伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第5章05/全5章完結/探偵キーマン 『シーラカンス』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

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第5章05/全5章完結/探偵キーマン 『シーラカンス』

 「――なるほど、このノートパソコンが大元だったのですね、ヤマザキさん?」

 デスクに上がっていたその蓋を開けたタキシード姿の青年がいった。シーラカンスの化石で飾った木調書斎風の部屋。とある小さな会社の社長室だった。

「福島の『聖域』で死ななかったのね、先生」

「中国共産党幹部の娘。元留学生。ネーティブな日本人以上に流暢な日本語を話す東京銀座高級クラブの元ホステス、考古堂先代社長夫人。元首相の愛人だったこともあるそうですね? ついでに、学生時代は俺の叔父・祁門達雄の恋人だったこともある麗しの工作員……」
 達郎が煙草に火をつけ続けた。「確かに狙撃手との私闘で大怪我をし病院に運ばれましたけれど、致命傷ではなかった。集中治療室に運ばれた俺は医師に事情を話し、死んだことにしてもらい、その旨を谷津刑事に伝えてもらった」

 ドレスを着て現れた女性がいった。

「パソコンには情報ロックがかかっていたはずよ」

「パスワードは、『tatuo』。かつての恋人の名前だったとは……」

 マダムは悪びれた顔はしていなかった。それからパソコンと同じデスクにあったリモコンスイッチを押した。するとどうだろう。室内が暗くなり、画像を映す球体が、全長一メートルほどの泳ぐ魚を映しだしたではないか。鎧を被ったような重厚な体躯をしている。シーラカンスだ。そこに南米風のけだるい音楽・ボサノバがステレオから流れだしたのだ。

「恐竜の時代からいた魚・シーラカンス。美しい。大好き、だから海のあるところは欲しくて堪らなくなるのよ」マダムは達郎の背に手を回し、「ねえ踊らない、祁門先生?」と誘った。

 二人は手を取りあって踊り始めた。

「狙いはレアアースですか? 中国はコンピューターの心臓部にあるモーターを回す希少土の材質となるそれの九十パーセントを産出する。しかし十五年もすれば枯渇する。ほかに産出するのは、中国からインドにむかうあたり。ネパールは途中にあるから未知の鉱床があってもおかしくない」

 達郎がマダムをターンさせた。

「王制廃止後、王党派の片眼鏡《モノクル》将軍はインドに接近している。彼が王女を担いでネパールの実権を握ると、現政権主要閣僚を占める毛沢東主義者《マオイスト》が一掃されてしまい、レアアース鉱床の採掘権が損なわれる危険がある。そこで王女に刺客を送った――という推理はどうです?」

「上層部の連中が、ネパールを狙うなんてどうかしているわ。尖閣諸島・鳥島・日本海溝……レアアースなんてこの国の周辺海域にいくらでも埋まっているというのにね。こっちを乗っ取ったほうがよっぽど効率的よ。もともとウチの朝貢国だったことだし――」

 シャネル五番の香りがする。リズムの節となるところで、その人が背をのけ反らせた。

「祁門先生、駆けだし三流考古学者だと思っていたら、とんでもない。名探偵ね。私がヤマザキだってこと、どのあたりで気づいたの?」

「香山夫妻の殺人ですよ。私や柏の仔細な動きを知っているのは、奄美さん。だから最初は彼を疑った。だが動機というものがない」
 
「次が私というわけね?」
「はいそうです。福島の実家の蔵を整理しているとき、叔父の遺品に貴女の写真やら恋文が、ネパール関連の資料に混じってあった。貴男は、無関係な某アニメーターのパソコンを乗っ取って、ヤマザキと名乗り、刺客を募った。アメリカコンピュータ会社の草分けであるIBMを買収して以降、中国はサイバー工作機関を強化している。そのくらい朝飯前だ」

 達郎が、マダムに深く口づけしてから、「サイバー犯罪対策課らの報告を織り交ぜると、そういうことですよね、谷津部長刑事《やづ でかちょう》?」

「――そういうことです」

 ドアが開き、部屋のライトがついた。谷津刑事が部下の習志野刑事、それからスパイ狩りの公安警察を引き連れて社長室に踏み込んできた。連行される際、達郎が彼女に訊いた。

「マダム、最後に教えてくれませんか。俺と叔父貴、どっちがよかったですか?」

「貴男って、残酷ね。決まっているでしょ――」マダムは両手を自分の胸に添えて目を閉じた。「叔父様の達雄氏よ。ああ、ほんとによかった。貴男は彼の代用品」

(にゃあ!)若い燕・達郎、心の叫び。
 達郎の叔父・達雄が学生のとき、交際していたマダム。奪ったのは夫人となる女性である。実の娘が男の子の恰好をさせられていた柏だ。病気で彼女が亡くなると、王女に入れ替わった。夫妻の養女は、自分が燕としている、かつての恋人の甥・達郎を奪おうとしていた。恋敵と王女がオーバーラップしてきて憎しみが倍増。祖国の命令もあったのだが、変質者の刺客を募り、執拗に少女を追いかける犯行をしたのは、そこに、一因があったわけだ。
 長身の青年はそう考えた。

     ☆

 社長逮捕により、外国工作機関の隠れ蓑であった有限会社考古堂は廃業した。そのため唯一の正社員であった奄美は他社に転職することになった。口髭の男の趣味はアマチュア小説の執筆で、夜中、近所にある人気のないファミレスでノートパソコンのキーボードをたたいていることがある。その折、カップルというには歳が開きすぎで、父娘というには歳が近すぎる男女をみかけた。

 達郎は、大学非常勤講師から常勤講師に昇格することが決まった。柏は大学キャンパス敷地内にある付属中学校に相変わらず、奄美の娘紗理奈と一緒に通っている。

「ねえねえ、パパ様。どういう女の人がお好み?」

「オッパイがデカい年上女性」

「考古堂のマダムみたいな? パフェをたくさん食べて、脂肪分で巨乳にしたら、厚化粧で対抗しちゃう」

「未成年がやると、腹から第三オッパイが生えてくるぞ」達郎が吸いかけた煙草で咳き込んだ。

「そういえば、保護者の承諾があれば女の子は十六歳で結婚できるのよね? 私の保護者ってパパ様だけ。えへへ、あと三年……」

「誰だ、入れ知恵したのは?」達郎はまた煙草で咳き込んだ。

「学校――」柏はすまし顔だ。

 女性店員がパフェを二つ運んできて、テーブルに置いた。

「パパ様、片眼鏡《モノクル》将軍を前にして、私を一生守るっていってくれたわよね。王女として、騎士《ナイト》のその言葉に期待しちゃうなあ」

「ああ、保護者として当然だろ」

「保護者――すべてを捨てて、貴男についてきたのに、シクシク……」

「泣きまねしても駄目だ。弁護士を通じて亡くなった叔父貴から、柏の大学までの学費まで預かっている。ふつうに進学して、ふつうに就職しろ。結婚話はそれから乗ってやる――さあ、食べよう」

 アーモンド形のアイラインをした少女は、「うん」とうなずき、フォークをパフェのフルーツに刺したのだった。

 祁門達郎は、奥の席でパソコンを打ち込みをしている奄美をみつけ、片目をつぶってみせた。

 奄美は親指をだして挨拶を返した。しばらく、自作のブログ小説ネタに困ることはなさそうだ。



奄美剣星 『探偵キーマン』
 全章完結
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