伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第4章03/猫探偵アンジー 『アンジーの提案』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第4章03/猫探偵アンジー 『アンジーの提案』


 薔薇に水をやっていた高天原ミカが、如雨露を軒先において、自室に戻った。『不思議の国のアリス』のヒロインのような恰好をした童女の部屋は、平屋である高天原家の東奥にある。子供部屋という感じはない。板敷八畳ほどの広さのマジックボード、数冊の書籍が出窓に置いてある。そこのあたりから、猫が鳴いているのを訊いたミカは窓を開けた。ひょい、と豹柄の毛並をした耳の大きな猫・エジプシャンマウが窓枠に飛び乗った。


"What is it, Angie?"

(どうしたの、アンジー?)


「ふと、思いついたんだが、俺も樋口婦警も重大なことを見落としているような気がするんだ」アンジーは座って、ミカの双眼をのぞきこんだ。


 猫が使う鳴き方は単純で、とても、会話をしているような複雑さはない。ミカはアンジーの一挙一動を観察しているようだ。ゼスチャーから読み取っているのかというと、そればかりでもないようだ。どうも猫の心・思考というものを読んでいるらしい。テレパシーという奴だ。


"Are you serious oversight?"
(重大な見落とし?)


「三つばかりある。第一点が、松永翁が生きているか否か、消息をたどっていない。同じことが第二点でもいえる。吉沢老人がほんとうに死んだのか、消息をたどっていない」


"The old man, Yoshizawa. Supposed to be dead of natural causes at the University Hospital. Because Mr. Mizuho, I have a little bit of dying before your visit, I should have participated in the funeral."
(吉沢翁は確かに大学病院で老衰のため死んだはず。水穂さんだって、ご臨終の少し前にお見舞いしているし、葬儀にも参加しているはずよ)


「松永翁と吉沢翁が同一人物ということもありうる。一連の事件に関わってきた黒幕というのが老人ばかりだというのが引っかかる。松永翁の住所、吉沢老人が戸籍上でしっかり抹消されているか、病院側の死亡に至るまでの経緯を示したカルテ、松永翁の家族・関係者たちの証言そういったものがまったくない」


"The third point is that?"
(第三点というのは?)


「樋口婦警が調べていた古い資料に写真が載っていた。川島芳子。清朝最後の王女と呼ばれ、第二次世界大戦が終結した直後、中国政府により銃殺された人物。宝石・ダークホープを首飾りにしていた。ここからこんなふうに推測できはしまいか? フランス王家が所有していたホープダイヤは、大革命のあと、二つに割られた。表ルートを渡り歩いたホープダイヤは最終的にスミソニアン博物館で落ち着く。対して裏ルートを渡り歩いたダークホープは、清朝皇族・粛親王家が所有していたのだろう。第四王女・顕が川島家に養女になった際、餞別代りに持たされた……」


"So what?"
(それで?)


長い髪を二つの房に束ねている童女・ミカが小首を傾げた。


「川島芳子から渡辺家に渡る経緯を追うんだ。事件の全容はそこから案外簡単に導き出せるかもしれない」


"After all, we're going to need the cooperation of Mr. Mizuho. Angie, soon, and Takao, we seem to have come I need to talk to her, even that figure is incarnated Jun Kazama"
(やっぱり、水穂さんの協力が必要になってくる。アンジー、そろそろ、貴男が、風間淳が転生した姿だってことを、彼女に話す必要がきたようだわ)


「俺の猫化が進行しているし、葵のアメリカゆきの時間も迫ってきている。仕方がないことだ」


 部屋には学習机というものはない。代わりに低いテーブルがある。カーペットにクッションを敷いて彼女は、ちょこん、と座っていた。近寄ってきたアンジーがノートをのぞきこんだ。足し算引き算という次元ではない。微分積分の計算をしていたのだ。


"Immoral."
(エッチ)


 ノートをのぞきこんだ猫を、真っ赤な顔になったミカが叱った。


「エッチ? その若さで、それだけ高度な数学レベルを持つということは、恥じゃない。むしろ誇るべきことだろう?」


"Not such a problem. That immoral is that of a man who tries to look into the secrets of the girll."
(そういう問題じゃない。女の子の秘密をのぞき込むような男のこと)


「そういうものか?」


"I like that."
(そういうものよ)


 猫を抱き上げた童女は、玄関で靴を履くと、坂道通りを登り始めた。ガレージにミニパトが停まっているのがみえた。水穂が渡辺家にまだいるのを確かめたミカは、背伸びして門のインターホンを鳴らした。


 (つづく)
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