伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第2章03/ファア王国志 『援軍』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第2章03/ファア王国志 『援軍』

 ファア王国国王の下には三つの国権機構が存在していた。首席が国王顧問である国師(モスタシャル)、第二席と第三席とに宰相(ブライッサ)執政(コンスラル)が配置されている。いずれも王族系の大貴族(タンマビル)から選ばれる。国師(モスタシャル)はスコルル家、宰相(ブライッサ)執政(コンスラル)はダフェアト家から輩出されるのが慣例となっていた。
 ジーン侯国が大軍を率いて南下しているとの知らせを受けた国王タミルは、
執政(コンスラル)に四万の国軍を増派することを命じた。執政(コンスラル)は国防大臣であり、国王親征のとき以外は、動員された国軍全軍の指揮をとる。その職務にあったシュナ・ダフェアトという人物は、タミル王の弟ジェンセヤを快く思っていなかった。――というのは、陣形というものをその人が無視し、抜け駆けするように敵軍に突進するのだが、そのくせ華々しい武勲をあげる。このときつられて、自分も超人であると錯覚した若い大貴族の息子たちが、食客門人を引き連れて突入し討死してしまう。他国との小競り合いがあるたび、執政(コンスラル)のところには、一族や、誼を通ずる一門からは不平の嵐のように押し寄せる。抑えるのが容易ではない。ジェンセヤからすれば、勝手に後からついてきて勝手に討死したのだから、迷惑な話である。
 今回の戦いでは、ジェンセヤは
大元帥アル・マリシャルの肩書を授けられ、執政(コンスラル)よりも上位とされた。さらに助言者という名目で、年老いた国師ザムリアルという目付まできている。執政(コンスラル)シュナは思った。
.
 ――王弟とはいえ、あんな若造の風下に置かれるのか! 
主公わがきみは、俺の両手足をがんじがらめにするおつもりなのか?)
.
 悶々としているところに、
国師(モスタシャル)の戦車がやってきた。この時代の大陸カアラにおいて、将校が乗るのは、馬匹二頭ないし四頭立ての戦車が主流だった。騎乗の習慣をもつのは、西辺の草原地帯を疾駆する遊牧民族くらいのもので、くらあぶみといった馬具が発明されておらず、主流ではなかった。中級貴族(フェアレサ)階層以上の将校が戦車に乗り麾下百人の徒士かちを指揮して、同じ構成からなる敵軍と剣戟けんげきを交えるのだ。大貴族(タンマビル)級のそれは四頭だての馬車だ。この時点で象は、王宮庭園「羽林園アリア・ヨシア」に、つがい二頭はいるが、戦地で配備しているのは、ジェンセヤだけだ。国中の、否、大陸カアラで、戦象を配備しているものなどいない。
「卿は百戦錬磨の猛将だということは
大陸カアラに知れ渡っている。じゃが、何分にも、卿は短気だ。ゆえに儂がつけられたというわけじゃ」
(抑えねばならぬのは、
嵐公(ゾヴァア)ではなく、この俺だというのか――)
 ジェンセヤと同じくらいの背丈で、体躯は熊のように丸みをおびている。肥っているのではなく筋肉だった。体中には傷痕が多数あり、彼が歴戦の勇将であることを示していた。
 行軍は、一日一舎(十二キロ)という大原則がある。ファア王国都城テイからジェンセヤのいる
紫荊城エルタソラまでは二十舎を要した。これよりも速く進軍すると体力の弱い兵士が隊伍を脱落してしまうからだ。
 シュナ・ダフェアトが同城に入り、ずかずかと、奥の間へとやってきてジェンセヤと対面するや、麾下に命じ、床に作戦図を示したパネル板を並べ始めた。シュナが率いてきた援軍は四万である。
 
紫荊城エルタソラはなだらかな丘陵地帯の一角に開けた平野にあった。執政(コンスラル)以下の幕僚たちはこう提案した。
「敵と同数の軍勢を揃えました。堅実な布陣をして対峙すればよいでしょう。さすれば、落としどころが生じ、互いに無傷で戦線を離脱できるというものです」
 シュナが、各部隊を示す駒を並べる。
 こういうところは、ジェンセヤは無愛想だ。その案を一蹴して、軍勢を先陣と後陣に分け、先陣を前線に置き、後陣を城の後ろに隠して、敵からみえないようにしておく、というものだった。
「先陣は寡人がとる。後陣は卿がとれ」ジンセヤが、駒の配列を変えた。
 罠を仕掛けるのだ。先陣を前線にだして敵全軍と対峙させ、兵が少ないと思わせておいて敵を誘いだし、城の後ろに隠していた主力の後陣を、敵の横っ腹から襲わせる。一種の挟撃作戦だった。
 前国王の叔父筋である
国師(モスタシャル)ザムリアルは白髭の温厚な老紳だ。「面白い作戦だ。後陣がなくばこの作戦は効を結ばず、先陣は前線に取り残されて壊滅する。執政(コンスラル)シュナ、卿は大元帥アル・マリシャルジェンセヤに頼られておるようじゃな」
 そういう取り成しを受けると、悪い気はしない。丸味を帯びた巨体の
執政(コンスラル)は、「合い判った」と膝を叩き、ジェンセヤの作戦に応じた。国師(モスタシャル)は、目付というより、性格の異なる甥ジェンセヤと、有力貴族シュナの仲をとりもつために、国王タミルに頼まれ出陣したのだ。
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