伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 恋太郎白書 第6話「桜の下の王子様」
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

恋太郎白書 第6話「桜の下の王子様」

 むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。
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 恋太郎の故郷には、〝丘ノ上病院〟がある。セピアブラックの屋根、あせたピンク色の壁、クリームグリーンの梁と柱でできている。木造二階で、名前の通り丘の上にある。
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 町の住人は、ここで産湯をつかり、診察をうけ、生涯を終えた。恋太郎の父親や恋太郎が生まれたのも、祖父母が息を引き取ったのも〝丘ノ上病院〟だった。
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 恋太郎の父親が胃を患って入院した。恋太郎は小学校の帰り道に、三百メートル離れた病院に立ち寄ったものだった。
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 恋太郎が毎日通っているうちに、肺炎にかかってしまうという問題が生じた。医者の話しによると、院内感染とのこと。今なら報道されて騒ぎになるだろうからのどかなものだ。
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  ※  ※  ※
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 恋太郎は入院し、〝子供部屋〟と呼ばれる六人部屋に通された。先住者は四人おり、全員が同じくらいの少年で、すぐ友達になった。
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 四人にとって病院は格好の遊び場だった。あらゆるものが板張りでできた階段、待合室、廊下。四人は病院中を駆けずり回って、看護士に注意されたものだ。 

 ──あなたたち、病人なんだからね。判ってる? 
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 桜の季節、あいていた六っつめのベッドに最後の住人、小学校に入ったかどうかという少女がやってきた。恋太郎たちと駆け回るほどの体力はなく、窓際のベッドから桜の花ばかりみていたので、仮に桜と呼ぶことにする。
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  ※  ※  ※
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 手術が終わって経過が良好な恋太郎の父親が、車椅子をつかって、恋太郎の部屋を訪ねてきた。
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〝子供部屋〟には、桜と、桜の母親だけがいて、世間話をしていた。
「かわいい娘さんですね」
「ありがとうございます。恋太郎君のお父さんですね」
「はい」
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 恋太郎の父親は、桜のベッドの横のサイドテーブルに、ドイツ語でつづられた診断書が置いてあるのをみつけた。 看護士が忘れていったものだ。
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 昔の医者はドイツ語で診断書を書いていたもので、普通の人は読めないかったのだが、恋太郎の父親は、学生時代、第二外国語でドイツ語をとっていたため、専門用語が多いカルテでも、大まかに文意を理解することができた。
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 恋太郎が帰ってくるなり父親は、
「桜ちゃんに絵本を読んでやれ」
 といった。
 桜の母親は恐縮していたのだけれども、
「こいつも勉強になりますから──」
 という言葉に押されて了解した。
 恋太郎が読んだのは、『桜の下の王子様』という絵本だった。
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 ※  ※  ※
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 昔、丘の上のお城に住んでいる可愛いお姫様がおりました。
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 ある日、おやつの時間。お姫様が、片手に盛った桜ん坊を食べようとしたとき、一つが地面に落ちて転がってしまい泣き出しました。
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 ところがどうでしょう、転がり落ちた桜ん坊から芽がでて、お姫様が美しく成長したころ、立派な木になって、桜ん坊が実るようになりました。
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 さらに何年かして、桜の木に見慣れない馬が繋がれていたました。そうです、素敵な王子様が、結婚を申し込みにきたのです。
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  ※  ※  ※
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 桜は恋太郎が絵本を読んでくれたので満足の様子。
「また読んでね、お兄ちゃん」
「いいよ、明日また違う本を読んでやるよ」
 恋太郎は妹ができたようで悪い気はしなかった。桜が笑った。だから恋太郎も笑った。
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 翌朝。 恋太郎が目を覚ますと桜はいなかった。廊下に出ようとすると、看護士たちの声がしていた。
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 ──桜ちゃん、偉かったわね。幼いなりに、迫り来る〝死〟を受け止めていたのね。
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 ──それにしても急すぎだわ。夜のうちに様態が急変するなんて。
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 バルコニーには、桜の両親が、娘の亡骸を抱いてすすり泣く姿があった。
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 恋太郎は、〝死〟というものが理解できなかった。好きになった娘が突然いなくなるということは恐怖そのもの。やがては自分もそうなるのだ。
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 火葬場で火にくべられ、煙は星になる──と恋太郎の両親がいうのだが納得できる話しではない。
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  ※  ※  ※
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 桜の死から二十年ほどして恋太郎の父親も〝丘ノ上病院〟で息を引き取った。
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 さらに何年かして病院は統合されて取り壊され、跡地には高級マンションが建てられたのだが、庭の桜樹は残された。
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 恋太郎は、友人や親族の〝死〟の場面のいくつかに接し、死に対する恐怖の感覚が小さくなってきたのは年の功だ。
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 花が咲くころ、恋太郎は、病院跡地を訪れ、桜樹の下に立って絵本の一節を朗読するようにしている。王子様になりそこねたのではあるけれど。

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  ※  ※  ※

せ、先輩、ルパンだあ~っ!

 

 

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comment

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おはようございます

おはよございます。

これもなかなかの掌編ですね。
実体験ですか。
現に幼くしてなくなる子結構いますよね。
何と酷いことかと思います。
恋太郎も衝撃だったでしょうね。
桜の園のように桜の木のみ残されたのですね。

こんばんわ

こんばんわ
だいぶ暖かになったようですね。

スイーツマンさんいつも読んでいただきコメント大変ありがとうございます。
25日午後から3月8日夕ころまで子供の卒業旅行でインドとネパールに一緒に行き、ネットを留守にします。更新もコメントもできませんが帰ってきたらまた始めますのどうかよろしくお願いします。

Re: こんばんわ

了解です。
楽しいご旅行を。

Re: おはようございます

KOZOU 様

お気づきのように、モデルはいらっしゃいます。複数の人物です。病院は実在したものでいまは取り壊されました。著者が、亡くなった場面に出会ったのは幼稚園くらいで、実際には年長の男の子。透けるほどに色白の四肢の切れ長の目をした少年でした。本文同様の光景です。このエピソードに親戚の娘さんが亡くなったときの伝え聴いた話しを織り込んでいます。ほか、モザイクのように実話エピソードを加えましたけれど、絵本だけは私の創作となっています。
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