを、船長室に招いた。


 途中、二人連れの船員とすれ違った。


「たまんねえ、いい女だな」


「いい女だ……」


 小声には卑猥さがあった。ボーイは二人を尻目にみながら、震えているようにみえた。

姫様も気付いている。気になる。


 ボクは左腕に下げたハンドバックの口に右手をそっとやった。まさかこんなところで襲い掛かることはあるまいが念のためだ。ハンドバックには護身用拳銃デリンジャーが忍ばせてある。


「あの二人は?」華奢で優雅なこの人のどこに度胸があるのだろう。姫様はまったく表情を崩さないし声も震えていない。


 西崎青年は二人がいなくなったのを確認してから、「乗務員の吉田と三好です。ガタイのいいのが吉田で、華奢なのが三好。二人とも三十二歳。ガラが悪いんで仲間内でも評判が悪い。関わらないでくださいね」と小声でいった。


 キャビンデッキの上にくっついているのが操舵室のある船橋だ。そこの付け根にあるのが船長室である。思ったよりも大きくはない。事務机、本棚、寝台、リビングセットが置いてある。


 船長は、五十代半ばほどの人物で、菅源三郎と名乗った。


 客船や貨客船の船長という職責は、航海と船の全般を把握していることはもちろんのこと、スピーチをする機会が多く、ジョークもたまに交えるくらいの愛嬌が求められる。加えて、糊の効いた制服を着こなした菅船長は、日に焼けていて、古武士のような風格があった。


「お嬢さん方、わざわざお越しくださりありがとうございます。事が事なのでむさい部屋にお呼びしたことを詫びましょう。さて、行方不明になった鈴木太郎という人は、確かに三等室乗客名簿にありました。乗務員で手分けして探してみたのですが、確かに、いない。実をいうと航海では、そういうことはままあることでしてね。乗客が乗船するときの数と下船するときの数が合わない。われわれは被害者がなんらかの事件に巻き込まれて海に投げ込まれたか、あるいは飛び降り自殺をしたと考えています」


「そういうことがあるのですね」


「そういうことがあります。しかし迷宮入りになってしまう。レディー・シナモン……貴女は警察や探偵というわけではないのだけれども、いくつかの事件を解決したという噂を訊いている。一つわれわれにご協力いただけませんか?」


「もちろんですとも」姫様は笑みを浮かべて即答した。


 予想はしていたが、どうして、いつもそうなのだ。頭痛が……。


 菅船長から乗客名簿と船の見取り図を渡された。それで、姫様レディー・シナモンと、ボクの二人は、西崎青年の案内してもらい、三等室にむかったというわけだ。
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genre : 小説・文学

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