伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 『オッドアイの竜は眠らない』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

『オッドアイの竜は眠らない』


 先日、こんな映画を観た。そうそう、タイトルは、『オッドアイの竜は眠らない』。

 冒険者だのトレンジャーだの、なかには勇者だのを自称して、ここにやってくる連中は多い。ロマンだの、レアアイテムだの、そんなことを口走る。なんのことはない。盗掘者ではないか。

 周囲を禿げた断崖で囲まれた巨大な盆地・中つ谷には、「失われた帝国」サンの都城遺跡トキオスだ。城壁、宮殿に神殿、貴族たちの屋敷、市井……。都城の各建物は、砂に埋もれたり、一部が露出していたりしていた。 

 宮殿内部はかがり火がついている。かがり火といっても松明ではない。何か失われた技術による照明だ。人魂(オーブ)のように揺らめいていた。奥には石でできた椅子があり、そこに、ちょこん、と白磁の人形が座っている。十五歳前後というところだろう。長い髪の少女で、フリードがついた古風な ドレスを目にまとっている。

「竜さん、『お客様』ですよ」

「ミカド。じゃ、いってくる」

 少女はミカドと呼ばれているようだ。

 歩き出した少年が振り返って手を振った。歳のころは十八くらいだろうか、眼帯をつけていた。

     ☆

 パーティーは三人。勇者はゲイツ、賢者はマーリン、そして騎士見習いのジークだ。

 竜がいった。

「遺跡荒しか?」

「我らを遺跡荒らし呼ばわりするのか? 墓番か? 若いな。今日のところは勘弁してやる。」勇者ゲイツが笑った。鍛え上げられた体躯の持ち主だ。

 竜は宮殿の門のところからどかない。奥にはミカドと彼が呼ぶ少女が座っている。冒険者とやらを、中に入れたら何をされるか判ったものではない。

「そこをどけ。急がぬと日が暮れてしまうではないか」賢者が無言で笑った。長い灰色の髪をした細身の男だ。

 ひ弱な感じの少年ジークは黙っていた。戦闘時は、弩(いしゆみ)を持って、勇者と賢者をサポートする。ふだんは食事や身の回りの世話をしているのだろう。

「何が望みだ」竜が訊いた。

「いわずとも知れたトキオスの至宝だ」

「それはできぬ相談だな」

「墓番の分際で――」

 ゲイツとマーリンがともに叫ぶ。

 賢者マーリンは、あらかじめ呪文を唱えて、使い魔を封印しておいた杖から、それを解き放った。水の妖精アクアだ。砂と化した中庭から水が吹きだし、津波となって、高みに立った少年に襲い掛かろうとしていた。

 そのときだ――

 オッドアイとは左右の目の色が違う者を指す。十八くらいだろうか。竜と呼ばれた細身の少年は、まさしくそうだった。眼帯を外すとそれが現れた。するとどうだろう、戦斧(せんぷ)を手にした水の妖精アクアは、ぎょっ、とした顔になる。そして霧のようになって消えてしまった。

「ガキ、おまえ、まさか――」勇者ゲイツがわめいた。

「オッドアイのドラゴン――」賢者が続けて叫んだ。

 騎士見習いジークが弩のトリッガーを引く。矢にも、あらかじめ賢者が呪文をかけている。炎の妖精フレアが姿を現し、鏃(やじり)を火球のようにして、中つ谷のドラゴンと呼ばれたオッドアイの少年に、飛びかかっていった。とこが、魔眼に魅入られた妖精は、空中で身をひるがえし、賢者を射抜いてしまった。

「そ、そんな……」無念の言葉を口走った賢者マーリンが両膝に土をつけ、そのまま突っ伏し果てた。

 勇者が、ちっ、と舌うちする。

「竜を倒した者はすなわち、ドラゴンスレイヤー。竜がもつ通力を獲得し、不死身の身体となれる。ゆえに、中つ谷の至宝とはつまり、オッドアイのドラゴン、おまえだ!」

 勇者ゲイツは長剣を引き抜き、人並み外れた跳躍力で、鋭い突きをかましてきた。

 オッドアイの少年・竜の双眼に勇者が映る。閃光を放つ。瞬間、少年は、翼の生えたドラゴンに姿を変えた。ゲイツの剣は、開いたその口の奥にはとどかないうちに、背中から、ぞぶり、と鈍い音をたてた二本の牙で串刺しにされてしまった。

「そ、そんな……」勇者ゲイツも無念の言葉を吐いて息絶えた。

 それを、汚いものが口に入ったかのように、ドラゴンは地面に吐き捨てた。ゴロンと彼の亡骸が地面を転がる。

 残されたのは騎士見習いジークだ。弩に二の矢を装填する余裕はなく、ただ、蛇に睨まれた蛙のように固まって立っていた。

 ドラゴンは、十八そこらの少年・竜の姿に戻った。オッドアイの片方を眼帯で隠す。そして人差し指を天にむけ、ふっ、と笑った。

 見習い騎士の少年は亜麻色の髪をしている。装着していた鎧が、はらり、と地面に落ちた。シャツとパンツ姿だ。

 くるくるくる……。

「あっれぇ~、御代官様~」ジーク少年の身体がターンする。衣服がリンゴの皮を剥くみたいに、しゅるしゅる、剥けてゆく。

 ふっ、と笑った竜は、一糸身にまとわないジークをたくり寄せて手籠めにした。「御代官様だと。笑わせるな、俺の正体はな……」行為に及びながら頚から血をすすった。吸血鬼ドラキュラは、悪魔デビルや竜ドラゴンと同義である。オッドアイの少年はまさにそういう存在の化身だったのだ。

     ☆

 バタム……。

 門の外に、素っ裸にされた美少年が放り出されるや否や、重厚な城門の扉が閉まった。

 石柱建ち並ぶ宮殿広間に戻った竜は、片膝をついて、玉座にちょこんと腰かけた童女に報告した。

「文化財保護法に基づき、盗掘者どもに、教育的指導を施しました」

「トキオス市教育委員会教育長・竜、大義である……」と口にしたミカドは、眼帯をつけた少年の口元に血がついているのを目ざとくみつけた。

「エッチ!」そっぽをむく。

「てへ……」

 片膝をついたままの竜は舌をだした。

 ――で、この映画、どこで観れるかだって? 目を閉じてごらん。そこが君のシアターさ。

     END
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