伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 恋太郎白書 第9話「ポモリ教授の恋人」
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

恋太郎白書 第9話「ポモリ教授の恋人」

 むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。
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 自主休講した恋太郎が、愛哉(よしや)と封切りの映画に行った帰り道のことだ。駅前のベイカリーに入るポモリ教授をみかけた。あいさつをしようと店内をのぞいたところ、年若い女性店員と話し込んで楽しそうにしていたので、そのまま帰宅することにした。
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  ※  ※  ※
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 数日後。
 シャンソンのレコードがいつもかかっている〝めらんこりい〟 大学の講義受講のあと、恋太郎はその日もやってきた。店のマダムに悪友の愛哉、そしてポモリ教授が先客でいる。
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 音楽家ポール・モーリアによく似た口髭をはやした教授は、ズボンのポケットから蓋のない懐中時計をとりだして針をたしかめると微笑んで出迎えた。
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 教授と愛哉の隣りには、みたことのある顔があった。そう、ベイカリーにいた女性店員だ。
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 若いというよりは幼く、中学をどうにか卒業した、くらいの年齢だ。いかにもフランスを意識した瀟洒なベイカリーに勤めていて、こざっぱりした感じがするため、仮にパリジェンヌとよぶことにする。
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 例のごとく、マンドリンを携えたポモリ教授が、パリジェンヌを紹介した。
「ガールフレンドのパリジェンヌです」
「一目でわかりました。恋太郎さんですね。いつも教授からお話しをうかがってます」
「え?」
 ポモリ教授とパリジェンヌは親子以上の年齢差があり、しかも未成年ではないか。
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 肩のところで切りそろえた髪。深緑のベレー帽を被って、淡いピンクのネクタイを締め、ジャケット帽子と同じ色のジャケットを羽織っている。
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 パリジェンヌのご両親は離婚して母親は再婚。いまは、やもめになった父親と、下の弟二人と一緒に暮らしているのだという。高校は定時制にし、ベイカリーで働いているのは、将来は職人となって、店をもつのが夢だからだ。
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 ──この娘(こ)は、〝ヴィジョン〟をもっている。凄い!
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 浮き雲のような恋太郎には目から鱗。教授が好きになるのも無理からぬことと思った。
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 教授は、若いとき映画界で脚本を書いていた。教授にいわせれば、
「綺麗な風景のところに、美男美女を連れてって、くっついたり、離れたりさせるだけでいいのですから、楽な仕事でした」
 とのことだ。
 恋太郎たちは、話しを訊いて笑った。 
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 教授は余暇に絵本をかく。挿し絵画家は、たまたま目にした外国の雑誌にあったスイス人を登用した。水彩画で、少し抽象画がかっている。話の内容は、むかしのことなので忘れた。
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 教授はパリジェンヌのために気の利いた曲をいくつかプレゼントする。そんなとき、なにかインスピレーションを感じているようだった。
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  ※  ※  ※
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 〝めらんこりい〟をでて、愛哉と帰る道すがら、愛哉が、
「教授には家庭があるから、あの関係は、不倫だよなあ。いけないことだよなあ。けれど、教授があの娘(こ)と〝そういうこと〟になってもいいように感じてしまうのは不思議だ」
 といった。
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 恋太郎には、ポモリ教授とパリジェンヌは、愛哉のいうような、馴れ馴れしい間柄ではなく、年齢の離れた気の合う異性の友人というふうに映った。
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 ──ポモリ教授とその恋人。
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 月の夜、ベランダに立ち、ビールグラスを傾けると、ときどき〝めらんこりい〟にいた二人を思い出す。長じて、
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 ──人の色恋に、道義やら嫉妬やらをもちだして、横槍をいれることに何の意味があるのだろうか。
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 とも考える。
 大学を卒業してから、どれくらい経ったのであろう。恋太郎の記憶のなかのポモリ教授は歳をとらない。いまも大好きな人である。



  ※  ※  ※

アバター
2010/03/16 03:01
らてぃあ様
ちょっとうらやましいですね。
お洒落なお話しをなさっていると思います。

藍姫様
かるく恋。そう、そんな感じでしょうか。
 
アバター
2010/03/15 22:20
不倫、愛欲……ではなく、恋と表現するのが似合う関係ですね ^^
初恋のような初々しさや瑞々しさを感じました。 
アバター
2010/03/15 21:51
年齢差関係なく信頼しあえる仲っていいですね。
2人でどんな会話するのか興味あります。
アバター
2010/03/15 19:12
いつもながら、まとめてのレスで失礼いたします。ポモリ教授は著者が学生時代にお世話になりました実在の恩師をモデルにしております。ソフトでお洒落な初老の紳士。なかなか魅力的な方で、エピソードを物語にしてみたものです。

キャプテンケロロ様
いつもよんでくださりありがとうございます。ぜひお作りください。

そめこ様
かわいくて、まじめなお母さんですね。まあ、人の恋路ですから。恋太郎と同じで淡い恋を楽しんでいるのだと思います。「桜が咲いたね」「城址公園はライトアップされて夜桜が素敵でしたよ」とか。

でふぉると様
精神的なギブアンドテイク。あると思います。クレヨンのエピソードにでおっしゃていらっしゃるように、人の価値観というのは、大きく外れなければ恋太郎の許容量におさまるということです。他人でも、恋人には優しい恋太郎という主旨です。
『恋太郎白書』は、ふられた自虐日記失恋カウント集、あるいは一目惚れカウント集というわけではありません。隣人の恋に関する恋太郎の所見ということで。意地悪くみればそういう関係にもとれなくもないですね。別なファンがつきそうで危険です。(笑)

きらりん様
『マイフェアレディー』
ポモリ教授は理想の女性をつくるのではなく、いまいるパリジェンヌが大好きなのです。存在そのものが嬉しく、芸術家のインスピレーションを刺激するわけです。しかしまあ、セットが似てなくもないですねえ。

なぎさ様
魅力的な人は特別な香りを放ち魅了するものです。花の色香に魅せられた胡蝶が舞うかのように、教授の周りには学生たちが集ったものです。性別を超越し、ファンタスティックに人を酔わせることができる人も世の中に存在するのですね。

そらちゃん様
学校外の師弟関係。そうかもしれません。けれども教授にいわせれば、パンを焼く彼女を尊敬する。という教授の言葉が著者の記憶にあります。実際のところは、〝めらんこりい〟には連れてはきませんで、教授のお話を聞いたお話しをアレンジしています。
アバター
2010/03/15 12:46
ポモリ教授とパリジェンヌ。。。。。
きっと、学校外の素敵な師弟関係だったんじゃないかと・・・・(勝手に推測・・・^^)
もし、、、そんな不倫関係の恋人だったら・・・・
ポモリ教授は、教え子も立ち寄るメランコリィには
連れてこなかったと思います。 ^^
 
アバター
2010/03/14 21:04
パリの香りって 何だか良いですねぇ~
人は自分にないものあるいは失ってしまったものに
惹かれるのでしょう・・
それがたまたま男と女だけだっただけなのでしょう
年令も関係ないのかもね 素敵な人はいつまでも素敵です
心の中にそうインプットされているからですね^^v

アバター

2010/03/14 18:57
ポモリ教授とパリジェンヌ。
彼女は、教授のマイフェアレディだったのかな?と思いました。
 
アバター
2010/03/14 14:08
人と人との繋がりは特定の一つの単語で表せられるものでしょうか。
『恋人』という単語で表してはいますが、この二人の関係は?

昔、「子供絵画展」というテレビ番組が有って、入賞作品に紫色の街並みの絵が有りました。
評論家はその絵を「素晴らしい色彩感覚と発想です!」と興奮気味に絶賛していましたが、
絵を描いた子供はインタビューで「灰色のクレヨンが無かったから」の一言。
(目で見た灰色のクレヨンが無かったからと言って紫のクレヨンを使うのはどうだろうか?)
歳をとるとイロイロな経験を積んで、より良い選択が出来る様になりますが、逆に自由な発想は
固定観念が邪魔して出来なくなってしまいます。

芸術家のポモリ教授はパリジェンヌの瑞々しい感性に惹かれ、パリジェンヌは父親とはまた違った
余裕の有る(生活苦にあくせくしていない)円熟したお洒落な大人の男性に魅力を感じていたのでは、と思いました。
人と人との繋がりにはギブアンドテイクが必要だと僕は思います。
(それは、物やお金だけでは無く精神的なものも不可欠)
お互いに得るものが有り、お互いに尊敬しあえる関係は、きっと長続きするかと。
                                            長文の感想で失礼しましたm(_ _)m
 恋太郎の恋にポモリ教授もカウントするの? ∑(゚ロ゚;)エェッ!?
アバター
2010/03/14 13:44
わわわ。。。不倫・・・なんとも微妙なお話ですね><

ポモリ教授は気持ちも若くて、ステキな方なのでしょうね。
ガールフレンドとどんなお話をされてたのかしら。
 
アバター
2010/03/14 11:18
素敵な小説です。
僕も、小説作ろっかな~


せ、先輩、ルパンだあ~っ!


 

 

 

 

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こんばんわ

こんばんわ。
昨日からちょっと前のデスクトップを分解組み立て、再設定とかしていたら何度も失敗(^_^;)
ようやく終わりすべてバックアップほっとしました。
快適になりました。
それでちょっとブログはそのままでした。
また鋭意がんばりますので(^_^;)
とりあえずご挨拶まで。

こんばんわ

こんばんわ。

ポモリ教授、実在の方なのですね。
いかにもいい感じですね。
その娘さんと合うのも何かわかる気がします。
「綺麗な風景のところに、美男美女を連れてって、くっついたり、離れたりさせるだけでいいのですから、楽な仕事でした」
これはほんと笑いますけれど。

こんばんわ

自作パソコンですか
すごいことをなさっているのですね

了解いたしました

KOZOU様

学生時代に入り浸った先生がモデルです
とても面白い方でしたよ
くっついたり、離れたりというのはそのまま

パン屋の若い娘さんとの関係は
たぶん茶飲み友達程度だと思います

この方、がつがつ、してないからモテルのです。
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