伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 01 セットアップ/ 電脳仮想都市(コイマチ)より
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

01 セットアップ/ 電脳仮想都市(コイマチ)より


 モルタル二階建て、三十世帯が入居している。単身赴任先のアパートは、お世辞にも快適といえるものではない。キッチンは北向き玄関の通路にあり、まな板をまともにおくスペースがない。ユニットバスとトイレ同じルームにあり、どんなに洗ってもわずかに臭気が残る。神経質な人間なら参ってしまうだろう。寝室をかねたリビングは六畳ばかりある。床は、木調のフローリングで、中央に小さなちゃぶ台が置いてある。壁際に、鏡になった扉の洋服ダンスがあり、エアコン、テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機も備えてある。
 ちゃぶ台は背中が痛くなるから椅子付テーブルセットを買った。テーブルはあまり大きくはないのだが、一人ならちょうどいい折り畳み式だ。組になった椅子二つは、一人住まいなのに、いささか皮肉めている。
 悪いことばかりではない。駐車料が無料だった。駅・コンビニ、ドラックストアが近いところにある。それにインターネットの環境が素晴らしくいい。処理速度が速くて快適だった。料金は、月二千円で使い放題となる。ノートパソコンを開いた僕は、いつものように、スイッチを入れ、起動させた。最近、会員登録した電脳仮想都市・コイマチは、けっこう気に入っていて、ここでの僕は学生の設定だった。
  

 ――仮想電脳都市コイマチでもう一つの人生を送ってみませんか。アンティークな一九三〇年の世界が、きっと、あなたを癒してくれます。さあ、素敵な出会いが待っている街にでかけてみましょう。

 湖に面した都市だ。いくつかの通りがあり、路面電車が繋いでいる。昼の暑さが残る夕暮れ、私が停車場の前を通りかかっとき、緑色をベースに窓の辺りが横一文字の山吹でカラーリングした車両が走ってきたので、ふわり、と乗ってみた。それは、クランクだらけの石畳になった道路の真ん中を走ってゆく。小京都といわれる古い街並み。赤煉瓦の銀色のアーケード街には、銀行、本屋、時計屋が続き、それに江戸時代の蔵を改装した薬局なんかがある。繁華街でももっとも賑やかなデパートが建ち並んだあたりを抜けたときのことだ。時計のあるアールデコ様式をした五階建ての三ツ星百貨店前停車場にきたときのことだ。座った席の前に和服の女性が摺り皮をつかんで立った。
「どうぞ」僕がいった。
「ありがとう」女性が座った。彼女は、艶やかな装いで、独特の髪飾りをしている。
「あのお、舞妓さんですか?」
「ええ、そうです。学生さんですね? お名前は?」
「恋太郎です。舞妓さんは、これからお座敷ですか?」
「もちろん」舞妓さんは上目づかいで、くすくす、笑った。
「優雅に舞われるのでしょうね。いつか観てみたいものです」
「お稼ぎなさいな。ごひいきにね」
「はい、がんばります」
 舞妓は、楼閣のような三層からなる、黒い板を貼った壁の料亭のところで降りた。路面電車が走り出す。僕は、街並みの景観に溶け込んで小さくなりゆく舞妓が料亭の暖簾をくぐって消えるまで目で追いかけた。
 半月くらい経っただろうか。設定をもうちょっと大人にして、新卒のサラリーマンにしてみた。学校を卒業したての自分を演じてみたくなったのだ。
得意先を接待する上司のお供をして、あの三層の楼閣である料亭の暖簾をくぐることになった。名刺を交換し先方の杯につぎ、ついで、こちらの杯につがれるまま、蔵出しの地酒を喉へ流し込む。ほろ酔いになった頃、艶やかな緑色の舞妓が座敷に入ってきた。
「あっ、学生のとき、あなたと、路面電車で話したことがあります」
「ああ、あのときの」
 舞いの合間に、得意先の重役と上司に冷やかされながら、また杯に酒を注がれた。やがて宴が終わり、三階の欄干で涼んでいると、その人が頼んだ車に乗って帰ってゆくのがみえた。
スポンサーサイト

theme : 自作小説(ファンタジー)
genre : 小説・文学

line

comment

Secret

No title

バーチャル・リアリティですか。

大昔、シムシティで遊んだことが有ります。Wランクポチ。
line
line

line
Google ペイジランク
ページランク-ナビ
line
奄美剣星
line
文鳥貴族
文鳥貴族
line
最新記事
line
「怪盗めろん」

 

line
「文鳥王トリスタン」
 
line
ブクログ
line
小説家になろう
line
amazon書籍
line
アルパカ版の恋太郎です
line
映画『副王家の人々』より
副王家の一族 
line
イアリング
 ekubo
line
チャイナドレス
chainadoress
line
ポーズ
sofa
line
魯迅記念博物館
inu
line
陽だまりの乙女
usagi
line
裸婦
うつぶせのジャスミン
line
sakasu
line
打ち上げ花火をあげられる四季の風景時計
line
PC広告Amazon
line
テーブルと椅子
椅子3   
line
sub_line
プロフィール

奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)

Author:奄美剣星 (狼皮のスイーツマン)
1930年前後の歴史推理小説 シナモンと素敵な旅をどうぞ

line
ranking 1
 
line
ranking 2
人気ブログランキングへ
line
置手紙
おきてがみ     
line
Twitter ぼたん
Sweetsman7をフォローしましょう
line
レッドバロン
line
検索フォーム
line
QRコード
QRコード
line
所収作品について
文献・画像等引用の場合は引用元を記載。自作小説倶楽部作品著作権は各著者に帰属。それ以外の文藝作品・絵画写真画像に関する諸権利は当該ブログ管理人に帰属。無断複写転載を禁じます。
line
カジュアルのシナモン
シナモンアップ 
line
リンク
line
マラッカ要塞
marakka
line
珈琲館の割れ甕
城南
line
地図
line
草原の乙女
sougenn
line
バー
eruhurio  
line
海へ行こう
umiheyuku2
line
祖母
  umiheyuku 1
line
洗い髪
araigami
line
癒しの音楽
line
sub_line