伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 奄美のリアル事件簿 『藤岡ゴルフ場遺跡の盗難』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

奄美のリアル事件簿 『藤岡ゴルフ場遺跡の盗難』

 学校を卒業し、とある遺跡調査会社に就職して間もない頃の話だ。世の中は、バブル経済が破たんしたといわれてはいたが、まだ、さほど景気は悪くない、失われた四半世紀の序盤だった。上司の山田係長と現地入りしたのは、群馬県にある藤岡ゴルフ場遺跡だ。ゴルフ場は、新しいコースを造成するのにあたって、コースそのものはできなのだが、せめて遺跡調査だけでもしておこうというのである。

 遺跡は、縄文時代、弥生時代を飛ばして、古墳時代、奈良・平安時代が主体になっている。三つの地区に分かれており、累計すれば、全部で三か所一万平方メートルくらいあったであろうか。教育委員会の担当者が、うず高いゴミの山を指さしていった。

「山田さん、あれ、なんだか判ります?」

「古墳ですか? 五基ありますね。終末期・七世紀のものですね」

「ご名答。あのへんのゴミってね。御巣鷹山に墜落した日航機のものなんですよ。小学校の体育館に安置した遺体はもちろん遺族に引き取ってもらいましたよ。遺留品もね。あそこにあるのはほんとのゴミです。そうですね、重機で払って調査区の端にでも寄せておいてくださいよ」

 日航機墜落事故が起きたのは私が学生のときだった。ボーイング社の機体が、構造的欠陥だか整備不良とかで、尾翼が吹っ飛び、乱高下した挙句、埼玉県との県境に近い群馬県上野村御巣鷹山に機体が墜落した。生存者が若干いたが大半は亡くなっている。上野村は人口が少なく、警察に混じって、藤岡市民の有志が遺体捜索に協力した。遺跡調査の作業員さんやその家族でも参加された方がいらした。遺体の大半は近くの小学校体育館に仮安置されたのだが、夏場で腐臭が酷く、建て替える羽目になっている。

 捜索に参加した作業員さんは、「上野村は何もしなかったのに補助金が沢山でた。藤岡市は人をたくさんだして、死臭がこびりついた体育館を立て替えてもらっただけでほとんど貰えやしない」とこぼしていた。

    ☆

 晩秋から初冬にかけての調査期間中ごろだったと思う。土曜日に、急きょ休日出勤をした日があった。作業員さんの吉川さんほか何人かには連絡がつかない。それでも十人ばかりが集まった。吉川さんは、遺跡近くの集落の人で、そちらの行事に参加するのだということを他の作業員さんから訊いた。遺跡にあった古墳時代の竪穴住居跡からは、完形の土器が、ザクザク、でてきた。

 昼近くだ。吉川さんと村衆十人ばかりが、盗掘集団のように、スコップをかついで、遺跡の中を突っ切る凸凹な農道を歩いてくるではないか。深く掘り込まれた竪穴住居から、ひょい、と顔をだした私に、吉川さんが声をかけた。

「いやあ、奄美さん、今日は土曜日だからお休みだと思っていましたよ。集落(むら)の道普請の日だったんでね。がははは」

 吉川さんは元自衛隊の人で、身長は低いがゴリラのように肩幅がアンバランスに広い。ボーイスカウトのようなカーキ色の作業服に、カーボーイハットをしている。

 夕方ごろ、好事家である元小学校教諭のセンセイが、遺跡を見学にやってきた。小柄で眼鏡をかけた出っ歯である。統合性失調症とかで早期退職した人だ。調査をしていると、あれやこれや質問してくるので、はっきりいって邪魔だ。ゴルフ場やら教育委員会に、「遺跡は重要だから保存するか、復元するかの必要がある」といってきた。

 その日、センセイは菓子折りを持ってきて、私によこしたので、礼をいう。

「何もアンタにやるわけじゃない。作業員さんにやるんだよ」

 判り切ったことだ。しかしそういわれると、気分を害する。

    ☆

 山田係長は、時間厳守の人で、遅刻と残業を異様に嫌うので午後五時ちょうどに宿に帰る。新人であった私は、仕事の要領がつかめず、自分のノルマをだらだらこなしていた。そういうわけで、図面のチェックを夜の八時くらいまでプレハブ事務所で行っていた。しかし私は鈍い。日航機の遺留品がどっさり古墳に被っていようと、古墳自体が古代有力者の墓であろうと、調査期間において、幽霊のような存在を一切みることはなかったのである。ともかく一区切りを終え帰宅した。集の終わりの金曜日だ。月曜日は有給休暇をとった。その月曜日に山田係長から、電話があった。

「奄美君? 土日に遺跡にきた? もしかして、プレハブで探し物とかした?」

 困ったような、半分おちょくるような物言い。プレハブ事務所で窃盗事件が起きたのである。考えてもみるといい、プレハブなどというものは薄板に窓枠をはめ込んだもので、窓も扉も明り取りのガラスが張っているだけだ。そこを石なんかで割って、内鍵を開ければ簡単に内部へ侵入できるではないか。

 急きょ、休みを返上して遺跡にでむき係長と一緒に、盗まれたもののチェックを始めた。

 犯人は、入口扉の硝子を鈍器で割り、中へ侵入し、慌ただしく物品を盗んだようだ。文具類やダルマストーブ、NTTからレンタルした電話受話なんかも盗まれている。現金は置いていない。

 山田係長がいった。

「ほう、犯人は製図用ドラフティングテープを盗んでいったのか。物の価値というものを知っている。箱ごとだと二三万円になるな」

 被害総額は三十万円相当になった。

 係長のいうように、犯人はプロだ。恐らく彼らはワゴン車をプレハブ事務所の横に置いて、プレハブ侵入から制限時間十分に設定して、その間に、ワサワサ、物品を積めるだけ積み込んでいったのだろう。犯人は複数に違いない。値打物を知っている奴と、知らない奴。それから見張りを兼ねた運転手の三人というところか。具体的には一見無価値にみえる製図用ドラフティングテープが高値であることを知る者が玄人泥棒、ダルマストーブやらレンタル受話器を盗んでいった者が新米泥棒ということになる。

 当時、遺跡プレハブ事務所は、工事事務所同様に窃盗団のターゲットにされたものだ。私の持論なのだが、そういう場合、犯人は事前に犯行現場を決まって下見する。もちろん、散歩ついでの見学者を装ってだ。ごく稀にだが作業員に潜んでいるときもあるかもしれない。

 現場で完形遺物が盗まれることはあるのだが、遺物が集積されたプレハブでそれらが盗まれた経験はない。恐らくは積み上げられた遺物収納ケースにから関係遺物を見つけ出すのは手間だし、骨董屋に持っていっても足がつきやすいからなのだろう。遺物を盗むのは金品を狙った人物ではなく、かい集趣味、あるいは出来心からだろう。

 推理小説として、妖しいのは吉川さんかセンセイになる。しかしこれはプロの現場荒らしの仕業で、身近にいた二人にはとてもできない芸当。実際の犯人は、二人以外の、印象に残らない見学者に違いない。犯人は何食わぬ顔で、周囲の景色に溶け込み、事務所を下見し、夜から明け方にかけて一気に、盗んで逃走したのだ。

   END
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genre : 小説・文学

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