伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」 第5章終章04/探偵キーマン 『片眼鏡将軍』
 

伯爵令嬢シナモン「飛行船の殺人」

小説、エッセイ、画塾

cinamon B 飛行船シルフィ― cinamon

第5章終章04/探偵キーマン 『片眼鏡将軍』


 英国が、ムガール帝国を滅ぼして、帝都郊外に築いた町がニューデリーで、それ以前の旧市街をオルドデリーという。現在は二つあわせて単にデリーといい、インド共和国の首都になっている。空の玄関口であるインディラ·ガンジー空港は、独立指導者の一人ネール首相の娘で、シーク教徒の護衛警官に暗殺された女性首相の名前を冠している。そこからネパールゆきの飛行機に乗り換えるはずだった。

 ターミナルに出迎えにきたのは片眼鏡《モノクル》の男とネパール国軍の将校たちだった。これをかけるのは貴族趣味で、少なくとも共産主義者《コミュニスト》でないことは確かだ。還暦前後だろうか、恰幅のいい取り巻きに囲まれて、「将軍閣下」と呼ばれていた。自身もかなりの偉丈夫で、頭の頂が剥げている。禿げは貧相の暗喩だが、叩き上げられた者は帝王然とした風格がある。片眼鏡《モノクル》将軍もその一人だった。

 家宰が将軍たちのところに、達郎と柏を連れていった。

「祁門達郎君だね。君の超人ぶりは逐次報告で訊かされている」

 将軍は握手を求めたが達郎は手をさしださなかった。

「貴男と握手はしばらくできそうにない。貴男は、俺の被保護者・柏の仇にあたる」

「ほう、どこまで知っているのだね?」

「貴男は、二〇〇〇年の王族殺害事件で殺されたビレンドラ国王の弟で、その後国王になったギャネンドラの側近だった。先の国王は親印派、後の国王は親中派で、両大国の暗闘が事件の背後にはある。ところが貴男が擁立した後の国王ギャネンドラは、とんでもない暴君で、事件後、数少なく生き残った、ある王族一家を粛清にかけている。王制廃止から六年経った昨年、事件の真相に迫っていた日本人ジャーナリストの夫妻を乗せた旅客機に、時限爆弾を仕掛けた」

「つまり君は私がビレンドラ国王暗殺に関与し、そこにいる王女の両親の粛清、君の叔父祁門達雄氏夫妻の暗殺にも加担したといいたいのだね?」片眼鏡《モノクル》将軍は憮然としていた。

「違いますか? 少なくとも貴男は止めることができる立場にあった。家族が誰もいなくなった王宮に、親の仇に囲まれて、十三歳の少女を、ぽつんと、一人おく? 保護者である俺が容認するとでもお思いですか?」 

「君に、それなりのポストを用意しておく、といったら? 一緒にくるといい」

「貧乏ですが、なんとか彼女を食わせていくくらいならできますよ」

「阻止するといったら?」将軍が指で拳銃の形をつくり、背の高い青年にむけた。

「無駄です。俺は復讐には興味がありません。しかし、いままで、この娘《こ》を守ってきたのは俺ですし、これからもそうです。とても貴男方には任せられない」

「一生守るというのか?」

「もちろんですとも」達郎は、振りむくとアーモンド形のアイラインをした少女の手をとって、「さあ、パフェを食いにゆこう」と、チケットカウンターにむかい成田空港ゆきのキャンセル・チケットを手配した。

 (きゅん)アーモンド・アイの少女十三歳、心の叫び。

 エコノミークラス席だが柏は満足な表情を浮かべ、騎士《ナイト》の腕にもたれかかった。

 将軍が、唖然としている老家宰や取り巻きの将校たちにいった。

「捜していた王女は、すでに前国王に粛清されていた。そこにいたのは一介の日本人旅行者とその被保護者だ。いいな」

 片眼鏡《モノクル》将軍は、(祁門達郎という騎士《ナイト》は、王女を守るためならなんだってしでかす。国王、将軍、ゲリラ指導者……いかな肩書をもとうが無意味。奴を敵にしたらおしまいだ。スーパーマンに倒されても、引き立て役の雑魚になるだけのこと。割が合わぬ)と考えたのだ。取り巻きを率いてすぐさま、乗り継ぎ便であるネパールゆきの飛行機に乗った。

 そして達郎と柏を乗せた旅客機も日本に飛び立った。
「ねえねえ、パパ様、ヤマザキって片眼鏡《モノグル》将軍だったの?」
「同じタイプだが、別な奴だ」
 エコノミー席に、乗務員の女性が紙コップに飲み物を入れて二人に渡した。
   
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