伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1章10/ファア王国志 『女王ディル・ウィス』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第1章10/ファア王国志 『女王ディル・ウィス』


 水銀というのは、熱すると赤色になり、また熱すると銀色になる、ということを繰り返す。コップのような形をした素焼きの土器をしているのが坩堝るつぼである。これに液体化した金属を溶鉱炉から流し込むのだ。
女王ディル・ウィスは腰のところまで髪の毛を伸ばしていて王冠を被っている。身長八尺五寸(百七十センチ)。この氏族全般にいえるところなのだが、四肢が長く、切れ長の目がやや吊っており、耳が尖っている。
 新ガゼム王国の同名都城。ガゼム氏族特有の岩盤をくり抜いて築かれた街だ。近隣諸国を襲って得た少年奴隷を使役し、王宮も一枚岩をくり抜いた。そこの一隅に、工房があり、忙しそうに少年たちが働いていた。女王は、坩堝るつぼをのぞきこむと、夢見るような瞳となって、「美しい」とつぶやいた。
 すると別棟の工房で爆発が起こり、ディル・ウィスと取り巻きたちが、噴煙がまだあがっている部屋に駆け込むと、実験にあたっていた少年が倒れて死んでいる。膝を折り曲げて床に座り、彼の頭を太腿に載せた。その人は目を細め、「どうしてこんなことに?」と工房にいて無事だった者に訊いた。
「炭と硫黄と硝石を調合して熱したところ爆発したのです」
「炭・硫黄・硝石……」
 夢見るような瞳をした女王は、まるで童女が何かを発見をしたかのように、大きく目を開いた。と同時に嘲笑したのである。
「なんて愚かなの。火薬の調合法だわ」
 そこへ、背の高いガゼム氏族の男が駆け込んできた。
「旧都から三人の男女がこっちにむかっています。セボレネス様の放った刺客かと――」新王国の人々は、ガゼム氏族長セボレネスと彼の治める集落を、旧王・旧王国あるいは旧都と呼んでいた。
「ほおっ。では宴の準備を――。私は肌のお手入れをしておきましょう」
 女王は立ち上がった。爆風で死んだ少年の頭が、鈍い音をたてて、床に叩きつけられる。颯爽とした足取りで浴室にむかうのだった。女王が入浴するとき、決まって、少女一人が殺される。新ガゼム王国が滅ぼした小国の娘たちだ。捕虜となった少年同様に奴隷である。ガゼム氏族が賤民だの丸耳族だのと呼んでいる者たちだ。否、家畜といったほうがよいかもしれない。少女は裸にされ、棺のような形をした箱に押し込められ蓋をされる。蓋には数百本もの針が装着されており、閉めるとそれが刺ささる。流れだした血液は、容器に集めて、山羊乳に混ぜ、入浴剤として浴槽に注がれるのだ。
 浴室も一枚岩の岩盤をくり抜いてできており、床の浴槽も同じく岩盤をくり抜いてできていた。少年に着衣を預け、浴槽につかった。ハミングをはじめた。水面には色とりどりのハイビスカスを浮かんでいる。
 新ガゼムの戦士が彼らをみつけたいきさつはこういうことだ。
     ☆
 草木はほとんどみかけない。乱高下した峻厳な山道である。岩を削って、たわんだ氷河を三人の男女が渡っていると、雷鳥が横切ってゆく。ファアの王族ジェンセヤ、大陸に渡ったガゼム氏族の娘だという小酒仙(シェレバ・ソピア)。それにガゼム氏族長セボレネスの直臣である女戦士エラマ・ゾニアだ。
「なあ、エラマ・ゾニア、カピブ女王の件だが、貴女の通力で術を解くことはできんのか? もともと貴女がかけたものであろう?」
「無理よ。あの術は使命が達成されるまで解けない眠りの術」
「使命が達成される……もしかして初めから俺を利用する気だったのか……」
「われらの『草』は大陸カアラにも放たれている。卿が戦象を求めてファア王国を出立し、南蛮島アフマルに上陸したってことも――」
「新ガゼムの女王暗殺。知りもしない女を闇討ちするのは性分に合わん。できれば腹を割って話し合いたいものだ」
「その点は大丈夫。悪知恵が働く女よ。こちらの動きは察しているだろうし、罠を張っていると思うわよ――それより……」
 エラマ・ゾニアが、目を伏せて顔を赤くした。
「私、人に綺麗だっていわれたの、初めてなんだ。嬉しかった……」
 そういって肩を寄せてきた彼女の後頭部に雪玉が当たる。 小酒仙(シェレバ・ソピア) が投げたのだ。
「くっつき過ぎ」
「妬いてるのか?」
「うるさい」
 美女二人に惚れられるとは光栄なことだ。大陸からきた男がはにかんだ。それにしても罠とはいかなるものか? 南蛮島アフマルは俺を退屈させない。少女のように、雪をぶつけ合っている耳の尖った女二人の後をジェンセヤはにかんだ。
 このとき、前方から、手をつないだ男女二人がこちらにむかって駆けてくるのをみつけた。十五、六の少年と、十二、三歳の少女だった。さらに、後方から、ガゼムの戦士五人が、急ぐでもなく楽しむかのように追いかくるではないか。
「脱走奴隷みたいね」
「同胞を討つのは気分が悪いけど……」
 エラマ・ゾニアが振り向いていうと長弓を構えた。喧嘩していた小酒仙(シェレバ・ソピア)も続く。放たれた二本の矢が追って二人を正確に射抜いた。超人ジェンセヤが駆けだす。丸耳族と呼ばれる普通人ではありえない速度で、その速さはガゼムをも凌駕していた。斬りこんできた彼に抗うのは無駄なことだということを彼らは思い知ることになる。首を跳ねられる瞬間のことではあるが――。
 深手を負いながらもなんと王宮にたどり着いた追っ手の一人は、ジェンセヤたちの、接近を告げて息絶えたのである。
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