伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 14/仮想電脳都市コイマチ1930 『愛矢流(2)』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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14/仮想電脳都市コイマチ1930 『愛矢流(2)』

 チエコとあだなされていたのは芳野彩という高校時代の同級生だ。学年トップで、おまけに美人ときている。髪が長い。問題なのはシャイなところだ。親友は西田加奈というショートカットの娘。髪型意外は、二人とも同じような背格好をしている。高校二年のとき、西田加奈がすがりつくように、愛矢に相談してきたのだという。それも、直に話をするのではなく、無記名で手紙を愛矢に送ったのだという。はじめ、愛矢は黙っていた。話しかけても返事をしないので、問い詰めたら加奈の手紙を渡した。ラブレターではない。
 下校時、自転車通学をしている二人は、海岸通りのベンチの横に自転車をとめて座った。
 風が吹いていた。波と波の間隔が狭い。風は海岸線に沿って吹いている。サーフィンにはむかない波だ。白く泡立っている。
 僕は、その手紙を読んだ。
「前略、愛矢様。お気づきのことと察しますが、チエコに対するほかの女子の様子がよそよそをしくなっていますよね。無視に近い状態になっています。下駄箱にゴミを入れられたりもしています。担任の先生にも話してみたのですが、逆効果です。先日は、脚をかけて転ばされるところをみたと思います。もちろん、実行犯は、冗談を装ってはいるのですが……。黒幕がいます。クロエです」
 黒幕だからクロエと加奈が呼ぶのだが、本名は、佐々木絵里だ。
「で、どうするんだ?」僕は愛矢のほうをむく。
「できるだけのことはする」 
「手伝うか?」
「悪いな」
「そんなことはない」
 たぶん、立場が逆なら、愛矢は無条件で僕に協力するだろう。
 翌月、中間テストがあった。いつもなら、トップクラスにいるチエコの成績が十何番かに落ちた。
 さらに数日後の休み時間、チエコを取り囲んで、親密度の高くない女子連六人組が、トイレに連れだそうとしているところだった。離れた席にいた加奈が、愛矢に、目配せした。たしかに邪気がある。女子トイレに連れ込んでよからぬことをしようと企んでいる。女子の一人が、丸めた上着を手にしていたのだが、そこから紐がでている。カメラだ。トイレで裸にして写真を撮るとでもいうのか。
 愛矢と僕は、女子トイレのドアの前まで先回りをして、強引に割り込み、素っ頓狂な声で、「数学の宿題がまだなんだ。教えてくれよ」といって、チエコの腕をつかみ、屋上まで脱出させた。それから愛矢が、教室に残っていたクロエの前にいった。取り巻きは離れたところでみている。クロエは、自分の席で文庫本を読んでいて、すましている。
 愛矢が、クロエの横にきて静かにいった。
「ああいうことはよせ」
「さあ、なんのこと?」
「とぼけるな」
「ほんとに何もしらないのよ。ごめん」
クロエの視線は開いた本から離さない。
 下校時、自転車置き場に愛矢と僕が、自転車置き場にゆく。チエコと加奈も一緒だ。クロエの息のかかった男子連中が、徒党を組んでいたのだが、眼付けをしただけで、その日はなにも起きなかった。
 翌日の帰りがけ、僕と愛矢は、男子生徒に囲まれた。ほかのクラスの奴やら、上下級生までいるではないか。連中は、いよいよ、やる気なようだ。肩を突き飛ばされ、屋上の昇降口横で囲まれる。
 愛矢が、「勝ったぞ、恋太郎」といって十字を切った。
 なにが、「勝った」だ。実際、僕らは、袋叩きで、後ろ手にされて、いいように横っ面やら、腹やらを殴られていた。しかし、どうにか、帰ることはできた。職員室にはいかない。なんとなく、事なかれ主義で問題を先送りし、逆に窮地に追い込まれるように感じたからだ。
 よたよたと自転車に乗って、僕たちは下校した。
「なあ、恋太郎。第一次世界大戦でトルコは敗けたって習ったよな。しかし敗けた後に外交で頑張った。戦勝国同士がぶんどった領土を巡って仲たがいをしたからだ。そこにつけ込んで、敗戦処理をしていた政府が、バルカン半島の付け根にあったイスタンブール近郊の領土を取り返すことに成功したんだ」
 そのときは、何をいっているんだか、よく判らなかった。僕の怪我を家族はとがめたのだが、階段から転げたことにしておいた。翌日は全身が痛く、はうようにして、登校した。愛矢は学校に着くなり、殴った連中で、ボス格の前に立った。
「子分になりたいのか?」ボスがいった。
「立場が逆だろ?」愛矢が白い歯をみせた。
「なんだと!」ボスがえり首をつかんだ。取り巻きが愛矢と僕を取り囲んだ。
「警察に被害届けを出しておいた。いまごろは職員室も大騒ぎだろう。俺と恋太郎が、取り下げない限り、おまえたちは少年院ゆきだ。もっとも、クロエの指示に従って動いたって、白状すれば、罪が軽くなるかもな」
 実際、サイレンこそ鳴らしてはいないが、校舎下にパトカーがきている。
 連中は蒼白になって、土下座した。
「あたし、関係ない!」席で文庫本を読んでいたクロエが金切声をあげる。
 愛矢は、「僕が昼までに連絡しないと、親戚の子が、郵便ポストに封筒を投函することになっている。おまえたちがしたことが全部書いた手紙だ。あて先は新聞社だ。クロエ、社長令嬢が逮捕なんかされたら、おまえの父親がやっている会社は打撃だろうな。潰れて来月はホームレスになっているかもな」  
 クロエが悲鳴をあげるように泣きだした。
「脅迫するの。あんた、それでも牧師の息子?」
「僕も恋太郎も正しいことをしている。理不尽な真似をされたら抗(あが)なう。神も許したもうたことだ。神に対して胸を張ってそういえる。悪事を働いたものには罰が下される。単純なことだ」
 愛矢は十字を切った。僕、チエコ、加奈は唖然として、愛矢をみた。連中は警察署に連行され取り調べを受ける羽目になった。そこに学校やら父兄が泣きついてきた。けっきょく、僕らは訴えを取り下げ、奴らを許した。愛矢は暴力を誇らない。番長なんかにはならなかった。もちろん、卒業まで連中が小さくなったのはいうまでもない。ふだんは物静かである牧師の息子は、こういう戦い方をした。こいつにつきあって、ぼこぼこに、殴られた後には、勝利の女神が微笑んでいるようだ。早速、グラスに美酒が注がれた。チエコと加奈を相手に、愛矢と僕は、生まれて初めてデートというものをすることになった。ダブルデートという奴で、やたらと健全なのが玉に傷だが……。

 アラビアのロレンスの実兄は牧師になったのだという。ロレンス中佐をアバターにしている愛矢はあながち分不相応でもないように思える。
「恋太郎、俺たち今年、三十になるんだよな」
「そうだったな」
 会話が途切れた。しかし心地よい沈黙だった。
 パソコン画面むこうの愛矢は、運営事務所にいるのではなく、もしかすると、家に帰っているのかもしれない。あるいは、僕と同じく、本当に好物のチョコレートをつまみながら、ニッカ・ウィスキーのグラスを片手に、一杯やっているのかもしれない。
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今晩は。

殴られれば、当然のことながら傷害罪に該当しますが、

殴られるの恐いですよね。確かに主人公は知能的だが、

命がけですね。

jizou様

> 今晩は。 殴られれば、当然のことながら傷害罪に該当しますが、 殴られるの恐いですよね。確かに主人公は知能的だが、命がけですね。

友人愛矢の発案で、チエコを守ることになります。つきあった恋太郎と彼には、単なる幼馴染というだけではなく、血の友情が生まれたというわけです
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