伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第1章05/猫探偵アンジー 『致命傷』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第1章05/猫探偵アンジー 『致命傷』



 豹柄の毛並をしたエジプシャンマウは玄関にある置時計をみた。犯人が侵入してきてから十五分が経過している。焦げ茶色をしたジャンパーの男は逃げない――というか、アンジーが逃がさないのだ。犯人に挑み続け、格闘することによって、警察が踏み込んできて現行犯逮捕することを狙っている。それまでの時間稼ぎなのだ。

 バタフライナイフは危険だ。アンジーは犯人とにらみ合う形で、シャーッ、と威嚇しながら壁際を慎重に迂回し、顔に跳びかかるかと思いきや、不意を衝いて、脚に鋭い爪の一撃を加えて離脱した。犯人は血だらけではあるのだが、致命傷ではない。「うわっ」、「畜生」、「痛え」といった悲鳴をあげても突っ伏すことはなかった。

(猫の限界というものか――いや戦法が悪い。俺もまだまだ未熟なものだ)

 考えてみれば腕・脚を、ばらばら、に攻め入る。かすり傷ばかりだ。効果的な作戦は一点集中攻撃だ。脚なら脚の一点をどこまでも爪で抉ってゆく。そして一撃で相手を潰すのであれば目を狙うことだ。鋭い爪でそこを狙えば犯人はもはや身動きができない。

 廊下のむこう側に走り抜けたアンジーが、むきを変え、再び犯人との間合いを詰め始めた。猫が頭を低くした。いまにも跳びかからんという態勢だ。脚を狙っているようにもみえる。

 犯人は激怒していた。怒りながら、真っ赤な顔をしていた顔が、だんだん、青筋がたってきている。陶酔状態というのか、無の境地というのか、相手が弱いとみての脅しや、中途半端な怒りというのは判断を惑わせるものである。しかし頭が冷えてゆく感覚の怒りは、相手の動きを注視している。そして、格闘をする道筋というものを、瞬間瞬間に判断させる余裕すらもたせるのだ。

(脚を狙ってくると思わせておいて、顔に跳びかかる。目を潰す気だ。ずる賢い猫だ。そうするに違いない)

 かぶっていた鳥撃帽が落ちた。白くなった頭髪。頂きが禿げている。中背の痩せた男。一重まぶたで口元に皺がある。笑うと人の好さそうな、お爺ちゃんのようにみえるが、独り暮らしの若い女性や、鍵っ子のいる密室になると残虐な牙をむく。ハイエナのような奴だ。

 アンジーは、脚を狙うように、犯人に躍りかかった刹那、顔にむかって跳躍した。「しょせんは畜生の浅知恵だ」男は左腕で目をガードしつつ、ナイフを爪をだしたアンジーの横っ腹に、一撃を食らわした。どさっ、と床に若い雄猫が崩れ落ちる。ナイフは深々と刺さったままだ。

「やった!」犯人も床にへたりこんだ。体力を消耗しきったのだ。

 ようやくパトカーのサイレンが訊こえてきた。四台に制服警官十六名が分乗し、一斉に飛びだしてくると、玄関扉と勝手口から突入してきて、犯人を取り押さえ、「捕獲」といって手錠をかけた。そのうちの一人が、二階で放心している若い娘にいった。婦警である。被害者が女性であるときに備えて、精神的なケアをするという配慮から、チームの中にいたのだ。樋口水穂という。二十六歳になったばかりだ。

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

 婦人警官に声をかけられてから、葵はようやく我に返った。

「アンジーは?」

「あ、あの猫ちゃんですか?」

「ええ」

「玄関で犯人に刺されました」婦人警官は首を横に振って、「犯人のナイフが刺さったまま倒れてます」と答えた。

「え? あっ、いや。また一人にしないで――」

 葵は目を白黒させた。両手で頭を抱えそれから、がっくり、と膝を床に落とした。
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