伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 奄美のリアル事件簿 『遺跡調査資金横領事件』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

奄美のリアル事件簿 『遺跡調査資金横領事件』


そこには石器を描くことの巧みな女性がアルバイトをしていた。土地の有力者の娘で、モデルのようにとても美麗なのだが、なぜだか独身だった。

 同僚のパート職員の小母さんたちが、挨拶代りに、「早く結婚してなさいよ」といったら、「私、セックスしてますから」と答えた。

 そんな噂話をしたのは佐竹という人だった。

 二〇〇〇年になったばかりのころだった。私・奄美は、合併で消えた群馬県南秋名村に、埋蔵文化財担当嘱託職員として派遣されたことがある。

 秋名村には一人だけ正職の学芸員・佐竹健一主任がいて、村域で発生した開発物件の調査をしていた。当時三十前半、やや色白、切れ長の目をした長身イケメンだった。話題は軽やかで人好きのする印象を受けた。仕事はよくでき、近隣市町村教育委員会の埋蔵文化財担当者たちからのウケも非常に良かった。

 私の派遣についても、いろいろと世話を焼いてくれ、レンタカーの手配やら、備品の調達なんかも手伝ってくれたものだった。しかしいくつかの点で、どうにも、心を開くことが出来ないところがあった。彼は軽いのだ。よそ者の私に、よく知らないアルバイト女性の醜聞を、わざわざ、報せてくれなくてもよいではないか。

 私・奄美は、六世紀代に火山噴火で火山灰に埋没した水田を発見した。その仕事の中でいくつかのドジをやらかした。

 この業界では二〇一〇年代ではデジカメも使用しているが、なんと主流はいまだにフィルムカメラが主力なのだ。アーサー感度一〇〇セットが普通で、当時勤めていた会社では固定されていた。それがどういうわけだか、ダイヤルが動いていて四〇〇になっていたのである。若さゆえの愚言というもので私は、「他にカメラもありましたから」といってしまった。彼はそこで言葉を荒げず、私の直属上司に電話でクレームをいった。そしてそっちから叱責を受けた。

 彼の方法は正しいのだが、前日のことはまったく触れずに、爽やかに振る舞う態度が異様に感じた。

 もうひとつのドジが、遺跡を覆っている軽石を重機で除去する作業に手間取っていたことだ。軽石は園芸関係資材として金になる。ゆえに、このあたりではちょっとした産業になっているほどだ。重機をだした土木会社は、一般の土と軽石を分けるべきだろうといった。地元の作法のようなので、その提案を受託した。

 失敗の回避は、佐竹氏ともう少し詰めて、軽石と土壌を混ぜて残土置き場に運搬集積すれば作業効率を上げることである。この当たりの非も認めよう。現地作業において見積もりよりも若干予算オーバーした。佐竹氏はその辺りで、困り顔であったが、「なんとかします」といい、実際になんとかしてしまった。

 有能なのだが、何か、危うい感じがする。そのため、後日、村に派遣されることになった後輩職員たちには、「佐竹さんのあの爽やかな物腰には気をつけろ」といったものだった。



 身長は百九十はあるだろうか。長身細身で頭が少し薄くなっている。日に焼けていて丸眼鏡をしている。丸眼鏡、土木用作業服を好んで着用している。当時勤務していた会社は、正木栄一氏が経営する遺物整理会社Relicに業務の一部を下請けに出していた。

 正木氏は測量会社に勤務して、ラジコンヘリ空撮担当をしており、こちらの会社が、先方に何度か委託したことがあった。そのうち、独立して、測量や遺物整理を行う自分の会社を立ち上げた。当時、ひよっ子だった現場事務所に、直属上司を訪ねて、彼が挨拶に来たのだが、不在だったので私が応対した。

 彼は実に品よく笑った。仕事でくるときはいつもそうだ。土器やら石器を自分のオフィスに持ち帰って、撮影やら実測をする。はじめ、ここの会社は縄文土器の実測が苦手だった。その補正にこちらの会社のパートさんたちが手を焼き、「正木さんのあの笑顔に騙されちゃダメ」と何度か私にこぼしていたのが記憶に残っていた。



 それから十年以上経ち、勤めいていた会社が破産。再就職先である会社の社長が、同業者から電話を受けて、内容を私に伝えた。

「奄美君、南秋名村の正木さんって知っているよな。業務上横領で逮捕されたぞ。新聞にもでてる。そう、秋名市として近隣市町村と同時合併されたとき、会計課が監査したところ、発覚したらしい。そうそう、Relicの正木社長も捕まったそうだ」

 私は唖然とした。ネットでニュース記事を読んだ。

 南秋名村時代、佐竹主任は、正木社長のRelicに遺物洗浄・撮影・実測といた整理業務をよく出していた。見返りに、現金をキックバックさせていたのだ。総額三百万円相当で、生活費に充てていたのだという。

 遺跡事務員がちょこちょこと、経費を誤魔化し、一部を懐に入れていたことは耳にしたし、そういう人物が身近にいたことがあった。最大三十万の被害で、信用失墜を恐れたのか、前の会社でも今の会社でも被害届を警察に届けていない。

 しかしここまで本格的な業務上横領ケースは前代未聞だ。昨今の公僕は内部に厳しいのだろう。

 遺跡調査には利権が存在する。事件の後、再発防止策で各自治体では、埋蔵文化財担当官の遺跡に関連する財務的な権限を大幅に削減した。調査内容に明るくない会計課担当者は、ときどき、的外れな予算枠で、調査業務の入札をかけるので、指名業者が困惑することも多々生じている。結果として、各社が辞退して不調になったり、調査が粗くなったりすることもよくあることだ。

   END
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