伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1章03/ファア王国志 『白き王象』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第1章03/ファア王国志 『白き王象』

 密林には大小の植物がひしめき合っていた。地べたのあたりは、つた横に繁茂している。道はあるのだがすぐに荒れてしまうので、山刀は必需品で、なぎ払いながら前に進んでゆくのだ。遠望した印象とは異なり、地形は平坦ではなく、案外と起伏にとんでいる。
 ファア王国の大使と通訳それに随員六名に、書記官を含む案内役の男たち十名がついた。数頭の山羊を連れている。山羊は食糧にもなるが、途中で獅子に出会ったとき、連れてきた一頭を木に繋いでおくのだ。
生贄いけにえを与えると慣れたもので、道を塞いでいる獅子は、「通っていいぞ」とばかりにあごをしゃくりあげ旅人を通してやる。
 また案内人たちは細い竿をもっている。これは
森竜(ジョモドヤ) に出くわしたときに使う。高速で駆け抜ける大蜥蜴おおとかげの全長は、大人二人を寝かせたほどある。そいつが細道を行く旅人の横槍を衝く形で襲ってくるのだが、彼らは習性を熟知していて、相手が茂みから飛び出してくると、すかさず、ぺん、と横っ腹を衝いてやる。直線的な走行をする奴らめは、微妙に角度を変え、むこう側に消えてゆくのだ。
 一行は蛇行した尾根道を進んでいった。
 途中には、名前を忘れられた石に彫られた古き神々がいた。
つたの絡んだ神像は、立っていたり、倒れていたり、はたまた、小川の浅瀬の渡り場に、浮彫レリーフとなって、来訪者たちを歓待しているかのようである。男神、女神、頭部が、鳥・獣・魚になっている神々もいた。だんだん多くなってきて、祠堂なんかもみかけるようになってきた。高度な石造技術で、今ある部落国家カピブよりも格段に優れた古代文明の痕跡を感じさせた。カピプは木造建造物が盛んだけれども、石造建造物は苦手とみえて皆無といっていいくらいだ。
 ジェンセヤが、通訳の
小酒仙(シェレバ・ソピア)を介して書記官に訊いた。
神都サイヤムに近づいている」
神都サイヤム?」
「失われし帝国フォコダの都。太古、
南蛮島アフマルは世界の中心でした。ここを中心に周辺の島国、大海を渡った大陸カアラ東岸諸国を服属させていたのです」
「なにゆえに滅んだのだ?」
「ボリキャン山の噴火と、それによる飢饉、服属諸国の離反。とどめをさしたのは、海の民サベルバハルの襲来だとされています」
 書記官は細面の青年だ。日焼けしている。茂みが途切れた断崖に立つと、目を細めて、ボリキャン山の麓を指さした。なんと、活火山の麓に都城を建設していたのだ。これではいつ噴火して火砕流に呑まれても不思議ではない。
大陸カアラの常識では考えられない都市計画思想が南蛮島アフマルにはあった。
 偉丈夫の大使が言葉を続けた。
「卿らはフォコダの末裔というわけだな」
「そういうことです」
 野営地としたところは石造の円形劇場だった。中央の広場となったところは木々が茂っているのだが、観客席はやや遠慮がちで、ハイビスカスが群生して咲いている。天人鳥、蜂鳥、揚羽蝶が舞っている。観客席下部は競技場を外周する通路になっていて天井を支える列柱が配置されている。そこから内部へむかうトンネルがいくつも穿たれていた。
 水場の傍には焚火した跡がある。象の捕獲をする者たちは、決まってここで野営するのだろう。天井があるのだから、
テントを張る必要がない。
    ☆
 翌朝、
嵐公(ゾヴァア)ジェンセヤの一行は、案内役の男たちと象の通り道にむかった。象を捕獲するときは、環状に穿った堀・環濠に橋をかけ、象がそこを通りかかったとき、橋を壊してしまう。立ち往生しているところで捕縛するのだ。図体の割に象は温厚だ。呑み込みも早く、人間の言葉も理解できる。大抵は、捕獲者たちに説得されて人間の友になるわけだが、中には頑固者もいた。そいつは、ジェンセヤがカピプの都城でみかけたあらゆる象よりも大きい。しかも白かった。
 罠となる環濠のところにくると、そいつは周囲を見渡し、鼻を宙高く持ち上げた次の瞬間、一撃で粉砕。そのまま向きを変えて森の奥に消えた。
(マルク)王象(アルシーダ)! 俺はあいつが欲しい!」
「大使殿、お戻りください」
 ジェンセヤが後を追って駆けでした。通訳と随員たちが後を追った。こんなところで国賓が死んだりしたらただでは済まされない。案内役も血相を変えて、ファアの王弟を追いかけた。密林を駆けてゆくと、
森竜(ジョモドヤ) に出くわしたが、前日の行程で、習性を見切っている。剣を抜いて身のとこで奴の腹を叩き、進路を変えてやる。追いかけてくる連中は、「嵐公(ゾヴァア)ジェンセヤは、確かな自信をもって行動している。けっして無鉄砲ではない。超人的な体力と知力が備わっているだけだ」
 一行はそこでまた信じられないものをみた。野生の象の背中に、跳躍したジェンセヤが、またがったではないか。象は驚き振り落とそうとする。木々の枝を弾き飛ばして、密林の獣道を爆走した。たしかに常人であればできただろう。しかし相手はジェンセヤだ。首筋のあたりまで這っていき、耳元でいった。
「ははは……。すばらしいぞ、
(マルク)王象(アルシーダ)。おまえの名前だ。大陸カアラにこい。一緒なら地の果てまでゆける。冒険をしようじゃないか!」
 その言葉を訊いたのを最後に、従者と案内人たちは、ファアの王弟の姿を見失った。競技場跡の野営地に戻り二日待った。皆が諦めて、引き返そうとしたとき、ひょこり、彼が姿を現らわした。服がほころんで、枝葉葉にぶつけてできたのであろう、小さなかすり傷やら痣やらで、色男が台無しになっている。
「紹介しよう。
(マルク)王象(アルシーダ)。わが友だ」
 カピブ都城の門をくぐったとき、女王ハタ・ファウ以下臣民たちは、象の背に乗って帰ってきた男を目の当たりにして眼をみはった。
(マルク)王象(アルシーダ)は頭脳体格ともに他の象を圧倒している。森の主のような存在としてみられていたのだ。それが、いままで象というものをみたこともないはずの外国人が、瞬く間に手名付けてしまったのだ。
「人たらし、象たらし……」
 書記官がつぶやくのを訊いて
小酒仙(シェレバ・ソピア)が微笑んだ。
 このとき、国中に巡らせた
狼煙台のろしだいの東から、国境に攻め寄せる敵の存在を報せる煙が上がった。南蛮島アフマル最大の王国テミールの軍勢六千という数を告げいていた。
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