伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 恋太郎白書 第1話「恋する紅茶の記憶」
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

恋太郎白書 第1話「恋する紅茶の記憶」

 むかし恋をしてはふられてばかりいる若者がおり、人は若者を指差して恋太郎とよんだ。花や紅葉が、はらはら、と宙に漂うかのような若者だった。
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 若者が子供のとき、居間でテレビをみていたらこんな宣伝があった。石造りの城内部のような部屋。ヴィクトリア朝を思わせるドレスの貴婦人がテーブルに置かれた二つのカップに、銀ポットから今にも紅茶を注ごうとする瞬間だ。
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“One, for  you.”(一杯はあなたのために)
“One, for me.”(一杯は私のために)
“And one, for the pot.”(そしてもう一杯はポットのために)
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 若い貴婦人は笑みを浮かべて語りかけてきた。映像は少なからず恋太郎の家族に衝撃を与えた。父親なんぞは、
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 --これが大英帝国の貴婦人というものだ。結婚するならこういう女性を選ぶんだぞ。
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 とあぐらの膝に乗せた息子の頬を指で小突いたものだった。
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  ※  ※  ※
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 成長した若者は、上海にわたって、とある英国女性と親しくなった。二歳年上。(やせれば別だけれども)けっして美人というわけではない。セアラとでもしておこう。セアラに誘われて恋太郎は一緒に中国語を勉強したり、絵を描いたりした。
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 ハンガリーの男は、「セクスフレンドだろ」と歯に衣を着せない。悪くはない。なのに官能的要素をセアラにみいだすことはできなかった。
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 セアラの感性は独特だった。恋太郎が自作のスケッチをみせるとよくほめてくれ、翌日、自分でも描いてきて恋太郎にみせた。スケッチブックに公園を描いたセアラの絵。大衆が楽しげに太極拳に興じている。青をベースにし、アウトサイダーアートのようだった。
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 セアラとダンスした。ソーシャルにはならず、けっきょく、チークダンスになってしまう。恋太郎はセアラの豊か過ぎる胸に抱かれて、官能よりもむしろ安らぎを感じた。
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 水を差すように、ダンスホールの横にいた若禿げのドイツ人が、貴公子然とペアの女性をエスコートして、恋太郎たちを弾き飛ばした。
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 セアラは中国語の習得が遅い。
 なにをやらせてもさまにならない。なのに、知性と優美さを感じたものだった。彼女には、なにか、歴史めいた風格があり、恋太郎はある日きいてみた。
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「郷紳(ジェントリー)の家系だね?」
「ええ」
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 滅び行く古い家。そういう家のしきたりに育つと、優美となる反面、孤立する場合がある。見知らぬ誰かが家族のことをきいてきたとしよう。うかつに正直に話せば、いらぬ嫉妬やら、反感をかうのだ。セアラは孤立していた。
 恋太郎の生家も落ちぶれてはいたが地方の旧家。恋太郎は同じにおいをセアラに感じた。
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 --似たもの同士だから、告白してみよう。けっこういいカップルになるかもしれない。
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 結果は失敗。恋太郎はルーズだ。時間の約束をよく破る。セアラは叱るということは一度もなかったのだけれども、物静かに忠告したものだった。
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 --あなたの感性は画家。リアルな社会から隔絶されていて、私のとは違うの。
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 それでも友達として続いていた。恋太郎にはやがて中国娘の恋人ができた。コンクリートブロックを積み上げて、ところどころをダンボールで補ったような家々が並んでいる。恋人とスラムを歩いていると、セアラが、干されたシーツの向こうを歩いているのが見えた。恋太郎にはセアラのさえないファッションの一部でもめにすれば、セアラと認識できた。灰色の靴、くすんだピンク色の服、べっ甲の櫛。
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「セアラ!」
「なあに、恋太郎?」
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 セアラは路上に片手をついて、ゆらゆら、春の陽だまりに揺れる干されたシーツの下から、顔をのぞかせ微笑んでくれた。
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 帰国してから、恋太郎は考えた。自分は、まったく男として認識されていなかったのではなかろうか。ポジティブに考えてみても、できの悪い可愛い弟、といった感覚だったのだろう。恋太郎はさらに考えた。どうやら世の中には、(そんな男女の「愛のかたち」というのも存在するらしい)ということを。
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  ※  ※  ※
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“One, for  you.”(一杯はあなたのために)
“One, for me.”(一杯は私のために)
“And one,  for the pot.”(そしてもう一杯はポットのために)



  ※  ※  ※

せ、先輩、ルパンだあ~っ!

 

 

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おはようございます

おはようございます。
こちらは気づきませんでした。

恋太郎さんには前身があったのですね。
納得です。
スイーツマンさんのほろ苦いセーシュンなのですね。
イギリス女性、セアラサンの感じはよく出ていますね。
ヤンキー娘とは全然違った感じを受けますね。
さすがかなりもてられたようですね(*^_^*)

Re: おはようございます

 匿名セアラ。おっしゃるように実在した憧れの英国郷紳家系女性でした。ここでのエピソードは忠実な描写です。(爆)

 謙遜抜きで、もてたわけではありません。
 分身となります、もてないロマンチストタイプ恋太郎というキャラをつかっての〝あおはる〟掌編オムニバスをやっていこうと思います。
(好みは分かれるようです)

No title

世の中にはそういう形も、けっこう存在するような気がしますね。
One, for Fujiko.One, for Lupin .←の関係も、それに近いのではないでしょうか。。。^^

Re: No title

共感いただけて嬉しいです。

> 世の中にはそういう形も、けっこう存在するような気がしますね。
> One, for Fujiko. One, for Lupin. ←の関係も、それに近いのではないでしょうか。。。^^

そうですねえ。(笑)

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