伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 伯爵令嬢シナモン 『二十号文書』02
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

伯爵令嬢シナモン 『二十号文書』02


 東京駅発の蒸気機関車は西にむかって走っていた。

 車窓にもたれた姫様、レディー・シナモンは、博士と欧州とアジアの巨石記念物についての話をしていた。

 巨石記念物の代表的なものは英国のストーンヘンジなのだが、あそこまで大型でなければ、支石墓(ドルメン)のようなものは、欧州から極東アジアにかけての広い範囲でみられる。それはキノコみたいな恰好をした墓石で、高さ数メートルの支石の上に、ひょい、と傘をのっけているので、その名がついたのだ。

 濱田博士がいた。

「新石器時代から青銅器時代にかけてあったようだ。どこが発祥地で、どのように伝播していったか、研究者間で論争しているのだが、時代が噛みあわないらしい。ああ、朝鮮半島とか日本の九州にもあるよ。ただ大きさは小さくて衰退期のものが伝播してきたような感じなんだ。レディー・シナモン。君の所見は?」

 姫様は少し考えてから、「伝播説と、同時発生説ですね。こういう考えもあると思いませんか。たとえばある民族がモニュメントを造ったとします。巨石記念物は一度建設されると、壊れずにしばらくそこに存在しますから、ケルトのような行動半径が広い民族の吟遊詩人が旅すがら、通りかかり、感銘を受ける。構造を調べ、歓待された氏族の村の有力者に話しをすると、有力者は真似て造ることもあるのではないでしょうか」と答えた。

「なるほど、技術的な難易度は高くない。極東アジアの支石墓(ドルメン)はまさにそれだ。まあ、ケルトが日本にまできてはいないだろうけどね」博士は笑った。

 姫様は話題を変えた。

「濱田博士、地中海諸文明に関する諸論文を日本に紹介なされましたね。いくつか拝見いたしました。ギリシャのクレタ島から本土ミノアへ。そこから現在のイタリアであるエトルリアへ文明が伝播した経緯を、とてもコンパクトにまとめていらしゃいます」

「レディー・シナモン。いつも君には驚かされる。日本語が話せるばかりか、文字まで読めるようになっていたとは――」

 ボクが口を挟んだ。

「姫様は数週間で、日常会話に支障のない程度の外国語をマスターすることができる。トロヤ遺跡を調査したシュリーマン博士や、イラク国王顧問のG・L・ベルもそうなのだが、彼らは母国語訳本をしっかり読んで、あとは音読と綴り書きを反復することで、一か月以内にそれを成し遂げた」

「簡単そうにおっしゃるが、私には真似できそうもない」

「ボクにも真似ができませんよ」

 濱田博士とボクは笑った。

 濱田博士はボクのハンドバッグを何度かみた。たぶん博士は気づいている、ボクが小型拳銃を隠し持っているということを……。主従・女二人連れが見知らぬ土地を旅している。護身用の武器を携帯していても不思議はあるまい。伯爵家執事という肩書だが、令嬢専属のとなれば、実際にはボディーガードを兼ねている。

 ボクは博士と話しをしながら、ときどき一等車両に入ってくる客に目をやった。なにぶんにも姫様は若く魅力的だ。厄介ごとは、ボクが水際で潰さなくてはならない。

 列車が横浜駅に停車したとき外国人の若い男が車両に入ってきた。スーツ姿ではあるが恰幅のから軍人のようにみえる。

 ロシア人か。殺気のようなものを感じる。ボクは鞄を手繰り寄せた。
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