伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 奄美のリアル事件簿 『古墳にお宝は残っているか?』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

奄美のリアル事件簿 『古墳にお宝は残っているか?』

 私・奄美が、現在所属している遺跡調査会社をクリスタル社と仮称する。実家のある福島県に戻る必要が生じたので、同社でミッションは今回が最後になる。霞ケ浦に面した湖南(こなん)市にバイパス道路ができることになり、そこの調査を手伝えという内容だった。ところがだ、市の担当職員が人事異動になって、しかも補充がない。別件を担当していた職員が、こちらを兼務することになった。「責任は取ってやるから、御自由に掘って」な状態になっている。

 業務は入札制だ。役場にある入札会場のホールには長机が置かれ、黒スーツを着た各社代理人がずらりと並んでいた。代理人たちが提示された図面をみる。

「ダメだ、こりゃ。業務設計した奴、素人さんだぜ」

 道路路線は、早く用地買収がされた順に、先行して調査がされ既に完了していた。縄文時代から平安時代の遺跡である。各時代の竪穴住居跡、古墳、それから溝がぎっしりと詰まっている。

 竪穴住居一軒を掘るには、八名前後で五日前後かかり、総人員四十名前後を要する。遺物の多い遺構はより詳細に記録をとる必要が生じるので、コストがかかる。遺物がないところを、見切って、スコップを使って余分な土を効率よく排出させ、遺物のあるところは小型のシャベルであるところの移植コテで丁寧に形をだしてゆくのだ。フィルムカメラ及びデジタルカメラで写真をとり、光波または平板・レベルといった測量器材で図面をとる。

 民間調査機関が一遺跡を発掘調査する場合、一平方メートルにかかる費用は最低で三千五百円を要する。これ以上値下げすると、調査会社は手抜きせざるを得なくなり、利益をあげるどころか、調査する意味すらなくなってしまうのだ。

 遺跡の面積は七千平方メートルだった。常識的に考えれば費用は約二千五百万円となる。ところがだ。湖南市の業務設計価格は辛いものがある。提示された依頼費はなんと一千万円。この仕事をとったら赤字だ。二十社が入札に参加したのだが、各社とも、設計価格を超える額を下回らせるか、あるいは辞退した。

 辞退すればいいものを、この超貧乏クジを、うちのクリスタル社は、引いてしまったのだ。入札会場に行った職員に対して、取締役である社長夫人が嫌味をいうこと三十分に及んだ。
 現地での調査全権を実質託された私。遺構が確認できる地山面・関東ローム層まで表土を除去する。あけてビックリ玉手箱。道路路線の遺跡範囲で、虫食いのように、先行して行われた調査箇所は遺構密集地点で、私が入ったところは、遺構間の空白域だったのだ。

 そこそこの遺構はあるのだが、各社が予想した遺構数の半分以下だ。やり方を失敗しなければ、赤字どころか儲けが出せる。竪穴住居跡が六軒、古墳が二基。二つの古墳墳丘は後世の耕作者が何世代かをかけて削って、すっかり平地にされていた。うち古墳一つは南半分が調査済みだ。墳丘の周囲を穿っ造った濠(ほり)の北側を掘るのみ。時代は七世紀で遺物はきわめて少ない。

 さて問題だ。ネックになる新規発見の古墳が一基ある。直径十メートル。玄室すなわち主体部つき。古墳時代の玄室は、古い奴が竪穴式で、新しい奴が横穴式になるのが一般的だ。ところが、このあたりの古墳は最後の最後まで竪穴式にこだわっている。横穴式よりはこだわった構造ではないのだが、それなりに、調査は面倒なものになる。

 場所は、養豚農家が豚糞を集積した畑の一角だった。そのため、最初、豚小屋の基礎構造だと考えていた。表土を重機で掘削してから、作業員さんに指示して、地面を平たく削り、遺構プランがみえやすくなるようにする。

 ここ一週間、強風が吹いてばかりいたので地面は乾燥していた。現代のゴミ坑やら芋穴ばかりだった。ところが二日ばかり雨降って、ゴミ坑と玄室の上端プランがみえた。そこの上を近世から近代のものと考えられる溝が縦断して壊している。溝は二十センチというところ。しかし、しかしだ。本来三枚あったはずの石棺の蓋のうち、二枚が、溝にかかってなくなっている状態だ。

 さて、ここで仮説。石棺内部の遺物すなわちお宝が残っているか否かということだ。

●溝はたぶん、土地所有者間の境界を示す地境溝(じざかいみぞ)だろう。磁器がでてくる。江戸時代のものだ。溝が穿たれるということは、それを構築された当時、すでに、古墳の墳丘は消滅しているはずだ。

●溝を造った人は、プロの盗掘者ではない。地境溝を造った農民だ。偶然に、主体部の蓋に当たって、邪魔だから、それをどけただけだ。通例この場合どかされた蓋は、農家の庭石とか、水路の石橋に再利用される。

●偶然墓に当たったわけだから、石棺と認識した場合、盗掘された可能性が高い。中は土が流入して詰まっているのが現状だ。蓋二枚が外されたときもこんな具合だったとする。石棺に詰まった土をクワとかで、ガサツに取り除く。人骨とか遺物がぐちゃぐちゃにかき回される。青銅の鏡とか勾玉とかいった残りのいいものは持ち去られる。

奄美の所見/

 たぶん、鉄刀とか鉄鏃とか、錆びて、もちあげると崩れるようなものは、持ち去られずに残っていて、人骨も砕かれた状態で、ちょっとだけ、慰留している可能性が考えられる。 遺跡を掘るときって、はらはらどきどきの推理の連続ですよ。

   END


ノート2013.04.27


●追記/けっきょく、中身はごっそりと全部盗掘されていました。石棺は、板状に切り出しているため石材としても貴重だったためか、この付近ではレアな発見だったようです。それでも不幸中の幸いとのこと。
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