伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 02オクラホマミキサー/電脳仮想都市(コイマチ)より
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

02オクラホマミキサー/電脳仮想都市(コイマチ)より

 路面電車の停車場が姿を現した。先に待っていた客たちの最後尾にいた、僕・恋太郎は、路面電車に乗った。どういうシステムになっているのだろう。僕は彼女に再会した。舞妓姿をしているからか、彼女は、マイコと名乗っていた。博多人形みたいで綺麗だといったら、彼女はそれがやたら嬉しかったとみえて、「今日から私は、博多マイコよ」といって笑った。緑色の地で、窓枠のあたりが、オレンジの横線になっている。中はというとクリームホワイトの壁で底が板床になっている。長椅子に座ることができる。
 インターネットはメールの往来を基本にしている。一般のメールは文字通り手紙だ。これに対し、チャットは、同一時間にネット上の待ち合わせ場所にアクセスして、ネット上の友人たちと、ライブにタイピングし、メールをやり取りするのだ。まるで、喫茶店でお喋りするかのような感覚だ。チャットをやるとき、利用者の分身として、モニターに映し出される動く挿絵のようなものがある。それがアバターだ。コイマチ1930なる電脳仮想都市サイトがあり、利用者たちは、そこの住人となって、アバターを使い、イベント参加やらショッピング、アバターの着せ替えを楽しむこともできる。
「今日はお時間がおありですか? あなたを招待したくなったの。いらっしゃらない?」
 路面電車は郊外の別荘地についた。湖に臨んだ町だ。コイマチが臨んでいる同名の湖には、テイクアウトのフランス料理店がある。フルコース分のパックを買い込んで、テーブルワインを添えた。このあたりは無料だ。大概は無料でできるのだが、ステイタス的な物件は、動産・不動産を問わずに、課金となる。彼女は、架空動産としてはかなりの高値である五千円近くするヨットクルーザーを所有していた。
 ラウンジのある大理石のオフィスで手続きをした。マイコが水兵のような恰好に着替えた。セラー服ではあるが、スカートではなく、膝くらいまで素脚を隠したパンツで、体育シューズのようなものを吐いている。帽子も特有のものだった。
 僕たちを載せたヨットは、フランスの三色旗のような帆を掲げている。ローマ水道橋にも似た古びたコンクリート桟橋から沖にむって出航した。瑠璃色をした湖面に水面が波打っている。
 湖には、過去に存在したのだが、いまは失われたものなんかが、けっこうあった。例えば湖畔にたたずむいくつかの城だ。琵琶湖に沿岸にあった安土城、霞ケ浦にあった土浦城なんかが、同じ湖に並んでいるのだ。上空には、全長二百メートルを超すツェッペリン伯爵号が悠然と浮かんで、絵になじんでいるのだ。
 操舵室の操舵輪から手を放したマイコは、サイドテーブルに載っている、白ワインの栓を開け、グラスに注ぎ、テイクオフのフレンチ惣菜を皿に移しだした。ヴァイオリン四重奏のBGMが聴こえてくる。何て名前の曲だろう。ぜひ知りたいところだが判らない。
「そうそう、恋太郎君、君って、サラリーマン設定より、学生さんのほうが似合っていて素敵だと思うなあ」
「え、そうなんですか? 判りました。次からはそうします」
 食事の後、二人を乗せたヨットはヨットハーバーに帰港しようとしていた。港に近いところで、旧帝国海軍の飛行艇が、目の前を横切って空に舞い上がった。
「じゃあ」いつのまにやら、和服に着替えていたマイコが手を振った。
「じゃあ」僕も手を振った。
 停車場の左右の路線に、二両の路面電車がやってきた。二人は上り下りの車両に、それぞれ、乗ろうとする刹那、アバターを重ねた口づけした。短い抱擁のあと二人は、諦めたかのように乗車し、デートはお開きになった。夕暮れ。湖畔に臨んだレールの上を路面電車が走ってゆく。
 僕は、電脳仮想都市(コイマチ)にある家に戻った。家の外観は様々で、ウェブマネーで買える。ベニヤ板を打ち付けたような壁の貸家風平屋は、標準仕様だが、夢世界での居処としては安っぽい。そこは奮発して五百円をだして、植民地様式(ベランダハウス)を購入した。
 家屋の周りは、ガーデニングができるスペースがある。ほかに納屋、小さな畑、ドッグランなんかが取り囲んでいた。花や作物を栽培し、牛や羊を飼育して、市場に出荷したり料理をつくって来訪者に振る舞うことができる。また家の中では犬と猫といったペットを飼うことができた。今風の田舎暮らしの仮想体験ができるというわけだ。
 僕は、そこでの出来事をブログに書き、パソコンを立ち下げた。
   ☆
 翌日、日曜日、僕は、仕事の滞在先である外房の町・一宮の海岸線を歩いた。もちろん現実(リア)世界でのことだ。
 波の轟きというものは、けっこう酷いもののはずなのに、あまり気にならない。逆に心地よくすら感じるのは脳が調整しているのだろう。防波堤沿いを少し歩くと、また別の喧騒があった。やたらと高いフェンスがあり、高校生たちがトラックを走ったり、綱引きしていたりしているのが目に入った。
「運動会か」僕は同じころを思いだしてつぶやいた。
 高校生のころの僕というのは、とてもても、ナンパなどできた柄ではなかった。皆が『オクラホマミキサー』の曲にあわせて、フォークダンスをしている中、私がクラスの連中が誰もいなくなった席で、ぽつん、としていると、三人組の女子生徒が前にきて誘ってくれた。お下げの娘、ショートカットの娘、ポニーテールの娘。夏物の体操着で細い身体をつつみ、涼しげにみえる。三美神にたとえてもいいだろう。 私は徹底的にだらしない。余計に恥ずかしくなって、席から逃げ出したところを、丸めたノートで頭を叩かれた。
「情けない。女の子がああいう行動をとったときは、きちんとなさい」そんなふうに注意をされた。

 クラス担任の女性教師だ。西之麻胡にしの・まこという名前だ。全校生徒の憧れの的で、若いときのオードリー・ヘップバーンに、ちょっと、似ていなくもない。あとで知ることになるのだが、たぶんシャネルだろう。オレンジのような匂いの香水をしていた。この人のことはまた機会を改めて話をすることにしよう。



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歩手前ですね。難しい時代ですね。
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