伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1章16/ファア王国志・嵐公編 『常世の船』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第1章16/ファア王国志・嵐公編 『常世の船』

 揚羽蝶の群れが岩屋を舞い、そのうちの何羽かが、寝台とそこで逢瀬をしている二人の身体に、舞い降りては、飛び立つということを繰り返していた。
 営みを通しての記憶の共有。芸当というよりは体質をもつのも異能者である。ガゼムにはそういう素質の者が多いのだが、丸耳族であるはずのジェンセヤがガゼム的な能力を持っているのは、騎上位になって腰をくならせている女王ディル・ウィスにとっても不思議に思えた。
「子種は効率よく戴くわ。特殊な容器に入れて凍らせ、必要に応じて蘇生させ、何度も私の子宮に収める。懐妊するまでね」
 ジェンセヤを長く生かす意志はないらしい。局部麻酔により、彼は疲れるという感覚すらもない。だが生身のままである女王は秘儀に没頭する間、さすがに疲労を覚えたようだ。指を鳴らす。すると隣部屋で控えていた容姿端麗な少年が、ポットを持ってきて、赤い液体を女王の白い肢体にかけてゆくのだ。嫌な匂いだ。鉄分の多い、潮のような匂い。そう血だ。赤いものにまみれながら子種をしぼりだしている図は、怪しくも、おぞましすぎる。
嵐公(ゾヴァア)ジェンセヤ、この血が誰のだか判る? 貴男が助けた奴隷兄妹モルファとスフラ、そのうちの妹スフラのものよ」 
(あの娘を手にかけたのか! 営みの最中にその血を浴びて悦にひたる。人の所業ではない――)
 その最中にけたたましい足音がしていた。
「女王陛下はいずこに――」
 ガゼムの近衛兵が部屋の中に飛び込んできた。「巨象が、白い奴が王宮に突入してきました。矢も槍も歯が立ちません。女王陛下音自らの采配を願います」そう叫んでから、「かようなときに、なんということを……」と罵るようにいった。
「ガゼムと超人による新人類の創世。意味を理解しておらぬようだな。国家などというものはまた造れるが、この営みは、
強面こわおもての大神が、稀に微笑んだ瞬間。邪魔だてするというのか?」
「王国の戦士たちが、仲間たちが多く生命を落としています。それでも、そんなことを続けるというのですか? やめぬのなら、貴女はもう女王ではない」
 近衛兵は抜身の青銅剣をかざして、女王の背中を一突きにせんと駆けだした。刹那、揚羽蝶の幻を投影していた、球状の機械から閃光が走り、寝台に達する直前で突っ伏したのだった。
(むごい――)
 地響きがなり、
(マルク)王象(アルシーダ)が、岩屋の扉を粉砕して、突入してきた。ジェンセヤに、戦場で宿る修羅が舞い降りてきた。麻酔が解けたわけではないため、四肢は動かぬのだが、精神世界という深淵な海の海面に、強烈な渦が巻き起こりだした。
.
 きゃあああ……。
.
 女王はしたたか悲鳴を挙げた。魂が奥底に呑みこまれていったからだ。五体がばらかるような痛みが走る。彼女が少年たちに命じて殺させた少女たちの、怨嗟の声が訊こえてくるではないか。鈍器で体中をいたぶられると同時に、息ができない感覚。窒息するようで死ぬでもない、そんな重圧的な痛みを全身に受けた。
    ☆
 夕暮れの渚である。大きな帆船が入り江にあり、そこから降ろされた小舟がやってくる。奴隷兄妹モルファとスフラ。兄は浜辺に立ち、妹が小舟を漕いでいる。小舟にモルファが乗り込むと、手を振る巨躯の戦士が目に映る。
「私は死んだのか?」
 ファアの王弟がうなづいた。
 ジェンセヤ、モルファ・スフラ兄妹の三人は穏やかな顔だ。女王ディル・ウィスに対して怒りのエナジーを発するということをしていない。
「私を許すというの?」
モルファ・スフラ兄妹もうなづいた。ジェンセヤが続ける。
「そなたのあらゆる所業は、孔が空き、彷徨うような魂のなすところにあった。居場所がなかったのだな。彼らとともに、『常世の国』へとゆくがよい」
「貴男は?」
「待っている者がいる。だから後すこしだけ
現世うつつよに残ろうと思う」
「そう……」
 女王ディル・ウィスは、迷子になった幼子のような顔をしていたのだが、ジェンセヤの胸元に頬を寄せると安堵の表情を浮かべ、「もう少しだけ、ここにいてもいい?」ささやいた。
「君が望むのであれば……」
 兄妹は二人に一礼すると小舟を沖に漕ぎだし、沖合の大船に回収された。大船は沈む太陽を追いかけるように海の彼方に消えて行った。
     ☆
 
小酒仙(シェレバ・ソピア) が天使マラーキと名付けた機械蜻蛉が、女王を守護する球状機械と赤い光線による撃ちあいをしだす。天使マラーキは動きが俊敏で、その差が相手を撃墜させるに至った。
 寝台に正座した格好の女王ディル・ウィスは黒ずんで、炭のようになり、岩屋にふいてきた涼風が、灰塵にして五体の原形をなくしてしまった。女王による子種獲得のための共寝から発した偶発的な精神戦で、命数というべきか、生体エナジーというべきか、そういうものを使い果たしたのだ。もちろん、残っている横たわるジェンセヤもただでは済まない。
 突入してきた
(マルク)王象(アルシーダ)の背から女戦士二人が飛び降りてきた。小酒仙(シェレバ・ソピア) がジェンセヤの服をみつけて、身体にかけてやる。女戦士エラマ・ゾニアが脈をとると、「息がない」と横にかぶりを振った。すると代わってその人が男の胸に自らの胸を重ねた。
「私の生命の半分をあげる。二百年。貴男のいない時は長過ぎるから――」
するとどうだろう、血の気を失っていた彼の顔に赤みがさしてきたではないか。
女戦士エラマ・ゾニアが感嘆の声をあげた。
純血(ノピア)ガゼムには、自らの寿命を削って相手に贈るという奥義が伝わっているという噂を訊いたことがある。本当だったのか!」
 ジェンセヤは、少年少女の奴隷たちを解放しテミール王国の自由民として取り次ぎすることにした。生き残ったガゼムの者たちを率い、旧ガゼムのセボレネスのもとに帰った。その中に、「黒衣の貴紳」宮宰マグウがいないことを
小酒仙(シェレバ・ソピア)は危惧したのだった。 

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