伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 41/仮想電脳都市コイマチ1930 『かぐや姫ならいるかもね』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

41/仮想電脳都市コイマチ1930 『かぐや姫ならいるかもね』


 記憶が混乱している。テロリストと戦ったために生じた一時的な記憶障害のようなものと、愛矢が説明していた、あれだ。走馬灯のように、回復してきた記憶が、どっと、押し寄せてくる。

 そうそう、彼女と婚約した日のことだ。

 中古車であるカローラⅡに麻胡先生を乗せて旅に出たのは、事件の傷を癒す必要があると僕は考えたからだ。スキー場は開いていたが、恋太郎はスキーもスノーボードもできず、麻胡先生から手ほどきを受ける。だんだん笑顔が戻ってきて歓声をあげるようにまでなった。

 宿泊したペンションの部屋のベランダに立つと獅子座流星群がみえる。流星は次から次へと落ちてきて、線香花火のように瞬いた。僕がいった。

「僕が子供の時に絵本をみていたら星が五芳星であったり十字に光を放っていたり、あるいは十を○で囲んだように表現されていました。こういうデザインは古代オリエントでつくられたそうです。

 そのころの僕の視力は一・二を越えていて、星は点にしかみえませんでした。絵本のようなデザインにはみえなくて疑問に思ってました。ところが最近、ちょっと乱視がはいってきたら、十字、○十字、五芳星にみえてきたんですよおっ。

 アラブ圏の人たちはやたらと視力が高くて、北斗七星第八番目の小さな星が見えた人が戦士となる資格が与えられたと訊いたこともあります。誇張しているのでしょうけれど、中学校のときの科学の先生が、『連中は視力四・〇くらいはある』なんていっていましたよ。それはまあ、おいといて、それくらい目がいい。

 そこで僕はこう考えるんです。『古代オリエントで瞬く星のデザインを考案した意匠作家は、乱視だったのに違いない』という結論に達しました」

「恋太郎説ね」

 麻胡先生が笑った。

「隕石はね、金属やガラス質のものが多いのだけれども、ごくまれにアミノ酸が含まれていることがあるの。アミノ酸はタンパク質の重要な構成物質で、生物の根幹をなしているから、地球上の生命は流星がもたらしたのではないかという説があるわ」

「するというと、僕たちは流星の子孫なのかもしれませんね」

「相変わらず君は詩人だなあ」

 僕はがポケットから小箱をだし、「あの、受け取ってください」といって麻胡先生に手渡した。もちろん麻胡先生はそれがなんだか判っている。

 その人は、「はい」とだけ答え婚約指輪を受け取った。
 そうだ、僕たちは、愛矢夫妻としたんだった。愛矢の親父さんが牧師だったんで、そこの教会でやったんだった。愛矢は、国語教師になった同級生のチエコとした。

      ☆

 愛矢が事件のあらましを説明した。

 麻胡先生は、娘・雫を産んでから復職し、しばれくしてから、国際宇宙ステーションで一年を過ごすというミッションの最中だった。僕たち夫婦の語らいは、セキュリティーが万全だという定評があった、仮想電脳都市(コイマチ)で、チャットを使っての語らいだったのだ。

 そのころ、テロリストたちは、国際宇宙ステーションのコンピュータをハックして、これを爆破しようと計画していた。カルト的な宗教団体で、自分たちの存在を世にアピールするのが狙いだ。

 奴らは、どこで知ったのか、麻胡先生に狙いをつけた。それで、彼女が舞台から消えると僕に攻撃をかけてきたというわけだ。

       ☆

 そしてまた雲の切れ間から月がみえた。

 ベンチに四人が並んで座っていた。中央右に僕、左に愛矢、愛矢の左隣にチエコ。そして僕の右隣にはこないだ幼稚園に入園したばかりの娘・雫がいる。

 愛矢のジャケットから携帯電話が鳴った。オペレータと話をしてから、それを、僕によこした。受話器から訊こえてきた声は、その妻からだった。

「月に兎はいるかなあ?」

「莫迦ねえ、いるわけないでしょ」

 結婚前、彼女に電話をかけるとそんな答えが返ってきたのを覚えている。

 そして、ようやく電話回線が復旧した、国際宇宙ステーションに電話をかける。彼女がいった。

「兎、いないわよ。かぐや姫ならここにいるけどね」

「君はかぐや姫だったの? どんなプレゼントがいい?」

「キスだけでいいわよ」

 僕は携帯電話に口づけをして切った。

(追伸、明日、また口づけを贈ります。恋太郎)

  了
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なんとまぁ~ロマンチック
じゃあまた明日ねってキス♪
ひょえ~映画のの世界よ
 
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どんなに試しても無駄
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悔しい
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