伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第5章06・完結/猫探偵アンジー 『昇天』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第5章06・完結/猫探偵アンジー 『昇天』



 翌年初夏の日曜日、アメリカ・ニューヨークの摩天楼ひしめくコンクリートの森のようなところである。高天原家が経営している商社は、そういう高層ビルの一つにワンフロアを借りてオフィスにしていた。
 居処としているところも比較的近いところにある高僧マンションで、秘書として雇った渡辺葵も地上五十階の隣室に住んでいる。ベランダのある見晴らしがいい部屋だ。
 休暇をとった婦警・樋口水穂は、近しい友人になった渡辺葵のもとを訪ねた。水穂がくるというので、高天原家の令嬢も、葵の部屋にやってきた。高天原ミカは相変わらずゴスロリ衣装。ロングヘアの水穂とショートヘアの葵の二人は、こざっぱりしたブラウス姿だ。
 バルコニーには丸いテーブルがあり、紅茶とスコーンが置いてある。水穂は、玄関に現れたエジプシャンマウに、「お久しぶりね、アンジー」と声を弾ませていい抱き上げたのだが、すぐに三人娘は久しぶりの再会を喜びあって、話に花を咲かせた。猫は迷惑そうな様子だ。しばらく、飼い主である葵の足元にいたのだが、飽きたようだ。なにを思ったのか、ふっ、と欄干に飛び上った。
 ティーカップ片手に、話し込んでいた三人が、「あっ」と声を上げた。ビル街特有の突風が上昇気流となってきたのだ。
 宙に浮いたような……。彼は、まさに、そういう感覚を味わっていた。居心地の悪い部屋だった。彼は舞い上がった。着地するべき地面ははるか下だ。百メートルはあるだろうか。動く車がやたらに小さい。
 アンジーは、スカイダイビングで、パラシュートを開くまでの間、ムササビみたいに四肢を思いっきり伸ばして落ちてゆくのを楽しむ。そういうような態勢をとっていた。下の階のベランダには親子がいて目を丸くしている。ママと坊ちゃんだ。
.
 "Nice to meet you!"
 (ごきげんよう!)
.
 遠くにはブロンズでできた大柄な娘が立っているのがみえた。人間ならこういうとき失神しているだろう。猫になった彼は、リラックスしたもので、こんな具合に声すらかけている。
「やあ、お嬢さん、女神なんだってね。いつも片手をあげていて疲れないかい? おすまししてないで笑うといいよ。そしたら葵といい勝負だ」
 道路が大きくなってきた。街路樹がみえる。ふと、見上げると、ベランダに三人娘が並んでこっちをみているのがみえた。もう点に近いほどに小さくなっている。しかし、なぜだか、識別することができる。
「生きてりゃ、いつかは死ぬもんだ」アンジーは、ボールのように身体を丸めた。
 一瞬、時間が停まったように感じた。『不思議の国のアリス』のような恰好をした童女が、ふわり、と宙に浮いているではないか。猫の中に封印されていた風間淳の記憶が蘇る。
「なあ、ミカ。いつも不思議に思っていたんだけれど、ほんと、君は何者なんだね?」
.
"I am Archangel named Michael."
(名前はミカエル。天使《アークエンジェル》……)
.
 そういった童女の後頭部には後光がさし、背中には白鳥のような大きな翼があるではないか。豹柄の毛並をした耳の大きな猫は首をかしげた。
「なるほど、お迎えにきたってわけか? 俺はなすべきとはした。満足だ」
 天使はその質問には答えずに用件を伝えた。
.
 "God said in the following manner. Aoi is a spineless dumb in clunker. "
(神様がいわれたの。葵はドジで、間抜けで、弱弱しいって)
.
「毒舌だね……。で?」
.
  "So you should keep."
 (もう少し、彼女を守ってやりなさい)
.
 ミカエルは、欧風の女性がする古風な挨拶「カーテシー」をした。スカートの両裾を軽くつまんでするものだ。その際、首をかしげ、微笑みすらした。
身体を丸くした猫は、植え込みをクッションにした。枝葉が弾け飛ぶ。
 歩道に野次馬が集まってきた。人の群れを押しのけて葵が、続いて水穂が駆け寄ってきた。葵が植え込みで血だらけになった猫を抱き上げた。
(揺らすなよ、それなりに深手なんだ)
 水穂が信じられないという顔をして、「生きてる」と叫んだ。ちょっと、笑みが混ざっている。そして、こう続けた。
「いったい君って、何者なの?」
.
 ――俺かい? 猫だよ。
.
 しばらく前にみたテレビで猫を扱った特集があった。ニューヨーク・高層マンション住人たちの飼う猫が、べランダから落ちる事故が増えているのだという。百メートル以上もの高さからだ。だが、深手は負うものの、生還するケースも多いらしい。
(了)
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genre : 小説・文学

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