伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 日記/渚のまなざしは鉛色
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

日記/渚のまなざしは鉛色


 日曜日に上総一宮近くの赴任先に引っ越した。その日は雨だったので野外調査の中止を会社や外部の関係者にし、ついでに有給休暇とした。私が勤めているのは民間遺跡発掘会社だ。一か月半の内業があけ、駅から南に二十キロ弱下ったあたりで外業を始めたところだ。

 十一月第二週の火曜日は雨。朝からの豪雨がいくぶん弱くなった午後一時半、私は愛車ホンダFitを走らせてみた。走行距離十四万キロになった白い奴だ。

 地図上では、アパートに近いところにレストランがあるのだが潰れていた。仕方なく駅前商店街をジグザグに走る。小さいくせに、シャッターばかりが降りた街だった。踏切を渡って、東にむかい、そこから、九十九里海岸を南にむかう。

 サーファー相手の、ペンション、貸別荘、アパート。サーファーアイテムの店。喫茶店、コンビニ、ファミレス、磯料理の店。気に入った外観のレストランがない。二時半になったらファミレスを除く店は一斉に「準備中」にしてしまうだろう。慌てて海岸に拠ったドライブインに入った。観光バス用の駐車場を備えた三階建てのビル。煉瓦風のタイルを貼り付けてはいるのだが、お世辞にも洒落ているとはいえない。期待せずに入る。店員に、「昼食できますか?」と訊くと、奥へどうぞといわれた。

 大衆食堂風の大部屋、機械的に並べたテーブル。客は私以外では四人の背の高い男たち。三十前後というところで、いかにもサーファーで、いかにも波乗りを終えて変える間際という感じがした。

 窓ばかりは大きく、眼下に海水浴場を見下ろせた。防波堤が砂浜に平行していて、サーファーたちがひしめいているあたりで途切れている。

 相変わらず、空も海も鉛色だ。スーツ着たサーファーたちは、腹ばいになって、防波堤付近まで漕いでゆき、そこから斜めに、S字を描いて、海岸近くまで戻るのだが、砂場には乗り上げない。腰のあたりで、飛び降りるのだ。

 そういう所作を飽くことなく繰り返している。

 注文した刺身盛り合わせ定食を店員が、私のテーブルに運んできた。食べながら、防波堤がつくりだす、二メートルほどの波をみていた。

 窓の外はまた豪雨になっている。サーファーの数は減らない。

 店内で食事を終え、缶ビールを口にしていた連中の一人がいった。

「いい波だ。もういっちょ、乗ってくか――」

 夏ならこのあたりの海水浴場は、家族連れや、若い男女で賑わうのだろう。こういう席であれば、望遠レンズのカメラで水着娘を狙って撮影する中年男もいるだろう。だが、砂浜にいるのも男たちばかり。五十名くらいいるだろうか。店にいる客四人も男たち。窓ガラスの向こうをみる瞳は、恋の眼差しで、波しか追っていない。

 立冬前日、豪雨。九十九里浜の南端にて。
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theme : ミステリ
genre : 小説・文学

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